第32話 もたらされた情報
オーク1000匹の進撃報告により、
森から撤退のための信号弾による合図を見た冒険者たちは、
続々と森から撤退し始めている。
あるものは撤退に疑問を持ちつつも、
あるものは恐怖を感じて、
またあるものは、オーク集落にて進撃してくるオークの数に怯え、
信号弾の合図を機に、なりふり構わず撤退した。
そんなことが森で起こってるとはつゆ知らず、
ブルラ村に2泊した俺たちは、今日も外壁構築の手伝いをしていた。
川島圭吾さんが中心となって、村を囲むように外壁を造っていたのだが、
この外壁は、町などに築いているものとはちょっと大きさが違う。
高さは5メートルぐらいしかなく、
さらに外壁上部に人が歩ける幅が必須となっている。
ゴブリンやコボルトが攻めてきたときは東側のみだったが、
あれから2日がたち、俺たちが手伝ったおかげで、
北側と南側に出入りの門を造り、西側を残して外壁は完成していた。
なぜ西側を残したかというと、西側は拡張するために残してくれと、
村長に頼まれたからだ。
完成した城壁の上に座り、オリビア先生やアビゲイルさん、
西条さん親子に川島さんと昼食をとっていると、村長の使いの女性が、
オリビア先生とアビゲイルさんを呼びに来た。
「オリビア様、アビゲイル様、村長がお呼びです。
町から冒険者の方たちが来て、
ゴブリンやコボルトが攻めてきたことで話があると……
そのため、ぜひ説明をお願いしたいと」
オリビア先生は、サンドイッチを食べながらアビゲイルさんを見ると、
アビゲイルさんはため息を吐いている。
どうやら呆れているようだ。
「それって、村長が冒険者に説明できなかったってこと?」
「あ、いえ、現場での状況が聞きたいからだと思います」
「そういうことならわたくしたちが行って、
説明して差し上げることがよろしいですわね」
そういうとオリビア先生は、紅茶を一口飲むと立ち上がって、
アビゲイルさんと使いの人と一緒に外壁を降りて行った。
残されたのは、西条さんと母親の側でお昼寝する葵とさくら。
いまだサンドイッチの美味しさに心奪われて食べ薦めている川島さん。
そして、俺は食後のデザートにシュークリームを出して食べていた。
「しかし、召喚魔法は便利だな!」
川島さんは大皿に載っていたサンドイッチすべてを食べて、
召喚魔法の便利さを羨ましがった。
「いろいろと制約がありますから、使い勝手はあまりよくないんですよ?」
「そうなのか? それでも俺にとっては羨ましいよ」
「川島さんは、スキル選びの時に考えなかったんですか?」
「召喚魔法を選ぶことか?
あの時は異世界で生きていくことだけを考えて選んだからな……
スキル欄にあっても選ばなかっただろうな」
「今、選びなおせるとしたら、召喚魔法を選びますか?」
「ん~、多分選ばないだろうな。
今のスキルだけで十分生きていけるし、
それに、レベルをあげればさらにスキルを覚えられそうだからな!」
「前向きですね、川島さん」
「あ~、訳も分からず異世界に来ることになったからな……
もう少しこの世界で生きていけば、召喚魔法がほしくなるかもな」
大半の日本人は、何故この異世界に来ることになったのか理由が分からない。
あの白い空間にいた天使に聞けば、簡単に教えてくれただろうが、
みんなそこまでの余裕はなかったようだ。
現に目の前にいる川島さんも、理由を知らなかった。
みんなこれから行く異世界のことで、頭がいっぱいだったのだろう。
「そういえばさっき、冒険者が来たそうでけど何しに来たのかしら?」
西条さんの疑問に、俺と川島さんもそういえばと疑問に思う。
ゴブリンとコボルトが攻めてきたのが2日前。
冒険者が加勢に来るには、遅すぎる。
「ん~、援軍……ではないですよな。
あれから2日もたっているし……」
川島さんも、はっきりと分からないようだ。
俺にも分からないが、もしかしたらオーク討伐の影響が出たので、
注意するようにとの注意喚起できたのかも……
「確か、冒険者の人たちはオーク討伐で騒いでいたから、
その影響で何かあったのかもしれませんね」
「何か、ですか?」
「ええ、例えば生き残ったオークがこっちに向かったとか?」
「それは怖いな、だが、外壁は完成した。
森の方角からオークが来ても対処はできるだろう」
俺と西条さんは、今いる外壁を見渡し頷いた。
「そうですね」
俺たちがいろいろと雑談していたところに、
オリビア先生とアビゲイルさんが帰ってきた。
2人の顔は真剣そのもので、何かあったことは確かだ。
「オリビア先生、何かあったんですか?」
オリビア先生は俺の質問に、アビゲイルさんを一度見て真剣に話してくれた。
「いい? 先ほど来た冒険者たちは遅れた援軍だったわ。
オーク討伐に冒険者の大半が集まって、
こっちに冒険者を送ることができなかったって、謝っていたわね」
オーク討伐よりも緊急依頼だろうに……
冒険者ギルドの失態かな。
「まあそれはもういいんだが、ここからが大切なことだ」
今度は、アビゲイルさんが話し始める。
「オークの討伐で、
オークの集落を落とすことはできたらしいんだが、
その集落に向けて、
約1000匹のオークが攻めてきていることが分かったんだ。
そのため、オーク討伐はいったん中止し、
町全体でオークの侵攻をどうするかと、
話し合いと防衛の準備が始まったそうだ。
そのため、この村に避難してくる町の住民を受け入れてくれないか、
という話だったんだ」
「オークが、1000匹ですか?」
「斥候の話ではそうらしい。
私とオリビアはここに残って村を守ることにしたが、君たちはどうする?」
……どうするって、どうしよう……
町には自分の家があるしな……
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




