第31話 失態と始まる脅威
今回も前の話の冒険者視点です。
ゴブリンの集落から南へ向かった後、
オークを捜索していた仲間と合流し、発見した集落の情報を伝えるため、
俺たちは、森をすぐ出たところに設置されている、
冒険者ギルドの出張テントに、入っていった。
ここには、ギルドから副ギルドマスターとベテラン受付嬢がいて、
オーク討伐の指揮をとりながら、情報収集もしているのだった。
俺たちの報告を聞いて、副ギルマスが眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
「それじゃあ、発見したゴブリンの集落にも、
コボルトが集団でいるであろう洞窟も、もぬけの殻だったというわけだな?」
「はい」
「ん~、どこに向かったのかは分からなかったのか?
ゴブリンの足跡が続いていたとか……」
「いいえ、大群が通った後はありませんでした」
「……集落があったということは、報告の大きさから100以上はいたはずだ、
それが移動したとなれば、どこかに形跡があるはず……」
副ギルドマスターのコルバル様は、腕を組み、
側にいるベテラン受付嬢のナナリーに相談しだした。
「コルバル様の言うように、形跡がないとすれば考えられるのは、
一斉に移動したのではなく、少しずつ移動したのではないでしょうか?」
「ん~………そういえばさっき、グリーナのパーティーも、
ゴブリンの集落を発見したとか騒いでいたな?」
「はい、ですがその集落も、
もぬけの殻だったようで残念がっていましたね」
今一つ考えがまとまらないのか、コルバル様は地図を取り出し、
ゴブリンの集落や、コボルトの洞窟、さらにオークの集落の位置を、
確認しだした。
「この地図の位置関係ならば、コボルトやゴブリンの集落は近いな。
グリーナ達が発見したゴブリンの集落も、お前たちが発見した集落の近くだ。
この空っぽの集落から一番近い場所は……『ブルラ村』になるな。
ナナリー、ブルラ村からの緊急依頼は出されていたか?」
コルバル様が受付嬢のナナリーを見て質問すると、
ナナリーの顔色が青白くなっていく。
「ど、どうしたナナリー、顔色が悪い「申し訳ございません!」ぞ?」
コルバル様のセリフを遮って、ナナリーが頭を下げて謝る。
その行動に、コルバル様は恐る恐る質問した。
「……依頼が、あったのか?」
「はい、ブルラ村からゴブリンとコボルトに襲われていると……」
コルバル様は勢いよく立ち上がり、ナナリーを怒鳴りつける。
「バカものっ!!」
「も、申し訳ございません!
オーク討伐に参加者が殺到し、ブルラ村に行ってくれる……」
「言い訳は必要ないっ!
すぐにギルドに知らせてブルラ村に冒険者を向かわせろっ!」
「はっ、はい!」
ナナリーは、すぐにテントを出ていき、
馬で町へ走って行った。
「くっ、大失態ではないか……」
ナナリーが出ていった後のテントで、
コルバル様は苦虫を噛み潰したような顔で、後悔をされているようだ。
……俺はそれを傍で見ているしかなかった。
「……バストール、ブルラ村は大丈夫だと思うか?」
コルバル様が、地図とにらめっこしながら、
呟くように俺に質問してくる。
「わかりませんが、ブルラ村の依頼で別のものもあったはずです」
「別のもの?」
「はい、何日か前にブルラ村で続く、農作物の被害の原因調査の依頼です。
仲間と受けようかどうか相談したのを思い出しました」
「……受けなかったのか?」
「はい、報酬が少なかったので……」
「そうか……」
コルバル様が、ひどく落ち込んでいる。
「あ、でも、確かその依頼、魔術師ギルドにも出されていたそうですから、
そっちで受けた人がいるかもしれないです」
「……もし、魔術師ギルドで受けた人がいるなら、
今頃は大変なことになっているのかもな……」
俺は何も言えずに、口をつぐんでしまった。
農作物の被害の原因を探る調査が、ゴブリンやコボルトに襲われる、
ブルラ村の救助要請に変わるとは、夢にも思わないだろう。
見捨てるわけにもいかず、村の人たちが非難、もしくは、
村からの脱出の時間稼ぎをしなくてはと思うといたたまれなくなったのだ。
そんな重い空気の中、1人の兵士が飛び込んできた。
「た、大変です!
オークの集落にオークの大群が攻めてきました!
その数、ざっと1000匹!!」
俺もコルバル様も、聞き間違いではないだろうかと、
息を切らせて、飛び込んできた兵士にもう一度聞き返した。
「……すまないが、もう一度言ってくれ」
「は、はい!
オークの集落にオークの大群が攻めてきました!
その数、ざっと1000匹!!」
せ、1000匹だと?
どこにそんなにオークがいたんだ?
俺たち冒険者があれだけ探したのに……
オークの集落に残っていたオークはわずかだった。
しかも大規模の集落といっても収容人数は400ちょっと。
だとするなら、1000匹もの大群をどこから集めてきたんだ?
コルバル様は、すぐに立ち上がると、俺と伝令の兵士に指示を出す。
「兵士の君は、町へ行き全ギルドに知らせてくれ!
疲れているところ悪いが、緊急事態だ!
それから、ミレニードの町への伝令もお願いしてくれ!
バストール、すぐに信号弾をあげて森にいる冒険者に知らせろっ!
森から撤退しろとな!」
「「わ、分かりました!」」
兵士はすぐに外に出て、テントの側につないであった馬にまたがり、
町へ向けて走りだした。
俺は、外に出るとテントの裏に止めてある馬車の中から、
緊急時に使うための魔導砲を取り出し、森の中からも見えるように、
森の上空に向けて発射した。
大きな音とともに、火の玉が森の上空にさしかかると、
大きな爆発音とともに青い光が辺りを照らす。
しばらくすると、森の中から冒険者たちが走り出てきた……
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




