第37話 監視する者たち
ラルガ村からさらに北に少し行ったところに、小高い丘がある。
その丘も草木が茂り、森の一部のようになっているが、
その木に登って、ラルガ村を見ている人影が2つあった。
その人影は、忍者のように黒い忍び装束に身を包み、
手には双眼鏡を持って、ラルガ村を監視していた。
「兄貴、どうやらあの村、凌ぎきったようですぜ」
「ああ、見えてるからわかる」
「どうするんっすか?」
「正直に報告するだけだ」
双眼鏡を外し、兄貴と呼んでいた忍びの男を見ると、
困ったような顔で質問する。
「依頼人が納得するんっすか?」
兄貴と呼ばれた男は、双眼鏡を覗きながら、
「納得しようがしまいが、俺たちは依頼通りやったんだ。
その作戦がうまくいかなかったんだから、俺たちに責任はないよ」
再び、もう1人を兄貴と呼んだ男が双眼鏡でラルガ村を覗き始めると、
「兄貴…」
「あぁ?」
「この世界に転移してから、最初の仕事がこれで良かったんですかい?」
「それは、どういう意味だ?」
「北にある国が、南のこの国を攻めるための拠点にって、
あの村を狙っていたんっすよね?」
「……そう依頼書にあったな」
「冒険者ギルドで登録して、その後忍者スキルを活かすためにって、
兄貴とそろって盗賊ギルドに登録して、初めての仕事がこれっすよ?」
「ああ、そうだな」
「……兄貴、盗賊ギルドって難易度高めじゃないっすかね?」
「……ギルドの受付嬢のお勧め依頼だったんだがな……」
「あ~、あの受付嬢、別れた姐さんに似てましたね……」
「………依頼は失敗したし、帰るか……」
「そうっすね」
2人の人影は、双眼鏡をアイテムボックスにしまうと、
煙のようにその場所から消えてしまう。
ラルガ村で俺たちは2日ほど過ごして、事後処理を終えた。
事後処理といっても死体となったオークから魔石を回収し、
後は、ゴブリンやコボルトと同じように焼却処分するだけだ。
オークの死体はゴブリンやコボルトと違い良く燃えたと、
オリビア先生やアビゲイルさんが感想をもらしていた。
村での事後処理を終えた俺たちは、村の人たちと別れて、
ムルナの町へと帰っていく。
ただ、村を出発する時、村の人たちから
すごく感謝の言葉を送られたのは、なんだか気恥ずかしかった。
あと、川島さんにも感謝されたよ。
この異世界に来て久しぶりの日本人だったようだ。
町には俺たち以外の日本人もいますよと教えてあげたら、
今度町にもいくよと言っていた。
その時は、町の案内ぐらいはしてあげようかな。
村を離れ、例の案内板の所でオリビア先生に止められた。
「それで、ラルガ村での戦闘でレベルは上がりました?」
「はい、オリビア先生。
ゴブリン倒したり、コボルト倒したり、オーク倒したりで上がりましたよ」
俺がうれしそうに、レベルが上がったことを報告する様子を見て、
アビゲイルさんが、西条さんにも聞いている。
「アヤネはどう? レベルはコータ君みたいに上がった?」
「はい、私も上がりました」
「私も、上がったよ~」
「さくらも上がったの!」
西条さんの報告の後に、嬉しそうに葵とさくらが元気に報告する。
そういえば、ゴブリンとコボルトを退治するときは一緒に参戦していたな……
西条さんと一緒に魔術を撃っていたっけ。
「へぇ~、葵ちゃんもさくらちゃんもすごいな。
それじゃあ、どれだけ上がったか教えてくれるかな?」
葵とさくらは、自分たちのアイテムボックスから
ステータスカードを取り出し、レベルを確認して報告する。
「私は、レベル1からレベル14に上がりました」
葵は少し胸を張って得意げに報告する。
「レベル14ってすごいな~」
アビゲイルさんはそういって葵の頭を撫でて褒めている。
「はい、はい、さくらはレベル12に上がってました!」
「さくらちゃんも強くなったね~」
アビゲイルさんは、そう褒めながらさくらの頭を撫でてやった。
撫でられた葵もさくらもうれしそうに、顔がにやけている。
アビゲイルさん、この短期間に2人とかなり打ち解けたみたいだな。
「アヤネはどうです?」
葵とさくらを撫で終わると、西条さんのレベルを聞いてくる。
「はい、私はレベル2がレベル36になってました」
西条さんは、オーク戦も参加していたからそれだけ大幅に上がったのか。
ということは、俺もかなりレベルが上がっているはず……
「アヤネはオーク戦の時もいたから、それだけ上がったんだね~」
「「お母さん、すご~い」」
葵とさくらに尊敬の眼差しを送られ、照れている西条さん。
恥ずかしがって照れている姿は、とても2児の母とは思えないな……
……とりあえず、俺は視線そそらし、
自分のステータスカードに視線を向け、レベルをチェックする。
「それで、どれだけ上がったの?」
オリビア先生が、質問してくると、
アビゲイルさんや西条さん親子も、俺のレベルに注目する。
「あれ?」
「ん? どうかしたの?」
アビゲイルさんが、気になって質問してくれる。
「えっと、俺の討伐数って西条さん、アヤネさんと変わりませんよね?」
「詳しくは分からないけど、大体そんな感じだったわね」
「うん」
オリビア先生とアビゲイルさんが、頷いてくれる。
「だとするなら、
俺のレベル3からレベル45に上がるのはおかしくありませんか?」
「……誤差の範囲じゃない?」
「ん~、アヤネより少し多く倒したんじゃないかな?」
そうなんだろうか?
俺のレベルの上がり方には、少し疑問が残るな……
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




