第27話 決死の戦い
「マスター、偵察の報告です」
村長から今までの経緯を聞いていると、俺が召喚し、
偵察をお願いしたくノ一の楓が戻ってきた。
「お帰り楓、報告を頼む」
俺の側で片膝をつき畏まっている楓に、声をかけ報告を聞く。
「村の東側には、5メートルほどの外壁ができており、
外から攻めてきている『ゴブリン』や『コボルト』なる魔物を、
防いでおりました。
また、この村に住む村民たち、約50人ほどが迎撃に当たっており、
外壁の上から、石や弓、または槍などで攻撃しておりました。
しかし、魔物の数が多すぎることから、劣勢になっているようです。
ただ、外壁のおかげで村の中に入り込めた魔物はいませんでした」
楓の報告を聞き、俺はオリビア先生の方を向く。
「ど、どうすれば……」
「村長さん、落ち着いて。
オリビアさん、これは私たちも行って加勢すべきでしょうね」
アビゲイルさんは、狼狽える村長をなだめてオリビア先生に提案する。
オリビア先生は、頷き賛成するが西条さん親子を見て、
どうするべきかアビゲイルさんに意見を求める。
「それは構わないけど、彼女たちも連れていくのかしら?」
「それに関しては、
葵ちゃんやさくらちゃんには酷なことかもしれないが、
私は連れて行き、戦ってもらうつもりだよ」
俺は、アビゲイルさんの意見を聞いて葵とさくらを見るが、
本人たちは、何故かやる気を見せていた。
「……そうね、敵は魔物といえ『ゴブリン』と『コボルト』、
魔物になれるにはちょうどいいかもしれないわね」
「この子たちもやる気になっていますし、
魔術での攻撃のみに絞れば、足手まといにはならないと思います」
西条さんも、やる気のようだ。
これは俺も、気合を入れなければいけないな!
「村長さんは、冒険者の人たちが来るかもしれないので、
自分の家で待機をお願いします。
私たちは、これから東の防衛に加勢に行きますので」
村長さんは、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「わ、分かりました、ご武運を祈っています。
緊急依頼の冒険者が来られましたら、すぐに私たちも向かいます」
この場にいる全員が頷くと、俺たちは楓に案内をお願いして村の東へ走った。
500メートルほど走ると、見えてくる外壁。
煉瓦で積み上げられたであろう外壁は、かなり立派なものだった。
高さもあり、あれなら魔物の侵入も防げるだろうな。
さらに外壁に近づくと、村人たちの大きな怒鳴り声が聞こえてくる。
おそらく、戦いはいまだ続いているのだろう。
そして、俺たちは外壁に造られていた階段を上がり、
外壁の上へと上がってきた。
「うわっ!」
そこは、戦場だった。
村の男たちが、大きな石を外壁の外へと投げ込み、
村の女たちは、弓を構えて外壁の外へ向けて発射する。
また、土魔術を使っているものもいた。
みんな一生懸命に、必死に、押し寄せてくる魔物と戦っていた。
城壁に押し寄せるゴブリンは、いろんな武器を持ち外壁へ向かってくる。
その顔は醜悪そのもので、背は10歳の葵と変わらない小ささだ。
そして、その体には鎧の類はなく緑色の肌を露出して、
ただ、ただ、俺たちに、この村に押し寄せていた。
また、もう一方のコボルトも城壁に向かって押し寄せてきている。
ただ、このコボルトという魔物は犬そのものの顔をして、
体はゴブリンと変わらない小ささだ。
だが、ゴブリンと違い身体能力が優れている。
ゴブリンを外壁にへばりつかせ、コボルトはゴブリンを踏み台にしながら、
城壁の上にいる村人たちに、襲いかかってくる。
そんな襲いかかってくるコボルトを、
村人たちは槍で突き、矢を射って撃退する。
そこは、本当に俺の知らない戦場があった。
「そこの人たち! ぼうっとしてないで戦えっ!!」
俺の近くで槍を構えて、コボルトに突き立てていた男性に、
俺たちは怒鳴られる。
「アビゲイルはここから左側を、わたくしは右側を担当します!」
「わかった。 アヤネたち親子は私と一緒に来なさい」
そういって、西条さん親子と一緒に走って行った。
しかも走りながら、何度か魔術を外壁の外へはなっている。
「あれは、氷の魔術か……」
「ちょっと、わたくしたちも行きますわよ!
しっかりわたくしに付いてくること、いいですわね?!」
「はいっ!」
俺とオリビア先生は走り出す。
外壁に押し寄せてくるゴブリンとコボルトは、後ろが森で隠れているため、
はっきりと分からなかった。
しかし、終わりが見えなかろうと、戦わなくてはいけない。
外壁の上はどこも戦場だった。
しかし、いくら戦わなくてはいけないといえ、ケガ人は必ず出てくる。
俺とオリビア先生は、
魔術を外壁に押し寄せるゴブリンやコボルトに放ちながら、
怪我をして外壁の隅に座り込んでいる村人へ、治癒魔術をかけていく。
また、召喚したままの楓は、忍者らしく『焙烙玉』を外壁の外へ投げつけ、
その爆発でゴブリンやコボルトにダメージを与えているが、
致命傷とはなっていないようだ。
「楓、その『焙烙玉』の爆発では、魔物を倒すことができないのか?」
「それは、私のレベルが低いせいだね。
レベル3程度の攻撃じゃあ、こんなものだよ」
………は?
「召喚された英雄とかには、レベルがあるのか?」
驚いた俺は、外壁の外への攻撃を忘れて楓に説明を求めた。
「知らなかったの? それとも調べてなかったの?
私たち召喚された者は、召喚者のレベルに依存するんだよ。
……ほんとに、知らなかったんだね」
何てことだ、それでは過去の英雄や神話の英雄を呼び出しても、
俺のレベルが低ければ、ゴブリンにも負けるってことなのか……
「知ったのならマスター……」
楓は、美少女である自分の顔を俺に近づけて、
「レベル上げ、頑張ってね?」
と、ウインクしてきた………
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




