第8話 大きな買い物
「大変、失礼いたしました」
今、俺たちの目の前で頭を下げているのが、
商人ギルドの受付嬢の上司のキンブルさんだ。
俺と西城さんの大声を聞いて、何事かと来てみれば、
受付嬢の勘違いが原因と分かり、謝ってきたのだ。
「あの、俺も西城さんも気にしてませんので……
それよりも、家を購入したいので物件を紹介してくれませんか?」
俺の言葉に、キンブルさんはすぐに受付嬢に指示を出す。
「はい、わかりました。
ローラ君、すぐにこのお二人に物件を紹介してください!」
「は、はい!」
受付嬢のローラさんが、物件の資料を取りに行っている間に、
キンブルさんは、俺たちにもう一度頭を下げると、
自分の持ち場に戻っていった。
その対応に、俺と西城さんはお互いを見て苦笑いを浮かべていた。
少しして、3つの紙の束を抱えて、受付嬢のローラさんが戻ってきた。
「先ほどは、失礼しました。
えっと、では、物件を紹介する前にご予算を聞いてもよろしいですか?」
ご予算ということは、紹介する家の代金ということか。
今の俺の全財産からどれだけ出せるか……う~ん。
「俺は、金貨30枚です」
「私も、金貨30枚ほどで……」
俺たちの予算を聞いて、ローラさんは紙の束の中から、
2つの紙を取り出した。
「金貨30枚となりますと、この2つがよろしいと思います」
俺たちの目の前に提示された紙には、物件の内容が記されている。
どちらも、中央の大きな通りから離れすぎておらず、
冒険者ギルドなどの各ギルドからも、そう離れていない。
また、買い物などの市場からもちょっと歩くだけで着いてしまう場所だ。
1つは2階建て、もう1つは平屋建てとなっている。
「あの、金貨30枚だと、このくらいが相場なんですか?」
少し気になったので、聞いてみる。
「ええ、もっと大きな都市に行けば、
このくらいの物件は金貨100枚ぐらいはしますが、ここは辺境、
しかも、辺境故に貴族が住んでいない町ですからこのくらいになるんです。
もしかして、この物件は気に入りませんか?」
「いえいえ、私はこの2階建ての物件をお願いします」
西城さんは、少し恐縮しながら2階建ての物件を選んだ。
子供がいるんだし、部屋数は必要だよな。
「では、俺はこの平屋の物件でお願いします」
「畏まりました、手続きの後、見に行かれますか?
鍵はお渡ししますが、住めるのは明日からとなりますが……」
「今日のうちに住めないんです?」
「ええ、手続きの後、家の点検と修理、
あとは掃除などで、時間がかかりますので明日になります」
ん~、宿は明日まだから、俺は問題ないな。
俺は西城さんを見るが、西城さんも問題ないようだ。
「では、それで手続きをお願いします」
「畏まりました、では……こちらの書類をよく読んで、
この下の所にサインをお願いします。
あと、身分証証明のできるものと代金の金貨30枚をお願いします」
……なんだか、こういうやり取り日本を思い出すな~
俺は、書類をざっと読んで指示された場所にサインをする。
サイン……こういう時、日本人としては判子の方が何となく馴染みがあるな。
それから、冒険者ギルドのカードを出し、金貨30枚を用意した。
西城さんも、俺と同じような行動をとったのだが、
受付嬢のローラさんから、注意を受けた。
「あの、お金を、それも金貨を出す場合は、袋に入れて出してください。
安全な商人ギルド内とはいえ、誰が見ているか分かりませんので……」
「「……すみません」」
注意の後、俺たちに金貨を入れる袋をくれたので、
金貨をその袋に入れて、再びローラさんに差し出す。
ローラさんは、袋の中身を確認後、書類とギルドカードを確認して、
カード返却と同時に、
「はい、これで手続きは終了です。 では、お二方の家にご案内しますね。
…ニナ、受付お願いね~」
そういうと、ローラさんは、
俺たちを連れて購入した家へと案内してくれた。
商人ギルドから、徒歩で20分ほどの所に俺たちの家はあった。
それも、西城さんの2階建ての家から1軒挟んで俺の平屋の家があった。
西城さんと、ご近所さんになったわけか。
しかし、どちらもいい家だ。
ちょっとした庭もあるし、外見は問題ない。
「では、家の中に入ってみましょう。
掃除とかしていませんから、ちょっと注意してくださいね」
そういって、俺たちをそれぞれの家の中へ案内する。
家の中は、靴のまま生活するようだ。
日本人としては、玄関で靴を脱がなくて変な感じだ。
あと、どの部屋も高さがあった。
すべての部屋が3メートルぐらいの高さがあり、大きくそして広く感じる。
……なるほど、海外の人が日本の家をウサギ小屋というのが、
少しだけわかったような気がするな……
それぞれの家の中を案内されて、西城さんも俺も大満足だった。
家の入り口で、ローラさんからそれぞれの家の鍵を渡され、
「では、こちらがそれぞれの家の鍵となります。
これからすぐに、点検、修繕、そして掃除と済ませますので、
明日の朝には、ご自分の家に入居できるでしょう。
あと、何かありましたら、商人ギルドまで足をお運びください。
本日は、お買い上げありがとうございました」
そう一礼すると、ローラさんはギルドへ帰っていった。
「では、白石さん、私たちはこれで…」
そういって、西城さん親子は、宿に戻っていった。
俺は、もう一度自分の家を見て、一度頷くと、
買い物をするために、町中をぶらついて宿に戻るのだった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。