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タロットゲーム  作者: 灰庭論
第3巻 女帝編
53/60

SIDE OF THE FOOL   愚者

 母さんの手紙を途中まで読んだが、どうやら俺が知る現実とはまるで違う物語を、母さんは現実として捉えていたようだ。これはどちらが本当の、本物の、正しい現実世界といえるのだろうか?

 母さんが生きていた現実世界では、俺の命が残りわずかとなっていたようだ。どうせマリアがいい加減なことを言って、それを母さんが信じ込んでしまったのだろうが、それこそが真実である可能性もある、というのがマリアという存在の厄介なところだ。

 死ぬはずだった俺の命を救うために母さんやユウキやアンナ先生が犠牲になったとしたら、マリアは俺のために現れた救世主ということになる。しかし、そんなはずはない。アイツはただの殺戮ゲーム・マスターだからだ。

 マリアのことだから、適当に話をでっち上げて、それを母さんに信じ込ませたのだろう。しかしながら、その与太話を信じて母さんは死んでしまったのだから、母さんにとってはそれが紛れもない真実だったわけだ。

 人間が認識している現実とか、真実とは一体なんなのだろうか? 遺跡が発掘されるたびに塗り替えられていく歴史を見ても思うが、現実世界は一つだけのはずなのに、別の視点を持つと、まるで違う世界が存在しているように感じるから不思議だ。


「こんにちは」

 手紙の続きを読もうとしたところで天塚佐和さんが訪ねてきた。

「こんにちは。今日はどうしたんですか?」

 尋ねてみたが、やはり答えが返ってくるのが遅かった。でも早口で喋る由佳里叔母さんとの会話に疲れた後だったので、とてもリラックスすることができた。叔母さんのことは嫌いではないが、癒されるのは佐和さんの方だ。

「あの、お母様が亡くなられたと聞いたもので、本日はお悔やみの言葉を申し上げに来ました」

「そんな、面識がなかったんだから、そこまで気を遣うことはないよ。誰かのせいで死んだわけじゃないんだからさ」

 マリアのせいで死んだのだが、それは言ってはいけないことだ。

「でも、お母様にご心労をお掛けしてしまいました」

「だから、それは佐和さんのせいじゃないって」

 そう声を掛けると、泣きそうな顔で俺の顔を見るのだった。

「とりあえず、マジックの散歩に行こうか?」

 誘ったのは玄関先で泣かれては困るからだ。それと俺の方からも話したいことがあった。それは家に来られるのは迷惑だとハッキリと伝えなければならないことだ。本意ではないが、それがマリアから守る唯一の方法だからである。

 天使のような佐和さんを傷つけるのは心苦しいが、キッパリと拒絶しなければ母さんのように殺されてしまう。心を鬼にすることでしか彼女を守ることができないのなら、鬼にならなければいけないのだ。



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