第20話 魔物の買取
「大丈夫です?」
オリビア先生が腰を抜かして座り込んでいた俺に、
手を出してくれる。
俺はその手を取り、ゆっくりと起き上がる。
俺が周りを見ると、襲ってきたブルウルフの死体が5体、
目に入ってくる。
いずれも頭の後頭部に氷のナイフが突き刺さっている。
「助かりました、オリビア先生」
「生徒を守ることは、先生として当然のことです。
それよりも、あなたは『アイテムボックス』は習得していますか?」
「はい、アイテムボックスはありますけど……」
「では、ブルウルフの死体を収納してもらえます?」
オリビア先生は、自分の後ろにあるブルウルフの死体を指さして、
俺に指示してくる。
「はい、分かりました」
ライオンほどの大きさのブルウルフに、恐る恐る近づき、
死体に手をかざしながら『収納』と呟くと、ブルウルフの死体が消える。
そして、他の死体も同じように収納していく。
「このブルウルフは、冒険者ギルドへ持っていくんですか?」
「ええ、解体をしてくれるのは冒険者ギルドだけですからね。
本当は、わたくしたちで解体をすれば問題ないのでしょうけど、
わざわざ魔物の血で汚れることもないでしょう?」
……お嬢様は汚れ仕事がお嫌いと。
「そういえば、解体魔術なんてものはないんですかね?」
「ん~、無いわね。
解体魔法ならあるみたいですけど」
「あるんですか……」
「ええ。
ただ、解体魔法を習得するには、大変な思いをするみたいですわよ」
「えっと、どんなことをするんです?」
オリビア先生は、説明しながら依頼の薬草採取を始める。
自分の足元に依頼の薬草を見つけたようだ。
「解体魔法は、たくさんの魔物を解体して習得できる魔法です。
ただ、その解体量がランダムらしいのです。
そのため、解体魔法を習得しようとするなら、
まず冒険者ギルドの解体所で解体を学び、後はたくさんの解体をおこなえば、
何れ覚えることができるらしいですわね」
オリビア先生が、足元の薬草を採取している姿を見て、
慌てて俺も鑑定をかけながら、足元の薬草を採取していく。
「解体スキルを習得するって、大変なんですね~」
「そうね、でも、習得してしまえばドラゴンなどの大型の魔物でも、
一瞬で解体してしまえるそうだから、
あなたも習得した方がいいのではないですか?」
……ドラゴンなどの大型も一瞬で……解体魔法、超便利だな!
でも、習得までが大変そうだ。
日本にいた頃も、動物をさばくことはなかったからな~
肉は肉の塊で、売っていたし……
「そうですね、もう少しレベルを上げて精神を鍛えてから、
挑戦してみようと思います」
オリビア先生は、俺の答えを聞くと、俺の方を見てニコリと笑ってくれた。
どうやら、賛成してくれたようだ。
それから、たわいもない雑談や今後のことを話しながら、
薬草採取は終わり、俺たちは森を出て町へ戻っていく。
町の門をくぐると、まずは冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドは、最初にこの町へ来た日以来だ。
ここで身分証の代わりとして作ったのは、つい最近のこと。
あの時別れた、日本から来たみんなは、今頃どうしているのかな?
冒険者ギルドで別れて、再開したのは西条さん親子だけだった。
この辺境のそのまた辺境の町に住んでも、
再会するのは、なかなかできないのだろう。
そんなことを思いながら、
オリビア先生と一緒に冒険者ギルドの中へ入っていく。
中へ入ると、前来た時と変わらず人が少なかった。
やっぱり時間帯によって、人が多かったり少なかったりするのだろう。
オリビア先生が、ふと思いついたように、
後ろを歩いていた俺に話しかける。
「そういえば、あなたは冒険者ギルドに登録はしていますの?」
「ええ、この町に来た時、最初に登録しました」
「ならば、買取カウンターへ行きましょう」
……そういえば、ギルド登録していないと、
買取できないとか規約にあったな。
冒険者ギルドに入って右側の奥に、買取カウンターが設置されている。
その窓口も大きくとられており、また、解体所への直接行ける扉もある。
多分だが、大型の魔物を買い取るための処置なんだろう。
「いいかしら? 買取をお願いしたいのだけど」
窓口にいた受付嬢が立ち上がって対応してくれる。
「はい、ご利用ありがとうございます。
では、ギルドカードを提示してください………はい、結構です。
それで、買取の品は何でしょうか?」
オリビア先生と俺の冒険者ギルドのカードを提示して、
ギルド登録者と確認すると、買取の品物を聞いてくる。
「ブルウルフの死体5匹よ」
オリビア先生の言葉を聞き、受付嬢が俺や先生の周りを見渡す。
「……あの、何も無いようなのですが……」
「アイテムボックスに収納してあるから、
解体所へ案内をお願いできるかしら?」
受付嬢は、納得の顔をして俺たちを扉の奥へ案内してくれる。
「こちらへどうぞ。
この奥に解体所がありますので、そこに出してもらえますか?」
「ええ、分かったわ」
解体所へ通じている扉を潜り、廊下を10メートルほど進むと、
再び外に出る。
そこは、冒険者ギルドの裏側でそこから左手に少し進むと解体所があった。
解体所はすごい匂いがしている。
これは建物の中には作れないな……
オリビア先生も俺も、思わず鼻をつまんでしまった。
その行為に、くすりと笑った受付嬢は、
魔物の死体を乗せるカートを持ってきてこの上に載せるように指示を出した。
俺は、丈夫そうなカートの上にブルウルフを1体ずつ載せていく。
受付嬢は、載せられていくブルウルフの大きさに驚いているようだ。
開いた口が塞がらないほど驚くとはこのことだろう。
5体のブルウルフの死体を載せ終わると、受付嬢がオリビア先生を見る。
「これが、ブルウルフですか?!」
「ええ、大きいでしょ?」
「大きすぎます!」
どうやら、俺たちを襲ったブルウルフは、
通常のものとは大きさが違うようだ……
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




