第1話 天使と白い空間
思いついたので、話にしてみました。
俺は、気が付くと、この白い空間にいた。
「……どこだ、ここ」
俺の第一声はこれだった。
ほんの10分前まで、俺は自分の部屋にいたはず。
仕事から家に帰ってきて、服を脱ごうとしたとき、周りの景色が変わった。
また、俺と同じようにこの白い空間に連れてこられた人もいる。
俺と同じ年齢ぐらいのおじさんが2人。
母親と小学生ぐらいの女の子が2人の親子連れ。
そして、20歳ぐらいの青年が1人の、合計7人。
「あ、あの、ここがどこだかわかりますか?」
母親の腰に、しっかりと女の子がしがみ付いている親子連れが声をかけてくる。
残念ながら、この場所のことは俺も分からない。
「すみません、俺も何が何だか……」
俺の答えに、母親は落胆したようだ。
また、周りの人たちも俺の答えに母親と同じように落胆したようだ。
少しムッとしたが、冷静に考えて皆不安なんだろう。
だから、誰か何か知らないか答えを求める。
そう俺なりに答えを出して、これからどうしたものかと考えていると、
親子連れの母親とは別の女性の声が聞こえた。
「皆様、初めまして」
俺たち全員が、その声のした方へ顔を向けると、
そこには、背中に真っ白い羽根を生やした、天使の女性が立っていた。
誰が見ても美人で、腰まで伸びた金色の髪を首の後ろでまとめ、
服装は、何故か白いスーツを着ていた。
「……えっと、誰?」
それは、誰の言葉か分からないほど全員一致した言葉だった。
「私は、女神さまの代理で皆様に説明に参りました天使です。
皆様は、ここがどこだか分からずに混乱していると思いますが、どうです?」
俺たちは、天使の女性を見ながら全員が頷いた。
「そうでしょうね、まず、ここは空間の狭間です。
皆様が住んでいた世界と、別の世界との間にある空間です」
……この天使様の今の説明で分かったのは、
周りを見ても俺と青年の2人だけのようだ。
「あ~、すまんがもう少しわかりやすく説明してくれるだろうか?」
俺の少し後ろで考えていた2人組のおじさんの1人が、お願いをする。
親子連れやもう1人のおじさんも、頷いて肯定した。
「う~ん、これ以上分かりやすく説明することは難しいと思いますよ?」
「で、では、何のためにこんな場所に集めたのかを、教えてください」
青年が、右手を上へ上げて天使の女性に質問をする。
……何で手を挙げたんだ? 授業の時の癖か?
「はい。 この場所に皆様を集めたのは、
これから転移してもらう、異世界へ行くための準備や説明をするためです」
「「「……は?」」」
「よしっ!」
意味が分からないと、唖然としているのは親子連れの3人とおじさん2人。
また、喜んでいるのは青年1人。
おそらく彼は、異世界転移か転生物の物語が大好きなのかもしれないな。
勿論、俺も好きだが自分が当事者になるとは思わなかった。
「あの、異世界というのは……」
事態を何とか呑み込んだらしい母親の女性が、天使の女性に質問をする。
「はい、地球とは別の世界のことです」
「天使さんとやら、すまんが、私たちを地球に帰すことはできないのか?」
おじさんの1人が、機嫌悪そうに質問してくる。
「残念ながら、その選択肢はありません。
どんなに拒否しようが、異世界へ転移してもらいます」
少し声のトーンが落ちて、天使の女性は俺たちに言う。
まるで警告するように聞こえて、俺たちは黙ってしまった。
天使の女性は、俺たちが黙ったことで説明を再開する。
「皆様が転移される世界は、地球とは全く違う世界で、
魔法が科学の代わりに発達している世界です」
「おお!」
青年の目が、キラキラ輝いている。
ものすごく期待しているようだが、他の人たちは微妙だ。
「お母さん、魔法が使えるの?!」
「変身できる?!」
……違った、2人の女の子たちも期待していた。
後ろのおじさん2人は、『魔法、魔法……』と考え込んでいるし、
母親は娘たちの楽しそうな雰囲気に、タジタジのようだ。
まあ、俺も魔法使いには憧れたものだ。
結局は、現実の厳しさに打ちのめされたわけだが……
天使の女性は、笑顔で俺たちを見ている。
「これから向かわれる世界で、いろんな魔法を使ってみてはいかがですか?」
「あ、あの、魔法があるということは、魔物とかもいるんですか?」
……青年よ、期待を込めた目で質問するなよ。
母親さんが、不安な顔で天使の女性を見ているぞ?
「勿論いますが、その魔物を狩ることを職業にしている人たちもいますから、
心配はいらないと思いますよ。
それに、皆様には魔物に対抗するだけの力を与えますので」
「やったぜっ!」
大喜びの青年に対して、他の大人たちは不安そうな顔だ。
2人の女の子も、不安そうに母親の腰にしがみ付いている。
「では、まず皆様には『これ』をお渡しいたします」
そう言って、天使の女性は俺たち一人一人にカードを配る。
そのカードは、スマホと同じ大きさで、厚みも同じぐらいあった。
でも、スマホじゃないんだよな……
「あの、これは?」
「これを手に取ったら、ステータスと言ってみてください」
俺たちは、全員で顔を見合わせると、仕方なしに天使の言うとおりにしてみる。
「「「「「「「ステータス!」」」」」」」
すると、カードが光り、その表面にカードの持ち主のステータスが表示される。
俺たち全員が驚いた。
喜んでいた青年でさえも、口を開けて唖然としていたんだから相当だろう。
「そこに表示されている数字が、皆様の今の強さとなります。
上から、お名前、年齢、職業、レベル、生命力、魔力、スキル、称号と、
そう表示されていると思います。
職業、スキル、称号は、今は何も書かれていませんが、
後で無償で渡すスキルと、好きなスキルを3つ選んでいただき、
習得してもらってから、向こうの世界へお送りいたします」
……何かゲームみたいだが、好きなスキルを3つか……
異世界へ行くことは、決定しているみたいだし、
魔物から身を守るため、生きていくために慎重にならざるを得ないな。
「あのさ、無償でもらえるスキルって?」
どうしても気になった青年が、天使に質問する。
「はい、まずは『異世界言語』というスキルです。
これは、向こうの世界での言葉の違いの問題を解決するスキルです。
このスキルがあれば、異世界の言葉が日本語として
聴いたり喋ったり書いたりできます。
次に『アイテムボックス』です。
これは、10畳ほどの広さを持つ倉庫となります。
中に入れたものは、時間が停止しますので重宝しますよ」
天使の女性は、空間にできた黒い穴から本を出したり入れたりして見せた。
「「「おお!」」」
これには、この場にいる全員が驚いてた。
「あと、皆様の地球での持ち物で、
向こうの世界へ持っていっても問題ないものは、
そのアイテムボックスの中に入れておきました」
「え、ホントに?!」
青年が、一番驚いている。
何か、大切なものがあったのかな?
「あ、アイテムボックスの中を確認するときは、このカードをお使いください。
カードを持って『ボックスオープン』と唱えると、
カードにアイテムボックスの中身が表示されます。
また、取り出したいアイテムがあった場合は、
そのアイテム名の表示を押して、取り出すと考えると出てきますので便利ですよ」
そう言って、天使の女性はカードを使ってさっき出し入れしていた本を、
自分の目の前に出現させた。
俺たちは、スキルよりもこのカードの便利さに驚きっぱなしだ。
「このカード、盗まれたり他人に悪用されたりはないの?」
何気ない質問を、青年が天使の女性にする。
「このカードは、皆様一人一人専用となっておりますので、
悪用されることはありませんし、持ち主から一定の距離、離れますと、
持ち主のアイテムボックスの中に入る仕組みとなっています」
「……このカード、ご都合主義満載だな」
青年は、満面の笑みを浮かべながら呟いた。
読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。