第29話:あちらで戦いが始まったようです。
マグルと念話でやり取りして状況を把握しつつ、俺達は砂煙が上がった方角へと走る。
どうやらマグル達は他の探索者達の悲鳴を聞いて駆け付けたらしく、現在ミズキとカシアで足止めをしながらマグルが負傷した探索者達を退避させているようだ。
手が全く足りていないので、手伝って欲しいとの事だ。
・・・正直な所、負傷しているという探索者連中よりもカシア達の方が心配だ。やわな鍛え方はしていないつもりだが、遭遇したモンスターの情報が圧倒的に足りない。ともかく俺達が合流するまで下手に手出しせず、相手の情報を集める事に専念して欲しい旨をメンバー全員に伝える。後、決して無茶はするなとも。
(あるじは本当に心配性なんだから!これくらい!?)
(カシア、戦ってる最中だから無理に話さなくていい。集中を切らして攻撃を食らったら元も子もない)
(ゴメン、ミズキ姉)
不安を掻き立てる念話が頭に響いてくる。それと同時にさっきよりも大きく感じる地揺れと何かを叩いたような轟音が聞こえて来た。
(状況報告はマグルがしてくれてる。もうじき合流出来るから安全第一で動いてくれ)
俺がそう念話で指示を送る。カシアは突っ込む癖があるからなぁ・・・ミズキが傍でサポートしてるっぽいがそれでも不安は拭えない。心配性ですかね?
人の手が入っていない森を走り抜け・・・本当にここは遺跡の中かよ・・・木々が薙ぎ倒されて出来た空間に辿り着く。
視界が開けたその奥には戦っているカシアとミズキの姿が見える。早速俺はこの惨状を作り上げたであろうモンスターを観察する。
4足歩行の獣型で毛色は黒。大きさは虎を一回り大きくしたくらい。体毛の所々に赤いラインのようなものが走っている。尻尾はトカゲの様に長いがこちらも黒の毛で覆われており、その背には漆黒の翼が生えていて体を丸ごと覆えそうなサイズだ。肝心の頭部は・・・何と表現するべきか・・・狼とワニの様な爬虫類を混ぜた感じで悪魔とかによくある捻じれの強い角が生えている。うんちょっと上手く表現できません。
こちらの数が増えて警戒でもしたのか、その黒いモンスターは一度後ろに大きく跳躍し、緑の濃い茂みの中へと姿を消した。けど、こちらへの視線は切らしていないようで視られている気配がヒシヒシと感じる。
向こうが襲ってこないのを幸いにこちらは合流を果たし、状況の確認をする。
初めに襲われていたのは、男2人女2人の探索者グループ。指輪が赤いので中級者のようだ。この付近でモンスターを狩っていたらしく、突如あの黒いモンスターが襲い掛かってきたという。
咄嗟にそのグループのリーダーが襲われた女探索者を庇ったのだが、その時左腕に噛み付かれ、そのまま食いちぎられたそうだ。
すぐさま撤退を指示し、何度か相手の攻撃をやり過ごしながらここまで後退したのだが、リーダーが相手飛び掛かりを避けきる事が出来ずそのまま抑え込まれてしまったらしい。
リーダーは即座に自身を囮にして残りのメンバーを逃がそうとしたらしいが、そこでカシアが黒いモンスターに飛び掛かったそうだ。
で、カシアの動きに反応した黒いモンスターが飛び退き戦闘を始めた所で、マグルが負傷した男と残りのメンバーを退避させ今に至ると。
「あなた方が襲われた時、あの黒いモンスターの気配は感じなかったのですか?」
カシア達が周囲を警戒してくれている中、俺は襲われた人達に質問をする。仮にも中級者だ、最低限の基礎は身に着けているはず。その人達の警戒網に引っかからなかったのだろうか?
「あぁ・・・あの時襲い掛かってくる瞬間まで何も感じなかった。俺が襲われる瞬間に気づけたのは偶々だ」
腕を食いちぎられたリーダーさんがそう教えてくれる。既に応急処置は済ませ血は止まっているが、早く帰還し真っ当な処置をしなければ危なくなるな。他のメンバー達も大なり小なり負傷している。
「まだ動けそうですか?」
俺はリーダーさんを含め他の面々の顔を見ながらそう尋ねる。
「大丈夫だ。走るのは難しいが動けはする」
これはリーダーさん。
「俺達も大丈夫だ。いける」
残りの男性がそう言い、それに頷く形で女性陣も大丈夫な事を示してくる。よし、俺は即座に決断を下す。
「あの黒いモンスターは俺達が引き受けます。今の内に退避を」
俺がそう言うと女性の探索者さんが慌てて言い返してくる。
「そんな!無理よ!貴方達、見習いじゃない!」
俺らの指輪を見てそう言ってくる。まぁ間違っちゃいないけど、今は時間が惜しい。
「先ほど、彼女達があの黒いモンスターを抑えていたの見ましたよね?俺達は指輪こそ白いですが、皆彼女と同等の実力は持っています」
俺はカシアとミズキの方を見つつそう伝える。まだ何か言いたげだったようだが、リーダーさんがそれを制して俺の方を見ながら聞いて来る。
「・・・いいんだな?」
「お任せを」
俺がそう頷き返した後は早かった。納得のいかない面々を即座に説得し、必ず援軍を連れてくると言い残して撤退していった。
その動きに合わせ、森の奥から追撃しようと気配が動いたが俺達がそれを許さない。俺らの横を通り抜けようとした所を、アルが重そうな盾とランスを構え立ちふさがる・・・ビッグホーンラビットの時もそうだったが、よくそんな重い得物を持ち歩きながら走り回れるもんだ。今やアルもマナを扱えるとは言え、大したものである。
「ここは通さん。気配も消さずに私達の横を抜けられると思うなよ」
アルの口調が変わっている。中々に久しぶりだ。他のメンバーも相手の動きを制限する為、囲いに掛かる。
黒いモンスターは包囲されるのを嫌って、又もや飛び退く。何処か表情が苛立たし気に見えた。
森の奥を移動しながら、赤い目がこちらを伺ってくる。どうやら追撃は諦め、ターゲットはこちらへと切り替わったようだ。
「さて、向こうさんはこっちへと標的を変えたようだぞ。誰が行く?それとも皆で一気に片付けるか?」
俺が皆にそう聞くと、
「はいはい!私が一人でやる!」
元気にカシアが手を挙げてくる。血気盛んですな。
「うーん、あの黒いモンスターの方が格上と思えるが勝算はあるのかな?」
ハッキリと見たわけではないが、これまでの情報を鑑みてそう判断する。カシアの考えはいかに?そう思ってカシアの返答を待っていると、
「ない!でも強い奴と戦いたい!あるじ、だめ?」
ギャース!脳筋発言ありがとうございます!その首を横に倒してからの『だめ?』は中々に破壊力抜群だが、俺は悩殺されんぞ!
おかしい・・・日頃の鍛錬に加えて狩りの仕方というか戦い方はちゃんと教えているはずなのに。どうしてこうなった・・・俺が頭を抱えているとミズキから、
「私からもお願い。危なくなったら手を出すけど、それまではカシアにやらせて欲しい」
・・・セリフと表情がメッチャちぐはぐだぞミズキさん。本人は凄く戦いたそうな表情してるのにセリフは真逆な事を言ってる。さては、カシアと何かあったな?
俺がミズキの顔をジーっと眺めていると目どころか顔事逸らされた・・・慣れない事はするもんじゃないぞ?
俺はミズキから視線を切って今度はアルに問いかける。
「アルはどうしたい?」
「・・・ここで討伐すべき。カシアが単独で戦うのは止めないけど、あの黒いモンスターが逃げたり撤退させたグループを追いかけようとするなら、私は容赦なく仕掛ける」
俺もアレを逃がすつもりは無い。あんなのがゲート付近まで進出してくるとか、今後の行動に支障が出まくる。
俺はこの遺跡とは思えん遺跡をまずは隅々まで歩き探索し見知らぬ植物とか鉱石を採取しながら使い道を考え食材になりそうなモンスターを狩って美味しく調理するというプランがある!俺の探索ライフを邪魔する輩は排除させてもらう。
「よしアレと対峙するのはカシア、サポートにミズキが付いてくれ。俺とマグルとアルは逃走経路の遮断及び追撃の阻止だ」
「がんばる!」
「あぁ・・・私も戦いたい・・・」
「姉がご迷惑をおかけします」
「美味しいといいな」
よしよしカシア、考え無しに突っ込んじゃダメだぞ?ミズキはなんだか知らんがもう諦めろ。マグルには本当に苦労をかける。今後の俺の安寧の為にも出来る限りの事はしてやりたい。アルはあんなに真面目な事を言ったというのに、もはや食い気に思考がシフトしとる・・・フリーダムだな。俺はカシアの頭をナデナデしつつそんな事を思った。
こちらの話し合いが終わった頃、向こうはこちらが動かない事に業を煮やしたのか自ら森の奥から出てきた。
赤い目をギラつかせながら唸り声の発しこちらへと威嚇してくる。その目は全体を警戒しつつも気配を隠していないカシアからは離さない。そう、カシアは俺達が合流する前から既に気配を隠していなかった。
俺が現状で観察した限りでは、あの黒いモンスターはカシアより少し強いかなといった所だ。今ここで残りのメンバーが気配を消すのを止めれば、十中八九アレは逃げようとするだろう。主にミズキの気配で。ミズキの存在を遠くで感じてここまで来た可能性もあるが、目の前にいきなりドラゴンが現れれば大抵の存在はその身が硬直するはずだ。最悪の場合、その一瞬を付いて止めを刺させてもらう。よって気配を消すか最大開放の2択しかできないミズキには最悪の場合を除いて気配を消したままでお願いする。俺は状況に応じて気配を使い分ける事が出来るので、場合によっては俺が場のコントロールを行う。マグルとアルは気配の扱いが最近良くなってきている。相手の動き次第ではこの2人に場のコントロールを任せてもいいかもしれない。
長々と思考に耽ってしまえるくらい、黒いモンスターとカシアは互いに威嚇しあっていた。恐らく俺達が近くにいる事で動くに動けなくなっているのだろう。ハハハ、愚かだなお前?妙なプライドなんて捨てて、俺達が合流した時点で逃げときゃ良かったんだ。
俺が黒いモンスターに見下した気配をぶつけてやるとあからさまに怒りを俺に向けてきた。単純な奴め。俺は周りに目配せするとカシアを一人残す形で散開する。ミズキは念の為俺達より近い位置で待機する感じだ。
俺が離れても黒いモンスターはカシアではなく、俺に注意を向けてきた。おいおい、俺ばっかり気にしてると・・・
瞬間、
打撃音と共に黒いモンスターが吹っ飛ぶ。カシアが隙だらけの奴を殴り飛ばしたのだ。茂みや木々の何本かをブチ折りながら奥へと消えていった・・・言わんこっちゃない。
「私の事、舐め過ぎ」
拳を振り抜いた姿勢でカシアは低い声でそう呟く。こちらもこちらで結構フラストレーションが溜まっていたようだ。
こうしてカシアと黒いモンスターとの戦いが再び始まったのだった。




