第17話:子狼達が進化しました。
※2019/05/13 一部修正。
あの後カシアとマグルの成果を担いで運び、綺麗に血抜き、解体を行い皮とお肉に分けた。
皮は椿に頼み、手袋―――というかガントレット?加工してもらい、残りは革として処理してもらい保管。
お肉は先ほど皆で焼いて食べ、残りは塩を塗して燻製に。そろそろお米が恋しくなってきました。お米食べたい・・・。
食事を終えた私達は各々で行動中。私は燻製の温度調整を行い、残りの面々は浴場に赴き今日一日の疲れと汚れを落としに行っている。今頃、アルの手によってカシアとマグルは泡まみれとなっているに違いない。
それにしても、椿が皮とかの処理・加工が出来るようになったのは本当に有難い。これで材料さえあれば、衣服や寝具に困る事は無い。そのうち布団やベッドとか作っちゃおう!
なんて今後の事を考えつつ燻製の温度調整を終えた私は、燻煙室として使っている一室から出る。以前は外で燻製をやっていたのだけれど目を離した隙に何物かの襲撃を受け、物の見事に奪取されて以来、外での燻製作りは行っていない。犯行動物許すまじ。
煙臭くなってしまったので、私もサッパリするべく浴場へと足を向ける。そろそろアル達は上がっているはず。
浴場に向かっていると、何やらその浴場付近から騒がしい声が聞こえて来る。どうやらまだ上がっていないようだ。鉢合わせるとアルに申し訳ないので引き返そうとしたら、浴場の方から何かが飛び出してきた。
咄嗟に迎撃の態勢を取ったが、敵意が無かった為そのまま抱き止める。湯から上がってそのままだったのかずぶ濡れである。
それは獣耳と尻尾を生やした銀髪の見知らぬ女の子だった。おや、何処から入ってきたのだろうか。私が困惑していると、
「あるじ~、あるじもお風呂入りに来たの?」
と、抱き止めた女の子が顔を上げてそう言ってきた。んん?あるじ?主って事かな?ますます困惑する私。よし、ここはド直球で聞いてみよー。
「ごめんねー私、君みたいな可愛い女の子と面識無いんだー。もし良かったら、名前を教えてくれる?」
なるべく優しく聞こえる声でそう尋ねてみる。内心色んな意味で心臓がドッキドキしてるけど、そこは自制心をフル稼働させて凌がせてもらう。耐えるんだ、私!
「私?私はカシアだよ~。これでやっとあるじとお話しできるね!」
カシア?とっても聞き覚えのある名前だなぁ。私が知ってるカシアは小っさめの子狼ですが。ん~・・・つまりアレかな?
「もしかして人に成れるようになったのかな?」
「そうだよ~。勿論元の姿にも戻れるよ!」
そう言って私から離れるとピカッと光って・・・・ぎゃぁぁぁぁっ!目がぁぁぁ~目がぁぁぁぁぁっ!!
私が目を押さえてもんどりうっている傍らで、
「大丈夫、あるじ~?」
と、子狼の姿で話しかけてくるカシアがお座りした状態で首を傾げていた。
目がまともに見えるようになってきた辺りで、マグルを抱っこしたアルがこちらに到着。手早く着替えてきたらしくマグル共々シットリしている。タオルに包まさっているマグルが何とも愛くるしい。なお、こちらは子狼のままである。
「ほら、カシアも拭かないと風邪ひいちゃうぞ」
「やだー」
アルがタオルに包まさっているマグルを下ろし、首に掛けていたタオルでカシアの捕獲を試みるがあえなく失敗。アルの脇を抜けて再度私にしがみついてくる。うん、冷たい。
「このままじゃ風邪ひいちゃうなぁ・・・仕方ないから私と一緒にまた入って温まろうか」
「わかったー」
私がそう提案すると素直に頷いたのでそのまま抱っこして浴場に向かう事に。
「というわけで、アルさんや。マグルの事をよろしく頼みますね」
「任されましたよー。フッサフサになるまで乾かしてあげます!」
「・・・お手柔らかにお願いします」
おぉ、やはりというかマグルも喋った。印象通りというか、見た目に似合わず落ち着いている雰囲気そのまんまな感じ。因みにカシアの方は小学校低学年の活発な子という感じ。
風通しのいい場所があるのでそこで乾かすつもりなのだろう。アル達が動くのに合わせて私たちも動く。
浴場に着いた私は手早く衣服を脱ぎ乾きそうな所に引っ掛ける。濡れてしまったのでこれで応急処置だ。
さっさと体やら頭やらを洗って、カシアと一緒に湯船に浸かる。あ~気持ちいい・・・。
カシアは先ほどアルに洗われたのか、目立つような汚れは特にない。毛が水分を大量に吸って湯船上で広がっているせいか浮き上がるらしく、まるでモモンガが空を飛ぶような姿勢で湯船上を漂っている。とても癒される光景だ。
お互いに十分温まった所で温泉から上がり、体を拭いて着替える。衣服類はさっきの燻製で煙臭い為、戻ったあとに再度着替えて洗ってしまおう。
上に戻ったら、アルがやり遂げたという感じでフッサフサになったマグルを撫でている所だった。全く、いい仕事をする。
私もカシアをフッサフサに仕上げようとターゲットの補足にかかったのだが・・・あれ、何処いった?ロックオンできずに索敵していると、既に自ら風当たりのいい所へ赴いて乾燥を図っていた。あぁ!あれじゃあフサフサ処か撫でつけられてペッタリしてしまう!
急いでカシアの所に行ったが時すでに遅し。ペッタリした状態でカピカピに乾いてしまったカシアがそこに鎮座していた。
「ん?あるじ、どうかした?」
「いや、何でもない・・・何でもないよ」
あぁ・・・毛と毛がくっ付いてエライ事に。せめて今からでもブラッシングして少しでもサラサラに。フッサフサには仕上がらないだろうけど、せめてもの抵抗を。
カシアは気持ちよさそうにブラッシングを受け入れてくれている。乾かす前に一声かけて欲しかったなー!
カシアのブラッシングが一段落した辺りで、アルに子狼達がああなった状況を聞いてみた。
「ん~特にこれといったことは何も。綺麗に洗って温泉に浸かって温まって。後は・・・独り言みたいな感じで『お互い話が出来れば最高なのに』ってカシア達に向けて言ったくらい・・・ってこれが切っ掛けだったのかな?」
「流れからするとそうなんだろうね。それが切っ掛けで喋れる上に人に成る事が出来るようになったと」
「いや~あの時はビックリしたよ!ピカッって光ったと思ったらカシア達が人の姿になっててさ。マグルは話せる事が分かったら直に戻っちゃったけど、カシアは「あるじに教えてくる!」って言って飛び出して行っちゃってね」
なるほど。それで飛び出してきたカシアと私が遭遇したと。いやはや、なんとも立て続けに色んな出来事が発生するものですな。
とはいえ、起きた出来事は全て良い事だよね。椿が皮などの処理・加工が出来るようになったのと、フォースというマナとは違う力の情報、カシア達の進化とイベント尽くしだ。でも今日はもう遠慮願いたいね。
「と、こんな事があったわけです。よろしいでしょうか、椿さんシリカさん」
燻製の温度調整が終わった後、温泉に入るべく椿とシリカを外して置いてきていた為、何が起きたのか説明を求められた次第です。はい。
「うん、僕らが居ない間に起きた出来事は良く分かったよ」
「お父様ズルいわ。丁度私達を外している時にそんな面白そうな事に」
んっふっふ、傍から見たら面白そうでも当事者はそうでもないんだなー!
「いきなり見知らぬ女の子が突撃してきたんだよ?眼福・・・じゃない。はっきりと女の子と分かるまではそれ相応に警戒もしたし、一歩間違っていたら迎撃しちゃってたよ。敵意とかは感じなかったけど結構危ない状況だったね」
そう、あれは危なかった。主に自分の身が。我が家の中とはいえ、セキュリティ面は万全とは言えない。一応、侵入防止の為に出入り口は常に閉めるようにはしているけど、世の中絶対など存在しないのだ。
さて一通りの説明も終わった事だし、いい加減この煙臭い衣服とお別れしたい。せっかくサッパリしたのにまた臭くなってしまう。着替えよう。
そう思って着替えて寝床にダイブしたら、驚くほどすんなりと眠りに落ちてしまった。洗濯は明日で・・・グゥ。
――――翌朝、なんか自分の手の甲に刺青のようなものが浮かび上がっている事に気づいた。
アル達にそれを見せてみると大半の連中からは何それ?って反応が返ってきた。
唯一アルだけが何か思う事があったらしく、私の手の甲を見ながらムムムっとしばし唸っていた。
「・・・もしかしてコレ、刻印かもしれない」
「刻印?なにそれ?」
また、なんか起こりそうです!




