第18話 風の刃
「さて、私からの質問はもうありませんし、
あなたからの質問も終わりましたね?」
「あ、はい、俺からはもうないです」
「では、これからあなたが将来に向けてやるべきことをアドバイスします。
ちゃんと理解して、行動するように」
「わかりました」
最初は不愛想な貴族のお嬢様みたいだったけど、
今は、俺の先生として考えてくれているみたいだ。
「あなたがなりたいといった『薬師』や『錬金術師』は、
まず『薬師ギルド』への登録が必要です。
そして、登録を済ませたら『初級』の魔術書を購入して、
よく読み実践して自分のスキルにしなければなりません。
それと『魔法書』は、魔術書の初級をマスターしてから読み始めると、
イメージがしやすく身につけやすくなります。
『魔術書』も『魔法書』も『薬師』や『錬金術師』にとって、
身につけておくべきスキルになりますからね」
「わかりました、時間があるときに登録しておきます」
オリビア先生が、俺の答えを聞いて頷く。
「それと、これから初級の魔術をいくつか覚えてもらいます」
「初級の魔術をですか?」
「ええ、私が依頼を完遂するために森に入るからです」
「オリビア先生が森に入っている間、
俺はこの草原で魔術の練習をするためですか?」
「いいえ、あなたにも私と一緒に森へ入ってもらうためです」
森に入る?
この辺りの草原には、魔物や動物は見かけることはないが、
その分森の中には、動物も魔物もたくさんいるらしい。
この草原で魔術や魔法の練習をしていた弊害が、
この辺りの森に出てしまった。
オリビア先生の話では、この辺りの森は草原に出てくる魔物が進化して、
森の中に出てくるそうで、
レベルを上げるには、うってつけだそうだ。
……その分、危険も増すわけだが。
「が、頑張ります」
オリビア先生から、初心者が使う触媒のタクトを受け取る。
通常、魔術師や魔法使いの初心者は杖を使うらしいが、
先生は杖を持っていないので、このタクトとなった。
このタクト、指揮者が持っているものと同じような形になっているが、
材質が『ミスリル』という鉱石を使ってできている。
ファンタジー材質の代表『ミスリル』
魔力伝達がすごい魔法鉱物だ。
オリビア先生の装備にも、いくつか使われているそうで、
魔術師や魔法使いの触媒装備には、必ず使用するらしい。
ただ、小説などと同じで『ミスリル』は高額だそうで、
俺の持っている30センチほどのタクトでも、金貨10枚はするそうだ。
デザイン性がないこれでも高額だよな……
「それでは、あなたにこれから覚えてもらう初級魔術は3つ」
オリビア先生が、俺の目の前で自分の指を3本立てて見せてくる。
そして、横を向き草原に向かって魔術を放った。
「最初が【ウインドウカッター】」
オリビア先生の突き出した左の手から、なにもない草原に向かって、
風の刃が飛んでいく。
「……標的がないと、分かりづらいわね」
オリビア先生はそういうと、別の呪文を唱えだす。
『我を守り その身をもって おとりとなれ 【土人形】』
すると、俺たちから少し離れたところの地面が盛り上がり、
人型を作ってその場に現れた。
「……魔法ですか? オリビア先生」
「私は、土系統の魔術や魔法は得意じゃないから、
詠唱をして発動させているの。
それと、今のは魔法じゃなくて魔術ね」
得意不得意というより、属性を持っていないから詠唱したんだな……
ならば、属性を持っていなくても、
どんな魔法や魔術も詠唱有りで使えるということか。
「それでは、目標もできたし
あなたがあの人形に向かって魔術を使ってみなさい」
俺は、頷くと目標の土人形に対してそのまま魔術を放った。
【ウインドウカッター】
………しかし、何も起こらなかった。
俺が、タクトを見ながら不思議に思っていると、
オリビア先生に、わき腹を小突かれる。
「何しているの?
魔力をこめないと、魔術も魔法も発動しないわよ?!
魔力操作で魔力をタクトの先に集めて、
目標にどんな魔術が飛んでいくかイメージをして、呪文を唱えるの!
ただ言葉を発しただけで、魔法や魔術が発動するわけないでしょう?」
……そうでした。
魔力操作を覚えるために読んだ本にも、そのことが書かれていました。
すぐに反省して、再び目標の土人形にむかって構える。
魔力操作で、自分の魔力をタクトの先に集中し、
風の刃、かまいたちをイメージして呪文を唱える。
【ウインドウカッター】
自分の体から少し力が抜ける感覚があると、
タクトの先から、白い三日月形の刃が土人形に向かって飛んでいった。
風の刃は、土人形を抵抗なく切るとすぐに霧散した。
「……できた……」
斜めに切られた土人形は、ゆっくりゆっくりとずれていき、
上半身は下半身と別れて、地面に落ちた。
初めての魔術に感動している俺の横で、オリビア先生が驚いている。
口を開けたままで驚いている姿は、どこか可愛らしい。
「オリビア先生、どうでしょうか?」
俺の言葉に意識を戻したオリビア先生は、少し照れながら、
「素晴らしい風の刃でした、合格よ。
初めてにしてはなかなかの切れ方ね……
それと、魔術は何度も何度も練習をすること。
そうすれば、もっと発動が早くなって素早く打てるようになるわ」
「はい、頑張ります!」
「よろしい、では次の魔術は……」
読んでくれてありがとう、
話の流れが遅く感じるかもしれませんが、次回もよろしくお願いします。




