第10話 この世界の本屋
俺は今、この町『ムルナ』唯一の本屋に来ている。
しかし、異世界の本屋と侮るなかれ、ここに置かれている本の量がすごい!
技術書から魔術書、魔法や魔術の研究をまとめた本など、
たくさんそろっている。
勿論、日本と同じように空想物の物語もある。
「これは、見識を改めないといけないな……」
この本屋の大きさは、商店街にある本屋ほどの大きさだが、
中の本の量が多い。
また、本の値段も銅貨60枚からあり、一番多いのが銀貨2枚。
高いものなら、金貨5枚という誰が読むんだと首を傾げたくなるような、
ものすごく分厚いものもあった。
でも、こうして紙の本がこの値段ということは、
この異世界には、紙がちゃんと普及しており、
さらに複製が可能ということだろう。
それが、魔法か、印刷かは分からないが……
「お、いらっしゃい。
本を買いに客が来るとは、珍しいね~」
店の奥から出てきたのは、恰幅のいいおばさんだった。
……なるほど、通路が大きくとってあるのは、
おばさんが通れるようにしているためか。
「こんにちは、本を買いに来るのがめずらしいんですか?」
おばさんは、俺の質問に笑いながら答えてくれる。
「そりゃあ、珍しいね。
本を買いに来る客といえば、本を読める客だからね~」
「ということは、読めない人がいると?」
「この町の半分の人は、字が読めないね。
書くとなればさらに減って、本を読むなんて言うのはごく一部だよ」
「何で、本を読まないんですかね……」
「おそらく、まだ本が高いと思っているからだろうね。
こんなふうに、本が安くなったのは、ほんの20年くらい前だから、
知らないんだろう」
おばさんは、近くにあった本を手に取って、悲しそうに本を見つめる。
「20年位前から安くなったにしては、この本の量はすごいですね」
「こんな量なんて、まだまだだよ。
王都の『ゴルバン』に行ってごらん、ここの5倍ぐらいの本があるから!」
そういって、明るい声で笑っていた。
「……5倍ですか…」
いったい、どれだけの本が出版されているのか……
俺はこの店の本を見ながら、恐ろしくなった。
「それで、今日はどんな本を探しているんだい?」
「あ、えっと、過去に現れた英雄の話なんかをまとめた本とか…」
「ふんふん、過去の英雄の話ね……」
おばさんは、何度か頷きながら店の中を回り、目的の本を探していく。
「あと、この大陸の歴史書とか……」
「ほう、この大陸の歴史とは大きいね~
それは、詳しくかい? それとも、簡単なもの?」
「あ、簡単なものでお願いします」
「はいはい、簡単な歴史書なら、こっちの棚だね~」
すごいな、この量の本の中から、探し出せるとは……
カウンターに6冊ほどの本が積み上げられる。
過去の英雄にまつわる話や英雄の名前などが載っている本が4冊、
大陸の歴史書、簡易バージョンみたいなものが2冊だ。
「あと、何かあるかい?」
「あと、魔術書か魔法書がほしいんですけど……」
俺のほしい本を聞いて、今度は困った顔をするおばさん。
「魔術書は、初級のものしかないけどいいかね?
それと、魔法書は、うちでは扱ってないね~」
あれ? 魔法書というのは本屋に売ってないのか。
じゃあ、さっき見たのは、魔術書というわけか……
「じゃあ、初級の魔術書をください。
あと、魔法書はどこで扱っているんですか?」
「魔法書は、魔術師ギルドで扱っているよ。
あと、初級の魔術書だけど、どれを買うんだい?」
ふむ、後で『魔術師ギルド』へ行かないとな。
「どれといいますと?」
「おや、自分の適性属性を調べてないのかい?」
おばさんが、本を探す手を止めて、呆れた表情でこっちを見ている。
「あ~、すみません、適正ってどこで調べられるんですか?」
「呆れたね~、魔術の適性は『魔術師ギルド』で調べてくれるはずだよ。
それよりも、何かしらの魔法か魔術は使えるのかい?」
「はい、魔法は使えますので」
「なら大丈夫だ、魔術師ギルドで調べてもらえるだろう。
後で行ってみるといいよ。
だから、適性が分かってからまた来なさい、その時に売ってあげるから」
「はい、適性が分かったらまた来ます」
「よし、それじゃあ、もう買う本はないかい?」
「じゃあ、料理の本とかありますか?」
「料理の本というと、レシピとかが載ってるやつかい?
あれなら、こっちの棚にあったはず……」
料理の本も売っているのか……
この世界の料理を勉強するのも、何かの役に立つはず……たぶん。
「それと、ポーションなどが載っている本なんて、ありますか?」
おばさんは、料理の本を2冊手にして、俺の質問に答える。
「ポーションかい?
それなら1冊あるけど、詳しく載ってないよ?
これを読んでもっと詳しいものがほしいなら、
『薬師ギルド』へ行くといい。
何でも詳しく載っている本は、ギルドで取り扱っているからね」
そういって、カウンターの積み重なった本に、3冊加わり、
全部で9冊となった。
「それじゃあ、この9冊の本でいいかい?
もう他に買う本はないのかい?」
おばさんは、9冊の本を布の袋に入れながら聞いてくる。
「今は、この9冊でお願いします。
また必要なものが出てきたら、買いに来ますので」
「はいよ、待ってるからね~
それじゃあ、本9冊で銀貨24枚になるよ」
俺は、ポケットから銀貨24枚を出して、カウンターに置くと、
おばさんが確認のために数えだす。
「………はい、確かに。
また、本を買いに来てくれよ~」
俺は、布の袋に入った本を受け取ると、
笑顔で店の外まで送ってくれたおばさんに、手を振って別れた。
いい店だね。
また、本がほしくなったときは、買いに来たくなるね~
と、気分よく、次の『魔術師ギルド』を目指すのだった。
読んでくれてありがとう、次回もよろしくお願いします。




