第4話 初戦闘
森の中で目を覚ました俺は、さっそく獲得したスキルを使ってみる。
【空間把握】
「うわ、これが空間魔法の空間把握。
ざっと、200メートル内の敵味方が分かるってところだな……
敵は赤く、味方は青く見えるみたいだ。
今の俺の周りには、空間把握ギリギリのところに赤い敵が1つと、
10メートル以内に味方が、5……7……12人か。
白い空間にいた時の人数より多いな」
俺は敵がいないことが分かって、木から地面に降りる。
木から降りてすぐに周りを確認すると、
白い空間で会っていた人たちに加えて、人が増えていた。
「……なんか学生が増えたな」
そう俺が感想をもらすと、近くにいた学生の男が俺に近づく。
「あのさ、ここがどこだか分かるか?」
何だろう、すごい馴れ馴れしいなこの子は……
「ああ、ここは異世界だな。
君も日本人なら、白い空間で天使に会わなかったか?」
「天使って言ってるやつには会ったけどよ、
スキルの話に夢中で聞き逃していたみたいなんだよ。
だから、これからどこに行けばいいか分からなくてな……」
この子は、肝心なことを聞き逃していたのか。
「確か、天使の話だと、西に行けば町があるから、
まずはその町へ行って、情報集からじゃないかな?」
「なるほど、西にある町か。
サンキュー、おっさん。 助かったぜ」
そうお礼を言うと、他の学生のもとに走って行く。
これから先、この異世界で生きていかないといけないのに、大丈夫かな?
まあとりあえず、俺も他のみんなも西へ移動するみたいだし、
町へ行ってからじっくり考えるかな……
俺は空間把握で、周りを気にしながら森を西へと進み、
5分ほどで草原へ出ることができた。
「わあ~、こんな草原初めて~」
「すごいね、お姉ちゃん!」
母親と一緒に歩いていた女の子2人は、草原を見て感想をもらす。
確かに、地球だとモンゴルの大草原が有名だけど、
そんな感じがするな……テレビでしか見たことないけど……
……日本にいた頃なんて、金のかかる旅行は行かなかったからな。
ましてや、海外旅行なんて夢のまた夢だったよ。
しかも、地元から出たことすらなかったし……
だから、初めて地元から出て異世界。
何か、いろんな段階を飛ばした気がするな……
森を出たところで、少し休憩して、今度は草原を西へ進む。
2人の女の子の手を繋いで歩く母親と姉妹、
同じ会社の同僚らしい2人のおじさん、大学生と思われる青年。
そして、この場所に来て増えた高校生と思える男子3人女子2人。
俺を入れた合計12人が、ぞろぞろと歩いている。
「みんな止まって!」
俺が叫ぶと、全員が俺に注目する。
「……なんだよおっさん、何かあるのか?」
「……この先20mぐらいの所に敵がいる。
それも3匹、だから気を付けて『敵だって?!』」
俺の言葉を遮ったのは、後ろから付いてきた高校生の男子の1人。
「おじさん、敵って、分かるんですか?」
「あ、ああ、俺は空間把握っていうものがあるから、敵味方が分かるんだよ」
「空間把握ってことは、スキルですか?」
高校生の男子たちと一緒に、青年も目をキラキラさせながら近寄ってくる。
「ちょっと今はそんな場合じゃないでしょ!」
高校生の女子の1人が、注意してくれる。
男子たちも青年も、苦笑いだ。
「あの、それでどんな敵がいるのか分かりますか?」
母親の女性が、俺に聞いてくるが、
「すみませんが、そこまではわかりません」
「そうですか……」
母親の女性は、残念そうに言ってくる。
「どうする? よけて進むか、戦って進むか」
男子高校生の1人が提案してくるが、
「勿論、戦って進む!」
と、男子高校生の1人が戦うことを選ぶと、何故か戦うことに決まった。
これって集団心理なのかな?
全員戦闘準備して、戦えない人は後方に下がりだす。
俺は空間把握で、敵の場所を確認してみんなに教える。
「この先、20メートル、南へ少し動いている」
「「「了解!」」」
近接戦闘担当は、男子高校生2人とおじさん1人が先頭で歩いていく。
少し進んでいくと、敵が見えてくる。
「む、敵発見!」
「あれって、ゴブリンじゃね?」
「……くすんだ緑の小学校低学年ぐらいの身長、それにあの醜い顔。
間違いなくゴブリンだな」
3匹のゴブリンが、俺たちの見える位置に現れた。
しかし、ゴブリンたちはまだ、俺たちに気づいてないみたいだ。
ゴブリンの武器は、こん棒2、剣らしきもの1。
「私が、魔法で攻撃してみるわ」
女子高生の1人が、右手を前に出して呪文を唱える。
「――――【ウィンドカッター】」
魔法名を唱えるとともに、女子高生の頭の上の空間から風の刃が3枚、
ゴブリンに向かって飛んでいく。
そして、瞬きをする間もなくゴブリンを上下に両断していく。
両断されたゴブリンは、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
その光景に、俺たちは全員、唖然と驚いていた。
魔法を使った女子高生も、自分の魔法に驚いていた。
「……しかし、驚いたな」
ゴブリンを倒し、再び西の街を目指して歩きだした俺たち。
しばらく歩いたところで男子高校生の1人が漸く感想を言うことができた。
「確かに、風の魔法でゴブリン殲滅はすごかった!」
さらにその隣を歩いていた男子高校生が同調する。
「でも、ゴブリン、あのままにしてきたけど、いいのかな?」
さらにさらにその隣を歩く男子高校生が、不安なことを言う。
「少し不安だけど、ゴブリンのどこが何に使えるかなんて
分からないんだから、しょうがないって。
それに、ゴブリンを持ってきたとして、どこに持っていくよ」
「ん~、確かに何にも知らないんだよな、俺たち……」
「だから、これから行く町で情報収集が必要なんだろうな」
男子高校生たち3人の会話を聞きながら、俺たちは西へ歩いて行った。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。