第15話 魔力操作を教える
「いいかい、葵ちゃんの左手から右手へ、
俺が魔力を流してみるから、それをまず感じ取ってくれ」
「は、はい」
西条さん親子が見守る中、俺は長女の葵ちゃんへ魔力を流す。
俺の右手から、繋いである葵ちゃんの左手へ、
そして、葵ちゃんの左手から右手へ、
最後に、葵ちゃんの右手から、繋いである俺の左手へ魔力を流すと……
「……何か、表現の難しい感覚が……」
葵ちゃんは目を瞑りながら、魔力の流れを感じ取っている。
「葵ちゃん、今、流れている魔力の感じを覚えておいて」
「はい」
そして、そっと俺が手を放すと、葵ちゃんは目を開けて俺を見てくる。
「今感じてもらったのを、自分の体の中に探すんだよ?
それと、魔力はお腹の辺りにあるみたいだから、探ってみて?」
俺の言葉を聞き、さっそくお腹に手を当てて探っている。
俺は、次のさくらちゃんに向き、手を繋ぐ。
「いい? 俺が魔力を流すからそれを感じ取ってね?
そして、自分の中に感じたものと同じものを探すんだよ?
特に、お腹の辺りをね?」
「はい!」
葵ちゃんの妹のさくらちゃんは、元気に返事をくれた。
そして、葵ちゃんにやったことと同じことをして手を放すと、
さくらちゃんもお腹に手を当てて探り始める。
「では、最後に西条さん」
「は、はい、よろしく、お願いします」
西条さんは、ものすごく緊張しながら俺の手を握る。
向かい合って座るから、表情が硬いのがよくわかる。
「あの、そんなに緊張すると魔力が分かりませんから、
リラックスして、手に集中してください」
「りょ、了解です」
緊張しながらも、自分と俺の手に集中することで、
少しだけ肩の力が抜けたようだ。
「では、流しますね……」
「はい……」
俯き、目を瞑って自分の体に流れてくる魔力を感じ取る。
そこに集中していると、何かを感じ取ることができたようだ。
「あ、もしかして、これが魔力………
分かる、白石さんから流れてくる魔力が分かる……」
「今感じた魔力を、自分の体の中から探し出すんですよ。
特に、お腹の辺りに魔力があるみたいですから、そこを中心にして」
俺は、すっと西条さんから手を放し、少し離れてソファに座る。
すると、西条さん親子が、それぞれ目を瞑り、
お腹の辺りにある自分の魔力を一生懸命探っている光景を見る。
「…………」
静かだ、俺もこんなふうに探っていたのかね~
俺はそう考えながら、テーブルの上にあるマグカップを片付ける。
マグカップを片付け、ソファに戻ると、まず葵ちゃんが目を開けた。
「見つけた………たぶんこれが私の魔力だ……」
お腹に当てたままの手を見ながら、葵ちゃんはつぶやいた。
「魔力を見つけたら、今度はそれを回してみて葵ちゃん」
「魔力を回す?」
俺が声をかけると、葵ちゃんは行っている意味が分からないと質問する。
そして、俺は自分のお腹に指をあてて、ぐるりとお腹辺りで回すと、
「そう、自分の魔力を動かして、お腹の所で回してみるんだ」
「わ、分かった……」
再び葵ちゃんは目を瞑る。
静かになったところで、今度はさくらちゃんが声を出した。
「見つけた! 私の魔力、見つけたよ!」
よほどうれしかったのか、満面の笑顔で報告してくれる。
そして俺は、葵ちゃんと同じように、さくらちゃんにも次を指示する。
「うん、わかった~」
さくらちゃんも再び、目を瞑って静かになる。
後は、西条さんだけなんだけどと、西条さんを見ると、
俯き、お腹に手を当てたまま動いていない。
なかなか、自分の魔力を探り当てることができないか……
それから5分と経たない時間で、葵ちゃんとさくらちゃんが、
自分の魔力を回すことができた。
「おじさん! 自分の魔力を回すことができた!」
「私も!私も!」
姉妹そろって大喜びしている中、母親の西条さんは苦戦している。
そのため、もう一度俺が魔力を流し、自分の魔力を探してもらう。
姉妹は、『ママ、頑張れ!』と静かに応援している。
プレッシャーにならないといいが、と心配していると、
西条さんの表情が変わった。
「分かった! ようやく分かったわ!」
どうやら、自分の魔力の感じをつかめたようだ。
娘たちと抱き合って喜んでいる。
そして、葵ちゃんが次に、
自分の魔力をお腹の辺りで回すってことを手を使って教えている。
早速、自分の魔力を回してみるのだろう。
西条さん親子の光景は、どこか微笑ましいものがあると同時に、
何か寂しさを感じてしまった。
これが独り者の寂しさというものなのかな~
それから10分ほどで、母娘3人の自分のステータスのスキル欄に、
『魔力操作』の文字が記載されていた。
「本当に、ありがとうございました」
「「おじさん、ありがとう!」」
玄関先で、西条さん親子を見送るために出たら、
西条さん親子は、俺に振り返り、お辞儀とともにお礼を言った。
「どういたしまして。
えっと明日でしたよね? 魔術師ギルドが紹介してくれる先生が来るのは」
「確か、そのはずです」
「西条さんたちとは、別の魔術の先生ですけど、
しっかりと教わって、今後のためにも頑張りましょう!」
「そうですね!」
「後、あの本にある生活魔法は、すぐに覚えれますから、
帰ったら練習してみてください。
魔法や魔術はイメージが大切なんだと、覚えておけば大丈夫ですよ」
「分かりました」
「「は~い」」
「後もう一つ、魔力操作は、寝る前などに10分ほどやるといいですよ。
繰り返しやることで、必ず自分の力になるはずですから」
「わかりました、それでは……」
西条さんがそういうと、母娘は自分の家に帰っていった。
準備編のあの本に書いてあったことを言っただけだけど、
大丈夫だよね。
それにしても、俺の先生ってどんな人なんだろう……
明日の出会いを考えながら、俺は家の中へ入っていった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




