第7話 商人ギルド
朝、ベッドから起きると、今日の予定を考える。
う~ん、今日は家を見に行くか。
しばらくこの町で暮らすんだし、宿暮らしよりも家を持った方がいいか。
それに、アイテムボックス内の
日本で使っていた家具とか出しておきたいし。
となると、住める家はいくらぐらいかということになる。
そんなことを考えながら、宿の裏にある井戸で顔を洗っていると、
朝食の準備ができたと、呼びに来てくれた。
食堂で、席について気になることを質問してみる。
「ネリネさん、この町で家を購入したいんだけど、
どこに行けばいいか分かりますか?」
宿の受付で応対してくれた金髪のお姉さんは、
ネリネさんというこの宿の女将さんだ。
旦那さんが厨房を主に任されているそうで、この宿は家族経営だそうだ。
昨日、夕食のときに少し話をして分かった。
「そうねぇ、家を購入するなら、やっぱり『商人ギルド』ね。
あそこで紹介してくれると思うわよ」
「商人ギルドですね、ありがとうございます。
朝食を済ませたら、行ってみます」
ネリネさんが、朝食を俺の目の前のテーブルに並べると、
「コータさんは、この町に住むことにしたの?」
「ええ、しばらくこの町で暮らして、いろいろ学ぼうかと思いまして」
「へぇ~、同じ町民として歓迎するわね」
いい笑顔で、ネリネさんは笑ってくれた。
「はい、ありがとうございます」
朝食を食べ終えると、受付に部屋の鍵を預けて宿を後にする。
向かうは、商人ギルドだ。
再び、その辺りを歩いている人に商人ギルドの場所を聞くと、
親切に教えてくれた。
「商人ギルドなら、この通りにある冒険者ギルドの隣にあるよ」
冒険者ギルドの隣とは気づかなかったな……
道を教えてくれた人にお礼を言って、俺は商人ギルドを目指す。
商人ギルドに着くまでに、その辺りをキョロキョロと見ながら歩いていると、
見知った人が、俺の前を歩いていた。
その人は、女の子の姉妹と手を繋いで歩く女性だ。
「あれ、母娘でギルドですか?」
母親の女性が俺の声に気づき振り向いてくれる。
「ああ……えっと、そう言えばお名前、聞いていませんでしたね」
そう、今の今になって俺たちは、
お互い名乗り会っていなかったことに気づいた。
「そういえば、
ここに来るまでの間も、名前で呼ぶこともありませんでしたね…」
名乗り会わずによくここまでこられたものだと、
今さらながらに、みんな自分のことで手いっぱいだったと思い知らされた。
「改めて、西条 彩音と言います。
この子が、長女の葵。 こっちが、次女のさくらです」
西城さんが、娘たちを紹介すると、それに合わせてお辞儀をする娘たち。
「これはご丁寧に、俺は白石 耕太と言います。
それで、西城さんたちは、冒険者ギルドへ?」
「いえ、その隣の商人ギルドへ向かう所です」
「ということは、家を購入されるんですか?」
俺の言葉に、少し驚いた表情を見せた西城さんは、
「白石さんも、商人ギルドで家を?」
「ええ、しばらくこの町で、いろいろと学ぼうと思いまして、
拠点のための家を購入しようかと思いましてね。
西城さんたちは?」
「私は、娘と暮らしていくには、宿での生活はちょっと……
それで、家を買うことを宿の人に相談したら、商業ギルドを紹介されまして」
「そうなんですか」
なるほど、母娘で生活するなら、
宿屋暮らしより自分の家を持つ方がいいわけか。
今後のことを考えると、
日本から持ってきたお金も考えての判断というわけだ。
「なら、一緒に行きましょう。
どうやら、目的の場所も同じのようですし」
「……そうですね、行きましょうか」
こうして、俺と西城さん親子は、商人ギルドへ歩いて行った。
朝の冒険者ギルドは騒がしい。
人の出入りも多いので、
気を付けるように宿の女将さんから注意されていた。
確かに、冒険者ギルドの朝は、騒がしかった。
西城さんの娘さん2人が、冒険者ギルドの前を通るとき、
耳をふさいだ行為は、分かるような気がするほどだ。
勿論、人の出入りも多かったが、気を付ければ問題なかった。
そして、俺たちは隣の商人ギルドの入り口にたどり着く。
「……こっちは、隣に比べて静かですね~」
「そうね、朝の商業ギルドはこんなものなんですかね?」
「とりあえず、中に入りましょう」
商人ギルドの中は、どこか銀行の中のように思えた。
入り口から入って右手には、交渉のための部屋に繋がるドアが並んでいる。
また、朝早いのか、ギルド内に人は少なかった。
俺たちは、ギルド内を少し見渡し、受付の女性に声をかけた。
「あの……」
声をかけた俺に気づくと、受付嬢は、笑顔で応対してくれる。
「商人ギルドへようこそ、ご用は何でしょうか?」
俺は、受付嬢の笑顔に少し安心して目的を話す。
「家を購入したいんですが、紹介してもらえますか?」
「わかりました。 えっと、ご家族で住まれるのですか?」
受付嬢は、俺の後ろにいた西城さんたちを見て聞いてくる。
「あ、いえ、彼女たちとは、別でお願いします」
そういうと、俺と西城さんを交互に見て、何かを悟った。
「あ~、そう言うことなら、別々の家をご紹介しますね」
「あの、何かすごい誤解をされたような気がするんですが……」
西城さんが、俺の後ろから受付嬢に言うと、
「え? 離婚して別居じゃないんですか?」
「「違います!」」
ギルド内に、俺と西城さんの声が響いた。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。