第23話:仲間が帰ってきました。
あれから我が家に戻った後、夕食を済まし受付で聞いた説明を皆に大まかな形で話した。
1つ、遺跡に入る前に指輪は必ず身に着ける事。
2つ、遺跡でモンスターとか倒したら経験値みたいなのが手に入って、それをバンク内で自分自身の強化に使えるという事。
3つ、強化に使う経験値的なモノは好きに振り直せるが、身の丈にあった振り方をしとかないと痛い目を見るという事。
4つ、指輪は色で格付けがされており、各自相手の指輪の色を見て身の振り方を考えましょう。色一覧は受け付け横にあるんで、そちらを参照する事。
「って、所だろうか。まぁ、後は実際に経験していけば勝手に覚えていくんじゃないかな」
「「「なるほど、そういう事」」」
・・・大丈夫だろうか。ちょっと不安だ。
「ねぇねぇ、キョウ。あのゴーレム達凄かったね。見た目を除けばもう人と変わらないって感じたよ」
「確かにそうね・・・私も驚いたわ」
ツバキとシリカが話を振ってくる。
「ん~・・・俺の感じた事を言わせてもらうなら多分あのゴーレムさん達、中身が存在してると思うぞ」
「中身?それって小人か何かが中に居て、操っているって事かい?」
「あ~・・・そういう可能性もあるか。俺が言いたいのは、あのゴーレムさん達から明確な意志のようなものを感じたんだ。それこそ、人と話しているのと同じなレベルで」
「つまりお父様は、あのゴーレム達が生きていると?」
「生きているというか、意志が宿っているというか・・・まぁ自身で考えて動く以上、それは生きていると言ってもいいのかもしれない」
さすが異世界、ファンタジーってすげぇな。でもまぁ、俺がそう感じたというだけで、もしかしたら恐ろしく硬度なAIなのかもしれない。わからん。
「いつか、僕もあんな体が欲しいねぇ・・・自由に動けるっていうのを久しぶりに味わいたくなったよ」
「知っているだけいいじゃない。私は生まれてこの方、動くという感覚を味わった事がないもの」
「そうだ!ねぇシリカ、私達で私達の体を作ってみないかい?」
「・・・いきなりね。どうしたの」
「いや~、キョウ達はこれから遺跡内を探索するっていうのに、僕達はそれを傍で見ているだけっていうのはどうも・・・ね」
「自らの体を得て動き、聞き、見て、触り、更にはお父様達の様に食事というものをしてみたいって気持ちは私にもあるわ」
「そこまで一気に飛躍するつもりはなかったけど・・・どうかな?キョウの世界の知識をフル活用したら、それっぽく出来そうな気がするんだけど。それに、今後遺跡都市に往く度に私達は口を閉じなきゃいけないっていうのも不満なんだ」
「それもそうね。なんか仲間外れにされるようで、いい気はしないわ」
なにやらお二人が壮大な計画を立て始めた。俺は邪魔しちゃマズイと思ったのでソッと二人を外して、その場を後にした。風呂でも入ってくるか~・・・。
次の日の朝、4人で朝食を摂っているとカシアから
「あるじ、あるじ!ミズキ姉って今何処行ってるの?」
ミズキ姉とは、この1ヶ月の間に加わったお仲間の1人だ。
「ミズキかぁ・・・多分見回りしてるんじゃないかな」
「見回り?」
コテンと首を傾げるカシアが可愛らしい。
―――話が全く変わってしまうが、カシアもマグルもこの1ヶ月の間で見た目だけは劇的に変化が起こっている。
まず、見た目は俺と同じくらいの年齢にまで成長している。早すぎんだろ。でも、精神年齢は然程育っていない。大変アンバランスだ。
狼形態で居る事が減り、人の姿でいる時間が大幅に増えたわけだが羞恥心というものがまだなく、よく素っ裸で走り回っている。目のやり場に大変困る。現在、アルがそこん所の教育を担ってくれているが結果は思わしくない。
人の姿でいる事が増えた為、戦い方も当然変わってくる。狼形態の時は何も教えられんが、人形態の時はそれなりに教えられる。
カシアは主に拳による戦闘を。マグルは蹴りを主体にした戦闘を好む。よって、怪我防止も兼ねてシリカにお願いして2人専用の武具を創って貰った。ガントレットとブーツを身に着けた2人はとても喜んでいたな・・・ちゃんとシリカにお礼を言うんだぞ。
俺も素手から小太刀を使う戦い方へと変えた。手袋とかガントレットを装備していれば一応は大丈夫だと分かったが、それでも万が一触れて事が起きると大変だ。幸い親父や母さんのお陰で色々な武器の扱いには慣れている。感謝だ。
尚、アルは見た目がエルフっぽい事から弓とか短剣を使うのかなと思ったのだが、基本的に武器は使わないとの事。
なんでもここら一帯では武器を使って戦うのは自分の力に自信が無い現れだとかで嫌悪されているんだとか。
ふむ、何というか・・・もう色々と残念な風習だなと思った。俺が非常に残念な目をアルに向けていたら、アルに勝負を持ち掛けられたので受ける事に。
結構強かった。打撃、蹴り技、組技等々とても多彩で驚かされた。だけどゴメン。余程力量に差が無い限り、武器を持っている相手と素手では明確な差が生まれてしまう。互角の力量同士ならば、武器持ちの方が圧倒的に有利だ。
俺はアルにその違いを見せつけ、意識改革を促した。その結果、
「キョウのあの残念な奴を見る目の意味がよ~くわかった。こりゃダメだわ・・・誰だよこんな風習作ったの・・・あ~ほんっとバカみたい」
そもそも俺のクランに入った時に武器の優位性とかそこら辺の知識も入って来てたはずだ。そこん所を聞いてみたら、
「実際に体験してみるまで実感が湧かなかった」
そんなもんなのかもしれない。知識があっても実際にやってみなければ分からない事は多い。そして、改めてアルにどんな武器がいいか聞いてみたら、
「ランスを使ってみたい!」
また扱いずらい得物を。ランスは乱戦に向かない上に狭い所では取り回しが難しい・・・工夫が必要になるだろう。そこら辺の説明を受けても尚、
「気持ちは変わらないかな」
・・・そこまで言うならもはや何も言うまい。オーソドックスなランスと盾をシリカに発注しアルに渡してあげた。シリカにお礼を言いアルは一式を装備しつつ、
「思ってた以上に重いしバランスを取るのが難しい・・・よし、やるぞ~!」
あんなに目を輝かせちゃって・・・武器は相性も大事だろうが、やはり自分が使ってみたいと思うものが一番だ。使いこなせれば、そうそうアルに近づく事は出来ないだろう。今後のアルの成長が楽しみだ。
―――おっと、話が脱線しすぎてしまった。ミズキの話題に触れたせいか、この1ヶ月での出来事の一部を振り返ってしまっていた・・・スマンスマン。話を元に戻そう。
「そう、見回り。ミズキってここら一帯の主みたいな存在だろ?本人は違うって言ってたけど、やっぱ気になるのか定期的に見て回ってるっぽいぞ」
「・・・そんな事ない」
おっと、そんな話をしていたら本人が帰ってきた。藍色の髪を肩の辺りで切りそろえ、何処かちょっと眠そうな目をしており、稲妻のような角が頭に2本生えている。大変整った顔立ちをしており、大変大きいお胸をお持ちだったりする。メロンくらいだろうか。右の腰辺りにシリカ作の刀を下げている。
「あ!ミズキ姉お帰り!」
「うん、ただいま。これお土産」
そう言って差し出されたのは、首がキレイに無くなっている空飛ぶ鶏さん。きっと首チョンパされて血抜きをしつつ戻ってきたのだろう。既に血は出ていない。
差し出された鶏を食事が終わったマグルが挨拶をしがてら受け取っている。よし、下処理はそのままマグルにお任せしよう。
マグルはアルの次に料理を任す事ができる。一方カシアはさっぱりだ。得物を獲って血抜きとか解体は出来るのだが、料理となると途端にダメになる。なんでだろうな?
「私の分、ある?」
ミズキがちょっと悲し気に聞いてくる。急に帰ってきたから自分の分は無いと思ったのだろう。ふふふ、安心めされい。ちゃんと用意してありますとも。
俺とアルで手早く温め直して、テーブルに並べると手を洗ってきたミズキは嬉しそうにイスに座り、
「いただきます」
そう言って、食事を始めた。食事中のミズキは大変幸せそうな表情をしてくれるので、作るこちら側としてもとても用意し甲斐があるというもんだ。
「ミズキ、お帰り」
「おかえり~」
「今回は早かったねぇ。お帰り」
「お帰りなさい。ミズキ」
「うん、ただいま。皆」
今日という一日がこうして始まる。




