第38話 ギルドへの報告
ムルナの町へ帰ってくると、すぐに魔術師ギルドへ向かった。
町の中は避難してきた人たちが帰ってきたばかりで、
開いている店も少なかったし、屋台などはまだ出てなかったが、
しかし、活気は戻りつつあった。
また、各ギルドにもオーク戦に参加した人たちが集まり、
戦勝祝いをおこなっているところや、
報酬をもらうべく並んでいる人などがいた。
それは魔術師ギルドも同じで、いつもとは違い、ギルド内は大勢の人がいた。
オークとの戦いから数日しかたっていなければ、
こんなものなのだろうと、オリビア先生とアビゲイルさんは、
あきらめて列に並び依頼の報告をおこなっている。
俺と西条さん親子は、人が大勢いるギルド内で待っていると、
受付嬢のセルシーさんが声をかけてくれた。
「コータさん、アヤネさん、どうでした?
魔術師の先生についてもらっての授業は」
セルシーさんは、俺と西条さんの前に来て聞く姿勢をとってくれる。
「はい、オリビア先生には感謝しかありませんよ。
いろいろ教えてもらいましたし、将来の相談も乗ってくれましたから」
「私も、アビゲイルさんが先生で助かりました。
この子たちとも仲良くなってもらって、
しかも、魔術まで教えてもらいましたし、楽しかったです」
西条さんは、葵やさくらの頭を撫でながら感想を報告している。
俺たちの意見を聞いて、セルシーさんは何かメモしている。
多分、オリビア先生やアビゲイルさんの先生としての査定だろう。
俺たちの教師も、一応依頼だったし……
そういえば、オリビア先生にとっては進級依頼だったな……
「あ、そういえばラルガ村にもオークが出たそうですね。
お二人は、戦闘に参加されたんですか?」
「はい、この子たちは参加しませんでしたが、私は参加しました。
おかげでレベルが大幅に上がりました」
「俺も参加しましたよ。
でも、村につくとゴブリンとコボルトに襲われていまして、大変でした。
オークも襲ってくるし……
ラルガ村が狙われているのかって、考えちゃったぐらいですから……」
セルシーさんは、俺の意見を聞き、少し考え込む。
「ラルガ村が、狙われた……ですか……」
「……あの、何かありましたか?」
俺が、少し不安そうな顔でセルシーさんに質問すると、
すぐに笑顔で否定して、再び質問に移った。
「ああ、いえ、何でもないんですよ。
ところで、コータさんもレベル上がったんですよね?」
「はい、オーク戦に参加してますから、
俺も大幅に上がりましたね」
セルシーさんは、メモを取りながら「うん、うん」とペンを動かしていた。
「それじゃあ、今日で授業依頼はお終いですけど、
これからも魔術や魔法の勉強は続けていかれますか?」
俺と西条さんは一度見合わせると、セルシーさんに向き直り、
「「勿論です」」
と、声をそろえて返事をしていた。
その答えにセルシーさんは満足したのか、笑顔で応援してくれました。
「えっと、聞きたいことは以上ですね。
この後は、オリビアさんとアビゲイルさんに挨拶をして解散となります。
明日からのご予定はありますか?」
「私は、子供たちと一緒に魔術の勉強を始めます」
「コータさんは?」
西条さんの向上心に満足し、俺にも期待を込めて聞いてくる。
「俺は、将来のために薬師ギルドへ行ってみるつもりです。
魔術や魔法の勉強も大切なんですけど、
ポーションの作成もやってみたいので……」
セルシーさんは俺の答えに何度も頷きながら、
「うんうん、オリビアさんが期待できると褒めているだけはありますね。
コータさん、魔術や魔法の勉強も薬師に活かせますから、
しっかり勉強をしてくださいね」
「ありがとうございます」
……オリビア先生が、俺のことを褒めていた?
あれ? セルシーさん、ポロッと気になることを言ったような…
俺がそのことについてセルシーさんに聞こうとすると、
オリビア先生とアビゲイルさんが、ウンザリした顔で帰ってきた。
「……セルシー、受付で仕事しなくていいの?」
アビゲイルさんは、
俺たちの前にいるセルシーさんを見つけて声をかけるが、
「私はコータさんと、アヤネさんの依頼の件でここにいるのよ?
それから、これで授業依頼は終わり。
あと、オリビアさんの進級は2・3日かかるけど、
おそらく合格で間違いないと思うから、
通知が来たら近くの魔術師ギルドへ来て、手続きをしてください」
「わかりましたわ」
「後、授業依頼の報酬は……後日の方がよさそうね。
今はオークとの報酬で、ギルド内は忙しそうだからね……」
今、このギルド内にいる人たちが、オークとの戦いに参加した人たちかと、
キョロキョロ眺めていると、オリビア先生に頭を叩かれた。
「じろじろ見ていると、からまれますわよ?」
「……すみません」
「それで、ギルドを出て解散ということですわね?」
「ええ、依頼はすべて報告を済ませていますから、
報酬は後日ならば、ギルドに留まる必要はないですね」
受付嬢のセルシーさんから、ギルドにいる必要はないと言われたので、
俺たちは人がたくさんいたギルドから出て、解散した。
オリビア先生やアビゲイルさんとの別れは、さっぱりしたものだった。
アビゲイルさん曰く、またどこかで会えるとのこと。
俺と西条さん親子は、オリビアさんたちにまた会えるとしても、
どこか寂しいものがあったのは言うまでもない。
その後、薬師ギルドの前で西条さん親子とも別れた。
俺はそのまま、薬師ギルドの中へ、
西条さん親子は、いったん自分の家に戻ってから本屋に行くそうだ。
これからは、どこで一緒になるか分からないけれど、
この町にいる限り、また会えるだろう。
こうして、俺たちはそれぞれの道を歩み始めた。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




