第16話:思わぬ形で衣服類の問題が解決しました。
※2019/05/12 一部を加筆修正。
「キョウ、僕からお知らせがあります」
「は~い、なんでしょう?」
「・・・うん、やっぱり違和感が半端ないよ、今のキョウは」
「そこはおいおい慣れるから、気にしたら負けと思おうよ」
「む~・・・えっとだね、有機物の加工・・・例えば、絨毯とか布団とかが造れるようなったよ」
「・・・え?」
「毛皮とかを革にしたり、衣服を造れるようになったの。僕が」
「なんで急にそんな事が出来るようになったの?」
「シリカが無機物限定とはいえ色々なものを生み出す所を見てたからかなぁ、僕も何か造れるようになれればなぁと漠然と考えていたら、キョウが衣服に関して悩みだしたんだ。その時、僕が造ってあげられればって強く『願った』のが原因なんだろうね。突然出来るようになったのが解ったんだよ」
「また私の手が原因なんだね?」
「恐らくは。僕とシリカは触れられる機会が多いからね。トリガーが触れられた時なのか、一度でも触れられたらなのか・・・そこは分からないけど」
「少なくともあの時以降もお父様に触れられる機会は何度もあったけど、今の所あれから更に出来る事が増えたりはしてないわ」
「一度願いを叶えて貰うともう受け付けないのか、或いは条件があるのか。よく分からないねぇ」
「あれ?椿はお父様と出会ったとき、手の影響で話せるようになったんじゃないの?」
「あの時は確かに力の流れみたいなものを感じたけど、元々僕はこの状態でも話す事が出来たからねぇ。キョウが知ってる一般常識とかも僕が自分で読み取ったものだし」
「そうだったの。となると、その時は一旦保留になって今回の事が切っ掛けで手の効果が現れたと?」
「今回は力の流れを感じなかった。そうなると、シリカが今言ったような流れになるのかなぁ」
「これはもうシリカにガントレットなり椿に手袋を造って貰うべきなのかも」
「キョウがむやみやたらと周りに影響を出したくないと思っているならそれがいいかも」
「でもそれでお父様の手の影響が出なくなるかというと・・・実際やってみないと分からないわ」
「何もしないよりはずっといいよ。椿、早速で悪いんだけど手袋をお願いできるかな?とっても喜ぶべき案件なのに、素直に喜べないのが憎たらしい」
私は自身の手を眺めながらそう愚痴る。自分の意志でコントロール出来ればそれが一番なのだけど、残念ながら我が手はオートマでこの得体の知れない力を行使してしまう。困りものだ。
「手袋だね、了解だよ。何か丁度いい材料ってあったかい?」
試しになめし液に漬け込んでいる鹿羊の皮があるが、あれはこのまま経過を観察したい。せっかくやったからね!
「現状は無いかな・・・仕方ない、お昼ご飯を獲りに行きがてら確保するね」
「わかったよ」
よーし、早速行ってくるかなー。おもむろにお昼ご飯をゲットする為の準備をしだした私にアルが慌てて話しかけてくる。
「ぜんっぜん、話しかけるタイミングがつかめなかったから黙ってたけど、どゆこと?」
まぁ、そうなりますよねぇ。私は自分の手が如何に厄介な代物と化してしまったのかを説明する。
「・・・なるほどぉ、何といいますか・・・一歩間違えると神をも恐れぬ所業となりそう。けど、これって私が聞いちゃってもいい内容だったの?」
「勿論、誰にも言わないでいてくれるのが一番だよ。でも、こんな話をいきなり聞いたとしてそれを信じるのってどれくらいいるかな?」
「あ~確かに。目の前で実践されない限りは誰も信じないかも」
というわけで、今の所は問題なし。アル以外の知り合いが増え始めて問題になりそうなら対策を取ろう。
「全く話は変わるけど、シリカは結局お父様で通すことにしたんだねぇ」
「そうね。今は特に問題になる事はないから、もうこれでいいわ」
「キョウって女の子になると結構な美人さんだよねぇ」
椿がシリカに話しかけ、アルはこれまた関係ない話題を引き出そうとする。私はその流れには乗らない。恥ずかしいから!
「よし、じゃあお昼ご飯ゲットしに行こう。カシア、マグルー今日は一緒に行く?」
子狼達が反応してこっちにやってくる。今日は一緒に来るようだ。
慌てて後ろから付いてくるアルを加えて本日の狩りに向かうのだった。
とある森の中、カシアとマグルが相手取っているのは鎧をまとっているかのようなクマ。
見た目は黒光りするクマという出で立ちなのだが、毛の一本一本が金属で出来ているんじゃないかと思ってしまう位に硬い。重くないのだろうか。
カシアが立ち上がっている状態の鎧クマさんに奇襲をかけ喉元を狙った噛み付きをしたのだが牙が食い込まずあえなく失敗。
入れ替わる形でマグルが鎧クマさんの目を狙った両前足による目つぶしを仕掛けたが、咄嗟に鎧クマさんが4足モードに戻る事で回避。マグルは避けられたと同時にすぐ目の前の木に足をかけて跳躍する事で上手く獲物から距離を取った。2匹による奇襲は失敗に終わる。何処となく悔しそうな気配を感じる。
「ねぇキョウ、私達手を出さなくていいの?」
「ん~・・・今のマグル達なら大丈夫かな」
私はそう言うがアルは心配そうな顔をして2匹を見守っている。
まぁ、マグル達が狩猟する所を見るのはこれが初めてだから仕方ない。
あれからカシアとマグルは俺の教えをきっちり守っている。それはつまり、マナの運用が以前よりも良くなっているという事。
今となっては呼吸すると同時にマナを取り込む事にも完全に慣れ、日常の一動作と変わらないレベル。
それと同時に気の運用による体への負荷も毎日欠かさず行ってきた為、身体能力という点ではそこら辺にいる獣如きに後れを取る事は無い。
残るは経験を積む事。先ほどの奇襲で牙が刺さらなかったのも、気による強化が足りなかったから。
2匹には獲物を狩る時、最初の一撃に関しては限界の出力ギリギリによる攻撃を禁止している。
出会い頭に最高出力で仕掛けて仕留めるだけじゃ訓練にならない。よって、相手を確認しどれほどの出力であれば通用するのかを見極める力・・・観察眼もとい洞察力を身に着けさせる為、奇襲によるブッパを禁止しました。はい。
鎧クマさんがマグル達を補足しようと周囲を見渡し警戒するが、既に2匹は気配を消して次の機会を伺っている。
奇襲が失敗しても再度身を隠せる環境であるならば、すかさず気配を消して次に備える。教え通りだ。
こっちの教えを忠実に守ってくれるので、とっても教えがいがある。弟子達の成長を肌身で感じて感動しているとアルから質問がきた。
「・・・あの子達って『フォース』を使用して気配を消してるんだろうけど、あんなにキレイさっぱり消せるもんなの?」
んん?なにやら聞きなれない単語が・・・フォース?なにそれ?ちょっと質問を質問で返してしまう形になるけどここはご容赦願いたい。
「ごめんアル。フォースって何?」
「え?フォースはマナを取り込んで『体内で変換・貯蔵している力』の事。変換の工程で出る『余計なモノ』はその人の角の構成要素として消費されてるの。因みに角は一定以上育つと取れてまた新たに生えてくるんだけど・・・そう言えば、キョウやあの子達って角生えてないよね・・・なんで?」
何という衝撃的な事実。マナを取り込んで『体内で変換しかも貯蔵』と来た。
私達にとってマナは「体内で循環」させるもの。わざわざ貯め込んだりなんてしない。
しかも『余計なモノ』って、マナを変換した時にロストした力って事だよね。
私達はマナを『未変換』でそのまま使用している。
つまり、フォースってマナの劣化版・・・だよね?効率がとっても悪そう。
「なんでって・・・私達はマナそのものを使っているからかな?体内で変換とかしてないから、そもそも角が生えてくる事もない・・・と」
「マナそのものを使用・・・ってまたまた~、そんな事出来るわけないじゃない。マナそのものを変換もしないで力に変えれる存在なんて、それこそ大昔に居たとされてる精霊様くらいのものだよ?」
うっそだ~って表情でそんな事を言われました。そういえば、以前椿からそんな事を言われた気がする。
因みに精霊さん達は今もいるよ?これは・・・言わない方がいいのかな。
どうやって説明したものか・・・ここは素直に言ってみるしかないかな。
「残念ながら本当なのです。私達はマナを体内で循環させて、必要な時に気を纏う事でマナを使用しているの。マグル達も私と同じで気を纏う事が出来る。あれは気を纏って自然に在るマナと一体化する事で気配を消してるの」
「・・・嘘だと言って欲しいなぁ。でも嘘言ってるようには全然見えないよぉ。本当に本当なんだ?」
「本当に本当なの」
「・・・よし、わかったー」
切り替え早っ!!
私が面食らったような顔をしてると、アルはちょっと真剣な顔つきになり
「受け入れる時は受け入れる。下手に常識に囚われててもいい事はないしね」
「普通はもっと疑ったり否定するもんだし・・・信じてくれるの?」
「そこはキョウちゃんの事信頼してるし、なによりこんな事で嘘を言う意味もないだろうしねぇ」
「そっか・・・アルって凄いなぁ・・・信じてくれてありがと」
「エヘヘ」
アルの照れてるその顔がまた可愛らしいのなんのって。せっかくだから、マナとフォースの違いをお互い話した内容から確認していってみようか。
「気配を消すという方法を取った時、マナを直接使用して気配を消したのとフォースを使用して気配を消したのでは差が出る・・・っていう事でいいのかな?」
「一概にそうとは言えないけど少なくとも私じゃあ、あの子達のレベルで気配を消す事は出来ないかな」
「なるほど。フォースを私達が気を纏うのと同じように使用して、純粋な身体能力向上を図る事はある?」
「同じかどうかは何とも言えないけど、フォースを使用して身体能力を向上する種はいるね。他にも火を吐いたり、風を操ったり、水を飛ばしたり等々・・・かな?」
「ふむふむ。これは別の力と解釈した方がいいのかも」
「それって、キョウちゃん達は身体強化と気配遮断しか出来ないって事?」
「現状はそうだね。でも、恐らくだけど出力に相当な差があるんじゃないかな。私達はマナを丸々消費してるけど、フォースの方は変換の過程で結構なロスがあるみたいだし。おんなじ出力を出す上で、互いの消費量に明確な差が生まれるかも」
「むむむ、確かに」
「後は大きな違いとして、マナは呼吸で常に体内を循環させておけば、即座に使用できて実質永久機関なわけだけど、フォースは変換して貯め込まないといけない点・・・かな」
「だよねぇ・・・貯め込む必要がある以上、使いきってしまったらそれまでなんだよね・・・フォースは」
「これに関しては人によりけりかな。例えば、異様にフォースへの変換効率が良くて貯蔵量もとんでもない人がいたら、これってある意味では永久機関となるかもしれないよね。フォースを使用しながら変換すればいいんだから」
「うーん、そんな怪物じみた人なんているのかなぁ・・・少なくとも私は無理。フォースを使用しながらマナを取り込んで変換し続けるとか、集中力が持たない」
「それって、フォースを使用する時は変換は行わないで使用するだけって事?」
「それが一般的かな。余裕がある時に貯め込んで、必要な時に使用するの」
「おおぅ・・・でも今の話だと出来なくもないんだよね?」
「短時間であればなんとかって所かな。運用方法によってはマナと同じ出力を叩き出しつつ、枯渇させずに維持し続けられる事も可能って事だね・・・うん、どのみち現実的じゃないかな」
「現状は持続力と出力ではマナ。扱い易さと応用力ではフォースといった所かな」
「どっちみち、マナを直接使用できるのはキョウとあそこの子達だけ。私からすれば、なんじゃそりゃ~!って叫びたくなるような差を感じるよ」
「ん~・・・どうだろ?私からすれば扱い方次第って気がしなくもないけど。私もフォースが使えるようになれればなぁ・・・」
「それを言ったら私だってマナそのものを使えるようになれればなぁって思うよ?」
うん、これは研究し甲斐がありそうですわ!どうにかしてフォースを使用できるようになる方法を見つけたいなぁ。
それにしてもまだまだ知らない事だらけだね。でも、今回のこれはとっても大きな収穫と言えるよね。
っと、私達が話をしている間に向こうの狩りに決着がつきそうだ。
鎧クマが倒れる瞬間を見届け、勝利とばかりに敗者の上へと降り立つ2匹の子狼達は、また一つ経験を積んだのであった。




