第22話 再会と視線
町の近くにある草原で、初級魔術の練習をしていると、
休憩のタイミングで後ろから声をかけられた。
「おじさん!」
俺が振り向くと、そこにはこの町で別れた女子高生の1人が、
笑顔で立っていた。
「おお、……えっと、名前なんだっけ?」
彼女はムッとした顔になったが、
少し考えて自己紹介をしていなかったことに気が付いた。
「………そういえば、自己紹介してなかった」
俺も彼女もお互い、気まずそうに笑うと、
彼女の方から自己紹介をしてくれる。
「ミコト、大沢 美琴です」
「白石 耕太です。 この世界ではコータで通してます」
「じゃあ、コータさん。 こんな草原で何をしているんですか?」
「魔術の練習だよ。
この草原は、魔術や魔法の練習場所として使われているそうだから」
「へぇ~、
見たことある人がいたから声をかけたけど、それは良いことを聞いたわ」
俺は、ミコトの着ている服や装備を見て、
すっかりこの世界に馴染んだなと感じている。
「ミコトさんは、冒険者の依頼でこれから出かけるの?」
「はい、仲間と一緒にあの森へ行くんです」
ミコトは、右側に広がる森を指さして言う。
「え? あの森って今、立ち入り禁止になってなかった?」
ミコトは驚いている。
「そうなんですか?
ニーグさーん、あの森、立ち入り禁止になってるって!」
ミコトは、離れたところに控えていた4人の男女に声をかける。
ミコトの声を聞いて、1人の男性がこちらに近づいてくる。
この人がニーグという人か。
「すまない、私はミコトとパーティーを組んでいるニーグというものだが、
あの森が立ち入り禁止というのは、間違いないのか?」
「ええ、俺が町を出るとき門のところにいた兵士の方が、
森には入らないようにと警告されましたから」
「……ホントなんだ」
「まいったな、すまないが立ち入り禁止の理由は聞いているか?」
「何でも、昨日、あの森でブルウルフの異常種が発見されたとか。
それで、ギルドで調査が入るらしいって聞いてますけど」
「……それで、立ち入り禁止か」
ニーグさんは、考えこむ。
ミコトも、どうしようかと考えているみたいだ。
「ところでミコトさん、他の学生たちはどうしたの?」
「ん、テツ君たち?」
「テツ君?」
「ああ、おじさん、名前知らなかったっけ。
テツ君ていうのは、おじさんに話しかけた馴れ馴れしい奴がいたでしょ?
あいつなんだけど、他にもいたみんな、私と同じように冒険者になった後、
バラバラにパーティーを組むことにしたの。
私たちまだまだ未熟だから、いろんなパーティーで経験を積んで、
もう一度みんなでパーティーを組むためにね」
ミコトは、ふふんとドヤ顔をしている。
「へぇ~、経験を積むためにね~」
俺は、心から感心していた。
若いなりに、自分たちで考えて行動しているんだなと。
「おじさんは、ここで魔術の練習?」
「ああ、なりたい職業が見つかったんでね。
そのために魔術がいるみたいだから練習をしているんだよ」
「お互い頑張ろうね、おじさん」
「ああ、そうだな」
そんな俺たちの話が終わった時、ニーグの考えがまとまり、
ミコトに声をかける。
「ミコト、いったんギルドに戻ろう。
依頼を受けたはいいが、森に入れないと何もできない」
「はい、それじゃあおじさん、またね~」
「ああ」
ニーグは、俺に小さく礼をして仲間の元へ走る。
ミコトも、ニーグの後を追いかけるように俺に挨拶をして走って行った。
2人が仲間と合流をして、少し話をすると今度は全員で町へ帰っていく。
「……これで分からないのは、
あの異世界に来ることを楽しみにしていた青年と、
俺と同じぐらいの歳のおじさん2人だけか、今頃どうしているのかな」
会えるといいなと、思いつつ、魔術の練習に戻る。
町の外壁の側で昼食の弁当を食べていると、どこからか視線を感じる。
俺は辺りをキョロキョロと見渡すと、
10メートルほど離れた外壁の側に、女の子が座ってこっちを見ていた。
しかも、その子の視線は俺の弁当にロックオンしているようだ。
どうしたものかと悩んでいると、
その女の子のさらに奥から、2人のさらに小さい女の子が姿を現す。
「……これはしょうがないよな」
俺は自分に言い訳をして、女の子たちに見えないように召喚術で、
俺の食べていた『唐揚げ弁当』を3つ召喚すると、
女の子たちを手招きで呼び寄せる。
始めは怪しんでいたが、弁当の中身を開けてみせると、
文字通り飛んできた。
「おじさん! くれるの?!」
「お腹空いているんだろ?
あまりものだから、しっかり食べなさい」
3人の女の子たちは、まるで大輪の花が咲いたような笑顔で受け取る。
「「「おじさん、ありがとう!」」」
弁当を受け取ると、いい匂いのする唐揚げから食べていく。
唐揚げをひとつ頬張り、噛みしめ、目を見開いて驚いている。
「おいしい―!!」
唐揚げをパクパク食べ、他のおかずやご飯を食べて、
俺が水をコップに入れてやって、3人に渡すと勢いよく飲み干す。
そして、満腹になると女の子たちは泣き出してしまった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




