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タロットゲーム  作者: 灰庭論
第3巻 女帝編
59/60

SIDE OF THE FOOL   愚者

 この手紙を死ぬまで一生の宝物にしようと思った。母さんがいなくなるまでは、俺のことに一切興味がない母親だと思っていたが、そんなことはなかった。興味がないどころか、毎日部屋の中を調べるほど心配されていたわけだ。

 俺を産んでくれた母さん。そして、マリアの言葉に騙されてはいるが、今度は俺を死なせないために身代わりになってくれた。母さんほど深くて広くて大きな愛情を持つ人はこの世に存在しない。母さんの子どもでよかったと心から思った。


 それから自室で手紙に書かれてあったデジタルカメラの画像を確認した。風景写真が多いけど、その中に時々マリアと一緒に写っている写真もあった。その仲睦まじい写真を見ると、どうやら本当に母さんはマリアのことを天使だと思っていたということが分かった。

 というのも、最近は何度もマリアに騙されているせいか、母さんからの手紙もマリアのイタズラだと疑っていたからだ。でもマリアはめんどくさいことが苦手なので、やっぱり母さんが書いて寄越したと考えられる。

 創作したものも、いかにも母さんが詠んだ、という俳句だった。全部で五つしかないので、一句詠むにもじっくりと考えたのだろう。前回の芭蕉を真似た俳句よりもオリジナリティが感じられたので、今回の句の方が、より母さんらしさが滲み出ていた。


『朝一に 朝市に行く お母さん』


 ダジャレだし、季語もないけど、念願だった函館に行くことができて満足そうなので、俺まで嬉しく感じるので悪くない句だ。食堂で撮ったイカ刺しや海鮮盛りの写真もある。その時に詠んだ俳句なのだろう。


『りんごより りんご酒が好き もう一杯』


 これは青森に行ってから詠んだ句なのだろう。りんごの収穫時期ではないけれど、りんご酒が飲めたので満足だったようだ。グラスに注がれたりんご酒をオシャレに写した写真がある。楽しめたようで何よりだ。


『いらっしゃい 手招きするは にゃんこそば』


 岩手で蕎麦屋に行った時に詠んだ句のようだ。お店の中に招き猫があったので「わんこそば」を「にゃんこそば」に言い換えたのだろう。マリアも一緒に「わんこそば」の早食いにチャレンジしたようだ。


『春来る 湯上り美人の こけしかな』


 浴衣を着たマリアを見て詠んだ句だと思われる。二人で土湯温泉に宿泊したようだ。母さんと一緒に並んで撮った写真もある。部屋の中で撮った写真もあるので、ずっと一緒に旅行していたようだ。


『おめでとう 季節外れの 年賀状』


 これだけ意味が分からなかったが、デジカメの写真を漁ると、ずんだ餅を鏡餅のように重ねて写した写真があったので、おそらくそれを元に詠んだのだろう。他にも牛タンや笹かまの写真もしっかり撮っていた。


 デジカメに納められた写真を見ていると、最初は風景写真ばかりだったのが、途中から明らかにマリアを被写体にしていることが多く、同じくらい母さんもカメラに笑顔を向けている写真が多くなっていた。

 まるで母と娘が一緒に旅行をしているようで、その嬉しそうな母さんの顔を見ると、なんていうか、悲しくもあり、切なくもあり、嬉しくも感じるのだ。最後に、こう、楽しい思い出を残すことができたような、そんな表情だ。

 俺はお母さんが大好きな甘えん坊だったのに、中学生になった途端、一緒に買い物をするにも恥ずかしくなって、それから二人で出掛けるということはなくなった。今思うと、すごく寂しい思いをさせてしまって、本当にすまない気持ちでいっぱいになる。

 俺が息子ではなく娘だったら、二人で一緒に旅行に行くこともできただろう。そうすれば写真の中で一緒に笑っているマリアのように、俺も母さんを喜ばすことができたかもしれない。これまで冷たくして、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 お母さんに謝ろう。冷たい態度や、素っ気ない態度を取って、ごめんなさいって。そして、マリアにはお礼を言うことにしよう。寂しい思いをさせていた母さんに、楽しい思い出を作ってくれて、ありがとうって。



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