第5話 ルムナの町へ
草原を魔物に気を付けながら西へ進むと、
土がむき出しになった道らしきものがあった。
「……どうやら、これが街道のようですね。
馬車が通っているらしい轍の跡があります」
先頭を歩いていた俺が、みんなに聞こえるように街道を確認すると、
全員が轍を確認して、少し安心したようだ。
「じゃあ、この道をさらに西へ向かえば町に着くんですね?」
女子高生の1人が俺に確認してくる。
「ええ、天使の話では『ルムナ』という町があるそうですよ」
「よし! それじゃあ、元気出して行こうぜ!」
男子高生の1人が、みんなに檄を飛ばすと先頭を歩きだした。
それに従うように、みんな彼の後を追うように歩き始める。
もうすぐ町に着けると思って。
俺は、歩きながら自分のスキルについて考え実験している。
こんな時『自動車』なり『馬車』を召喚できれば便利なのにと考えるが、
召喚術[神]は、正確なイメージが必要だ。
俺は『馬車』に乗ったことも触ったこともないし、
実を言うと『車』の免許も持っていない。
でも免許書は持っている……原付を乗るためにとったやつだけど……
今も、正確にイメージしたスポーツドリンクを召喚し、のどを潤しているが、
イメージがあいまいな、名前だけ聞いたことある飲み物は召喚できていない。
ステータスカードで、スキルの詳細を調べてみると、
そうそう、この天使にもらったカードだが、
正式には『ステータスカード』と言うそうだ。
高校生の人たちにカードのことを聞いた時、教えてもらった。
で、そのステータスカードで、スキルの説明を見ると、
イメージがあいまい、名前が分からないでは召喚に失敗するとあった。
でもその下に注意書きがあり、
スキルレベルが上がると、
イメージがあいまいでも名前が分かっていると召喚できるとある。
……やはりこの召喚術は当りだったかもしれない。
でも、制約があるんだよな……
『召喚可能数は10個、人なら6人まで』
まあ、これはなんとなくわかる。
『召喚する大きさにより、消費魔力は大きくなっていく』
『ただし、能力の差で召喚魔力が多くなることはない』
これは、召喚魔力は大きさで決まるってことだな。
ということは、巨人を召喚するよりも英雄を召喚しろってことだろう。
能力の差で消費が変わらないならな……
いろいろと考えていると、先頭を歩いていた男子高校生が、
『ルムナ』の町を発見したようで、騒いでいる。
それを確かめるように、全員が男子高校生のもとに走り出した。
『ルムナ』の町は3メートルほどの壁に囲まれた町のようだ。
ここは辺境の町だから分からないでもないんだけど、
俺たちがここに来るまで、出会った魔物はゴブリン3匹のみ。
それを考えると、この壁はいるのかな?という疑問が生まれる。
しかも、壁はレンガでできているみたいで、
こんなのは地球でも見たな、というのが俺の感想だ。
そんな壁の一部に、門があった。
「門の所で、人が並んでいるな……」
青年が、ワクワクしながら確認している。
俺たちは、門の側にできている行列に大人しく並んで待つ。
「こうして、町に入るとき門番にお金を渡すんですよね?」
男子高校生の1人が、俺に聞いてくる。
「物語とかでは、お金を払うみたいだけど、現実はどうなのかな?」
「でも、身分証とかは、いりますよね?」
「まあ、犯罪者とか危険な人を町に入れないために確認はするだろうね」
「なら、僕たちの犯罪歴とかを確認するのかな……」
この高校生、すごく不安な顔をしているな……
地球にいた頃に何かやったのか?
でも、この世界に来てからは何もしてないんだから、大丈夫だろう。
「門番が気にする犯罪は、殺人とかじゃないかな?」
「で、ですよね? ……なら大丈夫だ……」
男子高校生は、安心したようだが、
いったい地球の日本で何をやらかしたんだ?
列に並んでから10分ほどで、俺たちの番になった。
門の側に行くと、軽鎧を着た兵士が3人立っていて、俺たちに声をかける。
「えっと、君たちは……12人でこの町に来たのかな?」
「はい、みんな同じ出身地です」
俺が代表で答えていく。
「では、身分証を出してくれ」
「身分証というと?」
「各ギルドのカードとかだが、持ってなさそうだな」
「すみません、出てきたばかりなので……」
「それなら……」
そういうと、兵士の人は、他の兵士の人に「あれを持ってきてくれ」と、
詰所の中に取りに行かせる。
そして、1分ほどで兵士が持ってきたのは、
30センチほどの棒状の透明なものだった。
「それ、なんですか?」
不思議に思った俺は、つい兵士の人に質問していた。
「初めて見るか? これは罪を犯したものかどうかを見る魔道具だ。
これを握ると、罪を犯していれば赤く、犯してなければ青く光る」
「へぇ~」
これが『魔道具』かと、物珍しさに眺めていると、
兵士の人に棒を握るよう言われる。
「では、この棒を握ってくれ」
俺たち全員が棒を握り、罪のあるなしを確認したが全員白だった。
あの不安そうにしていた男子高校生も、青く光ったので大丈夫だったようだ。
「では、町に入るための税金として銀貨1枚貰うが大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
という俺の言葉に、全員がアイテムボックスから銀貨1枚を取り出し、
兵士に渡していく。
「よし、これで君たちはこの『ルムナ』の町に入っていいぞ。
改めて、ようこそ『ルムナ』に!」
こうして、俺たちは町へ入り、それぞれで生きていくことになった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。