第16話 魔術師の先生
いよいよ、魔術師ギルドで先生を紹介してもらう日が来た。
実は、今日が楽しみで、昨日はなかなか寝付けなかった。
朝、少しのんびりと気を落ち着かせてから家を出る。
玄関で鍵をかけて門を出ると、西条さん親子と会った。
「おはようございます、西条さん」
「おはようございます、白石さん」
「「おじさん、おはよう~」」
朝の挨拶を済ませると、そろって魔術師ギルドへ向かう。
西条さんたちと言葉を交わしていると、どうやら、
西条さんたちも、今日を楽しみにしていたらしい。
特に、葵ちゃんとさくらちゃんがはしゃいでいる。
俺は、それを微笑ましく見ていた。
魔術師ギルドの中に入ると、受付のセルシーさんが俺たちを見つけて、
声をかけてくれた。
「コータさん、アヤネさん、こっちです~」
手招きして俺たちを呼んだ場所は、いつものカウンター越しではなく、
ギルドに入ってすぐの掲示板から右にある扉の前だった。
俺たちが、セルシーさんのもとに移動すると、
「この相談室の中で、皆さんの先生になってくれる人たちがいますので、
粗相のないように、お願いしますね」
「粗相って……」
俺が、苦笑いをして呟くと、セルシーさんは真剣な顔で注意する。
「コータさん、先生になってくれる人たちの中には、
貴族の方もいるのです。
ギルドとしても、紹介する人には気を付けていますが、
中には、ランク関連で仕方なく先生をする貴族の方もいますから、
気を付けてほしいのですよ?!」
真剣なセルシーさんの態度に、俺たちは背筋を伸ばして頷く。
「……よろしい、では紹介しますね」
相談室のドアを開け、中へセルシーさんを先頭に入ると、
2人の女性が座って待っていた。
対面のソファに俺たちが座ると、セルシーさんが2人を紹介してくれる。
「えっと、まず、こちらの女性が、アビゲイルさん。
魔術師ギルドのランクは『最上級』
冒険者ギルドなら『Aランク』ぐらいの実力者よ。
アビゲイルさんには、アヤネさん親子をお願いしています」
アビゲイルさんは、西条さん親子を見て、笑顔で挨拶している。
「親子に魔術を教えてくれって言われたから、楽しみだったんだ。
アヤネさん、それに君たちも、よろしくね?」
「今日から、よろしくお願いします」
「葵です、よろしくお願いします」
「さくらです、よろしく、お願いします」
お互いに挨拶を済ませていく。
セルシーさんも笑顔で、西条さんたちの会話を眺めているんだが、
もう1人の女性は、何故か俺をじっと見ている……
居たたまれなくなった俺は、セルシーさんを見ると、
俺の視線に気づいたセルシーさんが、紹介を始めてくれた。
「もう1人のこちらの女性は、オリビア・ロビートさん。
ロビート子爵家のご令嬢で、コータさんの先生をしてくれます」
商会を受けたオリビアさんは、何も言わずに俺をじっと見ている。
この目は、好意的に見る目じゃないな……
まるで、何で私がこのおっさんを、といった目だ。
でも、俺の先生になってくれる人だし、挨拶はしておかないと……
「初めまして、コータです、よろしくお願いします」
俺が頭を下げて、挨拶をすると、
「ええ、よろしくね」
……短っ!
なんだか、かなりの上から目線だな……
大丈夫かな……
「えっと、オリビアさんは、今回ギルドランクを上げるために、
この依頼を引き受けてもらいました。
無事に先生を務めることができれば、
はれて『最上級』に上がれるということです。
オリビアさん、よろしくお願いしますね」
「ええ、任せてちょうだい。
1週間で、使い物になる立派な魔術師にしてあげるわ」
そういうと、すっと立ち上がり、この部屋を出ていった。
なぜ出ていったのか不思議に思っていると、
セルシーさんが慌てた様子で、
「コータさん! オリビアさんを追いかけてください!
もうすでに、先生と生徒の関係は始まってますよ!」
ええっ?!
だって、何も言わずに出ていったぞ?
俺は、愚痴を我慢して、部屋を出ていったオリビアさんを追いかける。
部屋を出ると、掲示板の前でオリビアさんは待っていた。
「オリビアさん、お待たせしました」
ジロッと俺を見ると、
「オリビアさんじゃなくて、先生よ。
ちゃんと呼びなおしなさい」
「申し訳ございません、オリビア先生」
俺がお辞儀をして謝ると、オリビア先生は一度頷き、再び掲示板を見る。
続けて、俺も掲示板を見るとそこには、たくさんの依頼書が貼ってあった。
こうしてみると、冒険者ギルドと同じように依頼書があるんだと、
改めて認識させられる。
それに、掲示板を真剣に眺めているオリビア先生は、
俺の認識している魔術師と少しだけ違う。
金髪碧眼の美女で、見た目は18歳のご令嬢。
オリビア先生から出ている雰囲気は、いかにも貴族って感じで、
俺たちとは、オーラが違う。
しかも髪形も、貴族らしくこめかみの辺りからドリルだ。
このドリルを見ると、
ああ、異世界に来たんだなとしみじみ感じるな……
また服装も西条さんたちの先生になった、アビゲイルさんと違い、
水色のローブを纏い、ローブの中は普通の服なのだが、
生地が違うことがすぐにわかる。
流石貴族の着る服、ギルド内にいる人たちの服と全く違う。
さらに、動きやすいズボンをはき丈夫なブーツにもかかわらず、
どこか品があるのは、貴族令嬢というものなのだろうか……
しかし俺は、オリビア先生の腰に装備しているものに違和感を持つ。
それは、右側に装備している銃のようなものだ。
左側の高そうなナイフは、まだ用途が分かるんだが、
右側の銃は何だろう……
「……魔導銃かな?」
俺は、つい声に出してしまっていたようだ。
俺の声に、オリビア先生はジロリと睨んできた。
「何ですの? ………この銃が気になるようですわね」
「すみません、オリビア先生」
俺が謝ると、オリビア先生は、俺を下から上へと眺め、
視線を掲示板へと戻し、一枚の依頼書を剥がした。
「私の装備の説明は、後でしてさしあげます。
この依頼を受けたら行きますわよ」
そう言い残し、カウンターで依頼を受けに行った。
どうやら、簡単な依頼を受けながら、授業をするようだ。
真面目に先生をしてくれるようで、俺はワクワクしていた。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




