閑話1 事が起きる10日前
日本人が消える10日前、
ニューヨークに暮らす俺のもとに来た電話が、事件の始まりだった。
トゥルルルルル…
「はい……お~、ナンシー、久しぶり。
え? ……ああ、その企業の株なら持ってるぞ………は?
……すぐに売れって、その企業、何かやらかしたのか?」
それは、学生時代の友達だったナンシーからの、突然の電話。
ナンシーとは、大学時代、他の友達たちと一緒に遊んだ仲だ。
今は、どこかの学校で先生をしているとか友達から聞いていたが、
こうして連絡をくれるとは思わなかった。
しかし、なつかしい友達との電話に、会話も弾むかと思っていたが、
ナンシーは必死の態度で、俺の持っている企業の株を売れと言ってきた。
「ナンシー、必死なのはわかったから、理由を説明してくれ。
………うん………ああ…………わかった、
友人の頼みだ、今から手続きに入るよ」
ナンシーからの電話を切り、ナンシーの言っていた理由を考える。
「……しかし、そんなことがあり得るのか?」
今から10日後、日本が滅ぶ。
ナンシーは電話の向こうでこう言っていた。
これが妄想とか幻覚だっていうなら、信じなかったが、
ナンシーは、必死に俺に説明をしてくれた。
事の始まりは20年前、ある国に住むナンシーの友達が、神と名乗るものに、
ある試練を言い渡されたそうだ。
それは、1億人を救う薬を作れというもの。
ナンシーの友達は、勉強に勉強を重ねてアメリカに渡り、研究漬けの毎日を送り、
つい最近、やっとその薬を完成させたらしい。
その薬の効果は、絶大で、完成させたその日に、神と名乗るものが現れ、
ナンシーの友達の願いを1つだけ叶えてくれたそうだ。
それが、地球から日本人を消すこと。
勿論、そんな願いが普通なら受け入れられることはないそうで、
神を名乗るものも、困り少しだけ願いを変えていたとか。
それでも、地球から日本人がいなくなることは確実で、
期限は、今から10日後だそうだ。
……普通は、こんな話、信じないよな。
大体、神と名乗るものが試練を言い渡すってなんだよ。
しかも、その試練を真面目にやり遂げる、ナンシーの友達もいい根性してるよ。
あと、願い事も願い事だ。
1つの民族を消すなよ!
………文句はいくらでも出てくるんだが、何か気になるんだよな。
「……一応、株は売っておくか。
本当に何かあってからじゃ、遅いからな……」
言い知れない不安を抱えて、俺は持っていた日本企業の株を、
その日のうちにすべて売り払った。
また、日本企業株だけではなく、
他の持っていた株もついでにと売り払っておいた。
日本企業の株が暴落するなら、他の企業も危ないだろうと思ったからだ。
10日後、この不安は的中し、世界中の株価が大変なことになった。
しかし、日本人を消してくれか……
ナンシーの友達がどこの国の人間なのかは、大体わかったが、
ナンシーの友達はバカなんだろうな……
日本が無くなって、本当に喜ぶ人なんておそらく一握りしかいないだろう。
10日後、世界は大混乱だ。
そして、元に戻るまで、何が起きるか分からない。
日本人がいなくなった日本列島。
日本がため込んできた情報は、ある程度は残るはずだ。
なら、それをめぐってどの国が動くか……
まあ、最初に動くのはわが国だろうな。
軍事基地もあるし、次が隣国の連中か……
もしかしたら、これがきっかけで戦争へ発展するか?
よくよく考えてみれば、日本の周りって危ない国が多いな……
俺の不安は、尽きなかった……
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。