第2話 転移の原因
この白い空間にいる天使以外の者たちは、
カードの機能を使って、自身のアイテムボックスの中身を確認している。
「ん~、さすがに機械類はないか……」
まず、残念そうに声を出したのは、2人組のおじさんの1人だ。
「申し訳ありません、さすがに、魔力を使う魔道具でない限りは、
向こうの世界では、ゴミにしかならないので入れておきませんでした」
天使の女性は、少しだけ申し訳なさそうに言ってくる。
「俺の本は、全部入っていた……よかった……」
安堵の声を出したのは、もう1人のおじさんだ。
「本などは、向こうの世界に持っていっても、
言語が違うので、読める者もいないだろうということで許可が下りました」
「確かに、俺の所も本は入っているな……」
「私の所にも、娘たちの所にも本は入っているみたいです」
母親のすぐそばで、カードで確認をしている2人の女の子も頷いている。
「それぞれのアイテムボックスの確認はよろしいですか?
それでは、最後に皆様に贈るスキルは『鑑定』スキルです。
このスキルは、意識して見た物の情報を知ることができるスキルです。
使えば使うほど、だんだんと詳しく知ることができるでしょう。
以上の『異世界言語』『アイテムボックス』『鑑定』が、
皆様に、無償で贈られるスキルとなります。
後は、それぞれで向こうの世界へ行って、
生きていくのに必要だと思われるスキルを、3つ、お選びください」
天使の女性の言葉の後に、俺たちの目の前に透明な板が出現し、
そこには、数々のスキルが表示されていた。
その選択肢の多さに、俺たちはそれぞれで悩みだした。
5分ほど時間が経過して、青年が手をあげる。
「質問、いいですか?」
「はい、何でも聞いてください。
あ、時間なら大丈夫ですよ。
どんなに時間を使っても、向こうの世界には、
全員が同時刻に出現するようになりますので」
……全員が同時期?
何か、引っかかる言い方だな……
「質問なんですが、これから向かう世界について教えてもらえますか?
どういう世界かで、必要なスキルが変わると思うので」
!!
この青年の言うとおりだ。 失念していたな……
どうやら、俺も舞い上がっていたのかもしれないな……
他のみんなも、青年の質問にハッとしているようだ。
「わかりました、まず、地球と同じような惑星ですが大きさが違います。
向こうの世界は、地球の3倍の大きさがあります。
さらに、月が2つありますが、太陽は1つです。
1日は24時間で、1年は365日となっています。
暦は存在しますが、宗教ごとに違うことがあるので
その辺はご自分で調べてください。
向こうの世界は、大小10の大陸に別れていて、
それぞれにたくさんの種族が暮らしています。
人族、エルフ、ドワーフ、獣人、竜人、魔族と、多種多様です。
また、皆様が送られる場所は、
ディレル大陸の南東にある、ゴルドム王国の辺境にある町、ルムナの
東にある森となっています。
また、他の方々もディレル大陸のどこかの町の近くに送られるので、
すぐに亡くなられるということはないと思いますので、ご安心ください」
……やはりおかしい、他の方々?
「あの、俺も質問いいかな?」
どうしても気になることを、この天使の女性に聞いてみよう。
「はい、どうぞ」
天使の女性が、笑顔で答えてくれる。
「向こうの世界に転移する人って、俺たち以外にもいるのか?」
この場にいる全員が、俺を見た後、天使に視線を持っていく。
「はい、地球にいた日本人約1億2000万人以上が対象です」
「「「…………は?」」」
天使以外の全員が、女の子たちでさえ呆気にとられた。
「……日本人全員?」
「はい」
「地球にいた?」
「はい」
「約1億2000万人以上?」
「はい」
「全員が異世界へ?」
「その通りです」
俺たちは信じられないものを見るような目で、天使を見る。
日本人が、地球から消える?
「……理由を教えてもらえるだろうか?」
日本人が何かしたのだろうか?
これは罰なのか? それとも……
「皆様日本人が、向こうの世界へ行くことは罰などではありません。
また、神の望んだことでもありません。
1億人もの人間を、地球から転移させることは大変なので普通はしません。
たとえ、神の罰だとしてもです」
「では、何が……」
「そうですね、説明がちょっと難しいですが、
ある人間が『神』の試練を受けて、見事達成しました。
その褒美として、どんな願いでも1つだけかなえると仰ったら、
その人間は、地球から日本人を消してくれと願いました」
「「「「「はああぁぁ??!!」」」」」
俺たちは驚いた、そして呆れた。
何だそれは! その神はアホなのか!!
そんな願いで、俺たち日本人を異世界転移するなよ!!
「神は、人を消すことは無理なので
地球から別の世界へ送るのはどうだと提案しました。
願った人間は、地球からいなくなってくれればいいと
提案を受け入れて今に至ります」
……俺たちが消されなかったのは、ある意味神の慈悲かもしれないな。
アホとか言ってすみません神様。
「ちなみに、願った人間は日本人ではありません。
でも、この願いは神様もだいぶ困っていました。
しかし、消してほしいと願う人がいるなんて、
日本人はかなり恨まれているんですかね?」
恨みね~
そういうのは、個人に向けてでない限り、
教育とか思想でどうにでもできるからな~
「と、とりあえず理由はわかった。 納得はしてないが……」
「では、他に質問はありませんか?」
天使は笑顔で、俺たちに聞いてきた。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。