第29話 村にいる日本人
日本にいた頃、テレビで有名な若手俳優が今、俺たちの目の前にいる。
それは男の俺でも、ドキドキさせられる展開だった。
若手俳優の山崎賢二さんは、オリビア先生とアビゲイルさんに、
握手をして挨拶した後、西条さん親子、俺の順で挨拶してくれた。
今回の戦闘に参加してくれたことを、すごく感謝してくれて、
一番目立つ戦いをしていたオリビア先生や、
アビゲイルさんの戦いぶりを周りの人から聞いたらしくて、
2人の戦いぶりを褒めていた。
ただ、後から来た村の人にゴブリンやコボルトの焼却をお願いされ、
オリビア先生とアビゲイルさんが離れると、
少し態度が変わって話始める。
「それにしても、きれいな方たちですね?」
山崎さんは、俺に聞いてきた。
「えっと、さっきのお二方ですか?」
「ええ、あのような美女たちは、この村にはいませんからね。
どうです?」
「………どうとは?」
「鈍いな~、彼女たちっておじさんの『コレ』でしょ?」
……マジか、山崎賢二。
小指立てて、君の女でしょアピール、久々に見たぞ?!
俳優って、女好きが多いのかな?
「えっと、彼女たちとはそんな関係じゃないけど……」
「ホント? それじゃあ俺が落としてもいいんだよね?」
「ま、まあ、それができるなら……」
「よしっ、言質とったからね?
後から、邪魔するのもなしね~」
か、軽い、軽すぎるぞ?
おかしいな……ドラマの役を演じている時やインタビューの時とは、
性格が正反対だ。
「………」
隣にいる西条さんを見ると、ものすごく幻滅したような表情だった。
ま、まあ、しょうがないよな、これが芸能人なのかもしれないし……
その後、いろいろとオリビア先生やアビゲイルさんのことを、
しつこく質問していたところに、同じ日本人らしき人が声をかけてくれた。
「賢二君、下で村長さんが呼んでるよ~」
「あ、圭吾さん、ありがとうございます!
それじゃあ、お二人さん、また今度ね~」
そう軽く挨拶して、外壁の階段を降りて行った。
山崎さんと入れ替わるように、山崎さんを呼びに来た人が俺たちに近づく。
「すまんが、君たちって日本人であっているか?」
歳はおそらく50代後半、渋めの男性で、体は鍛えてあるようで、
傍から見ても若々しく見える。
ただ、どこかで見たことある顔なんだよな……
「は、はい、俺は白石といいます。
こちらは西条さん親子で、母親の彩音さんと葵とさくらです」
西条さん親子は、俺が紹介すると頭を下げて挨拶をし、
男性に質問していた。
「あの、川島圭吾さんですよね?」
「え、川島圭吾って、あの名脇役で有名な?
………どうりでどこかで見たことあるわけだ……」
俺がジロジロと川島さんを見ていると、
川島さんは、不快な顔をせずに『ふっ』とニヒルに笑ってくれた。
「俺のことを知ってくれてる人に出会えるとは、有難いことだ」
「か、かっこいい……」
西条さんは、川島さんのファンなのかな?
……握手してもらってるし。
「あ、そうだ川島さん、他にこの村に日本人はいるんですか?」
「この村にいるのは、私とさっきの賢二君、
後、女子高生が3人いたんだが賢二君にしつこく言い寄られたみたいで、
次の日には3人とも、この村を出て南の町へ行ったようだ。
後は、赤ん坊が1人か」
山崎さん、手当たり次第だな!
日本だったら、犯罪だぞ?
「それにしても、赤ちゃんですか……」
「川島さんも、白い空間で天使に会いましたよね?」
「ああ、最初は夢かと思ったが、こうして異世界に飛ばされて、
初めて現実だと実感したよ。
白い空間で天使だと名乗る女性が現れてね、いろいろと相談に乗ってくれたね」
「その時、赤ん坊は一緒の空間にいましたか?」
「いや、あの白い空間には、さっき言った私、ケンジ君、女子高生3人、
それと、飯島さんという5人のご家族がいたな。
父親、母親、息子さんと娘さん。
どちらもまだ幼くて、6歳と4歳といっていたな。
後は、おじいさんの5人家族だ。
赤ん坊はいなかったと思うぞ」
どういうことだ?
それでは、その赤ちゃんは別の場所から送られたことになる。
俺は、西条さんと顔を合わせると、二人して顔をしかめた。
「あの、今その赤ちゃんはどこに?」
西条さんが質問する。
2人の子供の母親としては、そこが一番気になるところなのだろう。
「残った私と賢二君では、世話が出来なくてね。
女子高生の3人がいた頃は、彼女たちが交代で世話をしてくれたんだが、
今は、隣に住む夫妻のもとに預かってもらっているよ」
「では、元気なんですね?」
「ああ、よく笑うし、賢二君が近づくとよく泣く子だよ」
そういうと、わはははと大きな声で笑っていた。
なるほど、その赤ちゃんは女の子というわけですか?
「そういえば、この村に来た時、子供たちを見かけなかったんですが、
どこかに避難しているんですか?」
俺が気になっていたことを聞いてみる。
「ああ、村の子供たちは、何人かの女性たちと一緒に、
村長の家に避難しているはずだ。
この村で一番安全な場所は、村長の家だからな」
俺と西条さんはホッと、胸をなでおろした。
ずっと気になっていたからな……
少し川島さんとこっちに来てからのことを話して別れる。
やっぱり、この城壁を作った土魔法使いは川島さんだった。
この村に住むようになって、村の家とか井戸とかを、
川島さんの土魔法や趣味の日曜大工で、いろいろと直しているうちに、
城壁の話を村長から持ち込まれたらしい。
村のためならと、城壁を作ったはいいが今回の防衛戦になって、
少し責任を感じていたそうだ。
だが、俺とオリビア先生が話し合った内容を教えると、
少しホッとしたようで、すぐに城壁の修復に行ってしまった。
俺は城壁の上から、森を見ながら危惧する。
……次は、オーク討伐の影響が出るか? と。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




