第27話:いい勉強になりました。
「アル、どんなもんよ?」
あれから何度かビッグホーンラビットの飛びつきを回避した。瞬発力は中々脅威だが、俺達は避ける事ができている。何も問題は無い。後はあの額に付いてる角に注意し、他に攻撃手段が無いかどうか警戒していれば対処できるはずだ。
「ど、どどどうって事ないよ!」
うん、どうって事あるな。まぁ苦手意識なんてもんはそうそう克服できるもんじゃないしなぁ。完全に腰が引けてる。
「ん~今回は仕方ないか。俺が相手するわ」
「お願いっ!」
声からとっても必死さがビシビシと伝わってくる。よっぽど受け付けないようだ。俺はアルに後ろに下がって警戒してるように指示するとビッグホーンラビットの前に立つ。
「さてと、どうしたもんかな・・・」
改めて相手を観察する。とりあえず素手による格闘は無し。あのフサフサモコモコに埋まってしまう。あぁ・・・エイリアンじゃなくてデカいウサギだったのなら、喜んで抱き付きに行くのに。
俺は何処か残念な気分を引きずりつつ自分の得物である小太刀を引き抜き、全身に行き渡らせているマナの変換量を増やし肉体を強化する。
するとビッグホーンラビットがこちらへの警戒を強め、いつでも飛び出せるぞと言いたげに姿勢を低くした。
けど、俺はそんなのお構いなしにゆっくりと歩きながらビッグホーンラビットへと近づいていく・・・そういや面と向かって戦うのは、アルの武器に対する意識を変える為にやって以来か。基本的に俺は暗殺というか、相手に気づかれないように近づき1撃で仕留めるという戦法を取る。獲物をむやみやたらと苦しませない為というのもあるが、馬鹿正直に真正面から戦うとか体力の無駄使いだ。
そんな事を頭の片隅で考えながらビッグホーンラビットとの距離を詰めていくと、突如ノーモーションで何かを飛ばしてきた!
若干反応は遅れたが、想定の範囲内だ。紙一重・・・は危ないから体一つ分多めに避ける。その直後、背後でジュゥゥッと物が溶ける音が聞こえて来る。おっかな!
ビッグホーンラビットは避けられるとは考えていなかったのか、一時的に動きが止まった。止まってしまった。そこで即座に距離を取っていれば、違う未来があったかもしれない。
俺はそんな致命的なスキを見逃してやるつもりは無かった。故に残りの距離を踏み込みで即座に潰し、踏み込んだ勢いをそのまま利用して相手の頭と胴体を分断した。
痛みも無く悲鳴を上げる暇さえ与えなかったつもりだ。斬り付けたと同時にビッグホーンラビットの後ろへと抜け、即座に相手へと振り向く。丁度、頭が胴体から離れ落ちる瞬間だったようでズルリと頭が滑り落ちるのに合わせて大量の血が噴き出す。
ビッグホーンラビットがキッチリお亡くなりになった事を見届けた後、小太刀をしまいつつ奥の方へ目をやると、胴体から噴き出る血の噴水の向こう側でアルがあんぐりと口を開けているのが目に入った。
「どしたアル。変な顔になってるぞ」
俺はアルに近づきながら見た通りの感想を言う。
「・・・はっ!?え?キョウ、今何やったの?」
おぉう、スルーされた・・・そんなに驚く事だろうか。
「え?近づいて頭を斬り飛ばしただけだけど」
あ、あれ?アルが何か頭抱えだしたぞ。
「キョウが馬鹿力なのは知ってたけど、まさかこんなに出鱈目だったなんて」
「失礼な!これくらいやろうと思えば、アルだって出来るだろ?」
「出来んわ!攻撃力だけはどうにかなっても、目にも止まらない速さで動いて且つ正確なポイントに攻撃するとか出来んわ!」
「え~・・・マナで思考速度を増幅しつつ、肉体全体の反射速度も上げればいけるぞ?」
「簡単な事の様に言うな~!急激に向上した肉体能力に対して、瞬時に思考速度と反射速度のピントを合わせるとか無理!」
「そこはもう慣れだよ。俺だって最初は向上した肉体能力に振り回されたけど、何度も練習したら出来るようになったから大丈夫だ!」
アルがこの世のものとは思えない者を見ましたと言うような表情で俺を見ている。いやまぁ確かに異世界人ですが・・・その表情はちょっと傷つくぞ。え~っと、あの時はどんな練習してたっけかな・・・具体的な練習方法を教えれば分かってくれるはず!
「あれだ!木を揺すって落ちてきた葉っぱを全てキャッチしたり、反復横跳びを高速で行ったり、雨粒の数を数えながらカウントした雨粒を指で突いたりしてれば・・・ほら!」
ドヤ顔でアルに説明する。どうだ!これなら出来そうじゃね?んん?なんかアルが無表情になって遠くを見つめだした。コラ、現実逃避すんな!
「クッソー!後で今言った練習で出来るようになるって事を証明してやるんだからな!覚えてろ~」
俺はどっかの小者が言いそうなセリフを吐いた後、血の噴出が止まったビッグホーンラビットの回収作業に取り掛かる。
この場で解体せずバックパックに格納して持ち帰れば、バンク内に居る解体専用のゴーレムさんが手早く処理してくれるそうだ。しかも無料で。
というわけで、早速バックパックに入れてみよう。明らかに収納口と獲物のサイズが合ってないんだが、本当に入るのかこれ。貸し出された採掘道具一式もこの中に入っているんだが、元から入っていた為にまだ試していないのだ。
俺は訝しみながらも、斬り飛ばした頭をバックパックの収納口に近づけていく。するとある程度近づいた所で頭が音もなく消えた。
次にバックパックの収納口に手を突っ込み、格納されたらしい頭を思い浮かべながら手を引き抜いていく。すると手に何かを掴んだ感触が生まれ、原理はまるでわからんが収納口からビッグホーンラビットの頭が出てきた。スゲー・・・4次元〇〇ットがあったらこんな感じなんだろうな。とりあえず、使用感も分かった事だしビッグホーンラビット一式をしまっておこう。
このバックパック、格納個数に制限があるけど入れた物の重さを一切感じないという優れモノ。いや本当にコレ欲しくなるな・・・後でエリスに売買可能か聞いてみよう。
さて、採掘に来たはずが予定外のエリアボスとの遭遇・・・別行動の3人組が真っ先に見つけてこちらに戦火報告をしに来ると思っていたが、それも無し。ちょっと念話で向こうの様子でも聞いてみるか。
(もしもし、こちらキョウ。マグル、聞こえるかい?)
と、念話を送ってみる。因みに念話はメンバー全員に送る事も出来れば、個別や複数での会話も可能だ。
暫し待つ事数秒、
(はい、こちらマグルです。どうしましたか?)
(いや、そっちの様子が気になってね。どんな感じだい?)
(そうですね・・・一言で言うなら、姉さんが荒れてます)
(ん?なんで?)
(ちっともモンスターが居ません。僕らの前を通り過ぎて行ったモンスターも結局見つかりませんでした)
(ほうほう、こっちもビッグホーンラビットしか居なかったぞ)
暫し間が出来る。きっとマグルがカシア達に俺との会話を説明してるのだろう。
(マグル、2人に説明するの面倒だろうからもう俺らの会話に加えてしまおう。ついでだ、アルも現実逃避してないで会話に加わりなさいな)
結局、メンバー全員でのグループ会話状態に。初めからこうすりゃよかった。
(あ、あるじ!モンスターがちっとも居ないの!こっちの移動に合わせて皆逃げてる感じ)
この声と口調はカシアだな。カシア達の移動に合わせてとなると・・・
(確認をしようか。カシア、マグル、あとミズキ。気配はちゃんと消して行動してるかな?)
(・・・あっ)
うん、今ぽろっと出たのミズキだな。はいミズキあうとー。
(カシアとマグルはどうかな?ミズキは今の漏れた声で消してなかったのはわかった)
(気配を消すのは狩りの基本だからちゃんと消してるよ)
(はい。僕も大丈夫です)
つまりあれだ。ミズキっていう強者が急に現れた事でモンスター一同逃げまどっていると。存在が存在だからな・・・気配を消してなかったら皆ビビッてしまうのは仕方ないかもしれん。
(ミズキさんや、貴女はドラゴンなんですから遺跡都市に来た時同様、気配を消しておかないと皆怯えて出て来ませんぞ?)
そう、ミズキは我が家である遺跡の近くで出会ったあのドラゴンである。遺跡都市の連中からは剣竜って呼ばれてる。色々あって俺のクランに在籍してる。
(ごめん。あのすばしっこいの追っかけるのに夢中になって途中から忘れてた。あ・・・だからあのすばしっこいのの逃げるスピードが急に上がったんだ)
こ~のうっかりさんめ!辺り一帯にモンスターが居ない原因がわかった・・・あれ?ビッグホーンラビットはどうして逃げなかったんだろうか。ボスとしての矜持か何かか?まさか『ここは俺に任せてお前らは早く逃げろ!』とかそんな感じか?無いよな・・・無いよね?
(あの、キョウ?私も特に消して無かったんだけど)
(ミズキが気配を消してなかった以上、あれ以上の存在感を放つのはそうそう居ないから大丈夫。でも、探索をするからには無用な戦闘を避ける為、或いは目当てのモンスターに近づく為にも気配のコントロールは皆出来るように)
強すぎる存在は気配を消しでもしないと今回のような事になる。むしろ、ミズキの気配を感じ取っても逃げない処か近づいてくる存在が現れたら要注意だ。
因みにカシア達が追っかけていた『すばしっこいの』の正体に関して俺は、精霊さん経由で知っていたりするがこちらに害を加えてこないのなら、俺個人としては特に関わるつもりはない。まぁ、見つかる度にカシア達と追いかけっこする羽目になるかもしれんが。
(さて、軽くトラブりはしたが俺はこのまま暖炉石と冷蔵石の採掘を行ってくる)
俺は予定通りに動くとしよう。
(私は今ちょっと一人になりたくないから、一緒に付いてく)
これはアルの声だ。若干まだ強張ってるな。そんなにビッグホーンラビットが衝撃的だったのだろうか。
(僕らはこのままエリアをグルっと周ってきます)
(うん、今度はミズキ姉も気配を消してるから行けるはず!)
(ゴメンね、2人とも)
こちらは3人組。まぁ、いい勉強になったんじゃないだろうか。気配について。
(よし、それじゃ念話切るぞ~。何かあったら念話してくれ)
各々、了解の旨を伝えてきた後念話特融の通話感が無くなる。念話が来たら独特の感覚があるから分かり易くていい。
「んじゃ、行くとしますかね」
そうして俺らは採掘現場である洞窟にたどり着いた。




