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タロットゲーム  作者: 灰庭論
第3巻 女帝編
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SIDE OF THE FOOL   愚者

 俺の命が残り三日を切った金曜日の午前十一時頃、旅先で母さんが死んだとの報せを受けた。報せてくれたのは母さんの妹の由佳里ゆかり叔母さんだ。父さんにはすでに連絡済みで、遺体確認は叔母さんが行くと言っていた。

 茨城県内のホテルに宿泊中のところ、心不全で亡くなっているのをホテルの従業員が発見したそうだ。現時点でそこまで分かっているということは、自殺の可能性は極めて低いと判断されたのだろう。

 母方の実家に住んでいる叔母さんのところに連絡が行ったということは、宿泊カードに実家の連絡先を記帳したからなのかもしれない。離婚が決まっていたので、もうすでにこの家を出ると決めていたようだ。

 母さんの死を聞かされても悲しみに襲われず、空虚でいるのはあまりに色んな出来事が一度に起きてしまったからなのかもしれない。ただ、ぼんやりと、リビングのソファに座って、在りし日の母さんを思い出していた。

 ソファには座らず、敷物の上ににべたっと腰を下ろしてテレビを夢中になって観ていた。BSの二時間サスペンスの再放送が大好きで、食い入るように見ていた姿を思い出す。俺には全部同じように見えるけど、母さんは同じドラマを何回も観ていた。

 テレビを観ていた時の笑い声を思い出して、不意に寂しさから不安で堪らなくなった。自分の周りから人がいなくなってしまったような怖さだ。お母さんがいないということは、そういうことだ。


 父さんが帰ってきても事務的な会話しかすることができなかった。とりあえず現地に向かった叔母さんから電話が掛かってくるまでは動けないので、俺は居心地の悪さから自分の部屋で待機することにした。

 内地へ飛んだ叔母さんから電話が掛かってきたのは午後七時すぎだった。その電話が叔母さんからだと分かったのは、二階まで父さんの荒っぽい声が響いていたからだ。母さん本人であることは確認できたみたいだが、葬儀のことで揉めている感じだった。

 結局、費用のことを考えて、日曜日に遺体が安置されている水戸市内で仮葬儀と火葬を行い、火曜日に札幌市内にある母さんの実家近くの斎場で本葬儀を行うこととなった。それを由佳里叔母さんが一人で決めたから父さんは意見したのだろう。


 土曜日におばあちゃんと一緒に水戸市に行ったが、とにかくバタバタしていて慌ただしかった。父さんが電車の乗り換えを間違えて、俺が『違う』と言っているのに間違いを認めず、そのまま違う電車に乗る羽目になったのだ。

 内地に飛んだのが父さんだったら、由佳里叔母さんほど手際よく仮葬儀の手配をすることはできなかっただろう。それを知っているから叔母さんは一人で決めたのだ。父さんが頼りにならないことは誰もが知っていた。

 叔母さんと対面しても父さんは不機嫌で、もうすでに本葬を札幌で行うと決まっているのに、いつまでもウダウダと文句を言うのだった。おそらくは体裁を考えてのことなのだろうが、離婚することは叔母さんも知っていたので譲らなかった。

 遺骨もおじいちゃんのお墓に納めると言っていた。それが母さんの希望らしく、叔母さんに直接お願いしていたそうだ。それには父さんも反対しなかった。離婚して、再婚するつもりだったので好都合なのだろう。


 それから日曜日の一番早い時間に家族葬を行った。四人だけのお葬式だ。感傷に浸る時間もなく、すぐに火葬にされた。滞在が一日延びるだけでもお金が掛かるので、とにかく叔母さんは急ぐようにお願いしていた。

 由佳里叔母さんがいなければ、父さんは何をどうしていいのか分からなかっただろう。その日のうちに帰ることもできず、身内でケンカばかりすることになっていたに違いない。必要な書類の手配をすべて叔母さんが行っていたからだ。

 その叔母さんが誰よりも母さんのことを思っていることを俺は知っている。遺骨を誰にも触らせようとせず、故人の遺言通り、おじいちゃんの元へ連れて行こうとしていたからだ。結局、父さんと俺は手ぶらで自宅へ帰ることしかできなかった。


 気がつくと一人、部屋で日付が変わる瞬間を待っていた。マリアの話は本当ならば、その瞬間に殺されることになる。『女帝』のカードに指名された小林市長を殺すことができなかったので対決に敗れたという判断されるからだ。

「ケント君」

 日付が変わった瞬間、マリアが部屋に入ってきた。

「久し振りだね」

 処刑人が笑っている。

「何か思い残すことはない?」

 答える気にならなかった。

「何か言ってよ」

 この土壇場でも殺される実感は湧かなかった。

「もう好きにしてくれ」

 ベッドで横になっている俺を、マリアが見下ろしている。

「怖くないの?」

「分からない」

 考えてしまうと怖くなる。

「その顔、死ぬ前のお母さんそっくり」

 マリアにはすべてを見る力がある。

「見えてたなら、助けられたんじゃないのか?」

「どうして私がそんなことしなくちゃいけないのよ?」

「救急車を呼ぶくらいはできただろう?」

「そんなことするはずないでしょ」

 コイツに何を言ってもムダだ。

「だって私が殺したんだもん」

 確かにそう聞こえた。

 上体を起こし、念のため確かめてみる。

「いま、『私が殺した』って言ったか?」

 マリアが笑顔で頷く。

「そうだよ。ケント君は勝ったんだよ」

 意味が分からない。

「ん、もう。頭が悪いんだからっ」

「どういうことだ?」

「だから『女帝』を倒したんだよ」

 母さんが『女帝』?

「小林市長じゃないのか?」

「それは候補の一人。殺害できたら、お母さんを救えたんだけどね」

 俺の知らないところで母さんがマリアのターゲットに選ばれていた。

「『女教皇』の時はアンナ先生に内緒でバトルさせたでしょう? それを今度はケント君に仕掛けてみたの。お母さんにケント君と殺し合いをするように命じて、それをお母さん本人の口から説明してほしいってお願いしたんだ。でもお母さんはケント君に黙って死ぬことを選んじゃった。ケント君って、お母さんに愛されてたんだね」

 いや、母さんは病気で死んだはずだ。

「自殺じゃないぞ?」

「うん。ケント君のためなら死んでもいいって言うから、私が殺したの」

「よくそんなことを」

「お母さんを救えなかったのはケント君のせいでしょ?」

 俺のせい?

「アンナ先生は私に成りすましてケント君を救った。それなのにケント君はお母さんのためになんにもしなかったんだもん。それじゃあ、お母さんが可哀想だよ。今度はお母さんがターゲットになるって考えなかった?」

 知らないルールで勝手に戦わされているので分かるはずがない。

「ケント君にとっての『女帝』はお母さんでしょう」

 そういえばマリアは言っていた。『今度の標的は『女帝』だからね。もうすでに始まってるのよ?』と。その後に『ケント君には何をしてもらおうかな?』と言っていた。そして『そうだ。明日の卒業式に小牧市長が来校する予定だから、彼女を殺してちょうだい』と言ったのだ。

 ゲームはすでに始まっていると言いつつ、その後に小林市長の殺害を思いついたのだ。思いつく前に始まっていたのだから、他にターゲットにされた人がいると考えなければならなかった。

 それはその後に続く会話でも分かる。『期限は今回も二週間、じゃなかった。えっと、今週じゃなくて来週の日曜日ね』と言った。すでに母さんがターゲットにされてゲームが始まっていたから期限の設定を言い直したということになる。

「俺はどうすればよかったんだ?」

「お母さんのために犠牲になってあげればよかったんじゃない?」

「それが正解なのか?」

「正解かどうかもケント君が考えることよ」

「なんで俺だけこんなことに巻き込まれてるんだ?」

「人間に殺される動物や虫も同じように思ってるかもね」

 マリアにとっては人間も動物も虫も変わらないようだ。

「でもよかったじゃない。ケント君のことだから、お母さんは自分に興味がないと思っていたんじゃないの? でも、お母さんの方が遥かに子どものことを考えてたんだもんね。それが分かっただけでもムダではなかったでしょう? ケント君の方がよっぽど薄情者よ。だって、お母さんのことなんてコレっぽっちも考えてなかったんだもん」

 マリアの言う通りだった。

「ごめんね。泣かせるつもりはないの。でも、ケント君がお母さんのことを少しも考えていないから言いたくなっちゃったんだ。『孝行したい時に親はない』っていう言葉があるけど、あれって、そのまんまケント君に当てはまるのよね。お母さんのことを一番に考えてあげていたら、長生きさせることができたかもしれないじゃない? そうすれば私も殺さずにすんだんだから」

 お母さん、ごめんなさい。

「ゲームを始めてみて分かったことがあるんだけど、みんな、といっても三人だけど、ユウキ君も、アンナ先生も、お母さんも、三人とも大切な人のために死んだのよね。友達のため、教え子のため、そして息子のため。誰も自分の命のために殺人を犯す人はいなかった。それに引き換え、ケント君は一緒に死を待つことはできても、犠牲になることはできない人なの。それどころか、お母さんのことは少しも気に掛けていない。他人の気持ちを推し量ろうとせず、過度な愛情表現がなければ、他人は自分のことに関心がないんだって決めつけちゃうのよね。自分の頭の中だけで物事を考えて、勝手に自己完結させちゃう。まるで、この世の中には自分しか存在していないかのよう。未だに『私』という存在を認めないんだもの。ホント笑っちゃう。でも、そういう人がなぜか生き残っちゃうのよね。それが『タロット・ゲーム』の不思議なところ」

 俺なんか死ねばいい。


 それから月曜日の夜に通夜を行い、火曜日の午前に本葬儀が行われた。弔問客が少なかったのは札幌の実家で行ったからだろう。この二日間も父さんと叔母さんの言い争いが絶えなかった。それでも前回と違うのは、母さんの兄がいるから父さんが控えめにしていたことだ。

「ねぇ、ケンちゃん」

 葬儀が終わると、由佳里叔母さんから声を掛けられた。

「ちょっといい?」

 大事な話があるということで、父さんの車ではなく、叔母さんの車で母さんの実家に戻ることにした。母さんの遺骨はおばあちゃんが大事に抱え、伯父さんの車で実家へ送られることになっている。もうすでに父さんは口を開かなくなっていた。

「話をする前にコーヒー飲ませて」

 ということで、チェーン店ではない喫茶店に連れて行かれた。


 平日の昼前なのでお客さんは少なかった。奥まった席に着いたので会話を聞かれる心配もいらない。そこで由佳里叔母さんはブラックコーヒーを頼み、俺はウインナー・コーヒーという、名前も聞いたことのないコーヒーを頼んだ。

 ウインナー・コーヒーというのは、ホットコーヒーの上にホイップクリームが乗っかったものらしいが、それが『食べるコーヒー』という感じがして、コーヒーゼリーよりも美味しく感じられた。

「はあ、疲れた」

 ブラックコーヒーを口に含んだ叔母さんは、生き返ったかのような顔をした。さっきまで怖い顔をしていたのだが、やっといつもの親戚のおばさんに戻った感じだ。とはいえ、いつ、何をキッカケに怒られるか分からないので気は抜けなかった。

「姉さんが離婚するつもりだったのは聞いているんでしょう?」

「うん」

「お父さんが離婚して別の人と再婚するつもりだったのも知ってる?」

「うん」

「妹がいるのも聞いてるの?」

「由佳里お姉さんも知ってるんですか?」

 母さんから叔母さんのことを『おばさん』と呼ばないように言われていた。

「先週聞かされてビックリしたんだけど、ケンちゃんはいつから知ってたの?」

「僕も先週です」

 俺の場合は聞かされてもいない。

「ビックリしちゃうよね。真一しんいちさんは話すような人じゃないからいいんだけど、姉さんが今までよく黙っていたなって思ってさ。それで離婚しようと思った矢先にコレだもんね。もう、なんだか腹が立っちゃってね」

 真一さんというのは父さんのことで、母さんが実咲みさきという名前だ。

「どこまで話し合いが進んでたの?」

「まだ全然」

「離婚したらどっちについて行くつもりだった?」

「母さんです」

「だよね」

 父さんが考えていた再婚相手との新生活に俺はいなかったはずだ。

「でも実父がいると引き離すのも難しいんだな。札幌の高校を受験してくれていれば一緒に暮らすこともできたんだけどね。せめて離婚が成立した後に死んでくれていたら私が面倒を看てあげることできたんだけど」

 いや、それはそれで迷惑な話だ。もしも俺の母親が母さんではなく、由佳里叔母さんだったらと思うとゾッとしてしまう。ネット環境を持たせてもらえず、勉強しろとうるさく言われ、怠惰な生活をさせてもらうことができなかっただろう。

「でもお父さんも四十代でしょう? アッチの家は短命だから真一さんだっていつまで元気でいられるか分からないじゃない? ケンちゃんだって健康に気を遣わなければいけないし、だからウチで一緒に暮らした方がいいんだけどね。それに姉さんからもケンちゃんのことを頼まれてるし」

 母さんがマリアに殺されたことを知っているのは俺だけだ。でもそんなことを口にすれば、身内が死んで頭がおかしくなったと思われる。真剣に話を聞いてくれる人がいるとしたらレンちゃんだけだが、もう二度と他人を巻き込まないと決めている。

「ちょっと前に妹のお姉さんに会ったんですけど――」

「二人も妹がいるの?」

「いや、そのお姉さんとは血は繋がっていません」

「連れ子もいるんだ。うん。それで?」

「その子の話だと四年先まで再婚はないって言ってました」

「じゃあケンちゃんが高校を卒業するまではお父さんとの二人暮らしになるわけね?」

「はい」

「再婚しなければいけないもんじゃないし、それが考え得る最良の選択かもね」

 由佳里叔母さんも離婚経験者だった。

「高校を卒業したらどうするの?」

「まだ決めてないです」

「決めないとダメよ。三年なんてあっという間なんだから」

 いや、三年は地獄のように長い。

「大学に行くならウチから通うっていう方法もあるのよ? 姉さんが使っていた部屋を使えばいいんだし、そうすれば部屋を借りなくても済むでしょう? やる気さえあれば小牧市の家から通うこともできるんだし、どうなのよ? ああ、そういえば公立に落ちたんだっけ? ねぇ、ちゃんと勉強してたの? 今日みたいにずっとスマホを弄ってたんじゃないの? だからケンちゃんに持たせるのは止めた方がいいって言ったんだよ」

 それからしばらく説教というか、小言が続いた。由佳里叔母さんはしっかり者で面倒見がいいけど、話が長いのが玉に瑕だった。それでいてせっかちなので、とにかく一緒にいるだけで疲れてしまう。

 また、叔母さんが口にすることが全部本当のことだから閉口してしまうのだろう。反論する余地があれば受け流すことも可能だが、事実なのですべての言葉が胸に突き刺さる。叔母さんと久し振りに会った父さんが三日目で大人しくなった理由が、なんとなく分かるのだった。


 帰りは父さんの車で二人だけでの帰宅だ。行きの道は予定が詰まっていたから何も感じなかったけど、帰りの道は特に話すこともなかったので気詰り感がハンパなかった。これがこの先ずっと続いていくかと思うと気が休まらなかった。

 とはいえ、俺には気になることがあった。それはマリアが遊んでいる『タロット・ゲーム』のことだ。母さんが『女帝』として殺されたということは、今度は父さんが『皇帝』として殺されるかもしれないからである。

 しかも母さんの場合はマリアが直接手を下すという新しい要素も加わっている。死因が心不全だったので確かめることはできないが、タイミングを考えると、マリアが関与しているとみてまず間違いないだろう。

 しかし母さんの死の真相を告げて以来、マリアは姿を現していない。ひょっとしたら、もうすでに次なるゲームが始まっていることも考えられるわけだ。つまり俺の知らないところで父さんと接触していて、俺を殺すように命じている可能性があるということだ。

 母さんは我が子を殺すような人ではないが、父さんにそこまでの信用はない。隠し子のいる二重生活という嘘をつき続けられる人なので、マリアを現実として捉えることができたなら、躊躇なく俺を殺すかもしれない。

 認めたくはないが、客観的に見ると俺と父さんは似たような性格をしているので、どうしてもそのように考えてしまうのだ。父さんは俺を殺せるし、俺も父さんならば躊躇う気持ちがそれほどない。

 躊躇してしまうのは、その後の人生が不安になってしまうことくらいだ。しかしマリアに標的とされてしまった時点で、それも取るに足らないことだと自覚している自分がいる。気をつけなければならないのは、父さんに殺されないようにすることだけだ。

「叔母さんと何を話したんだ?」

 車中で一時間以上も無言だった父さんが口を開いた。

「卒業後の進路」

「なんて答えた?」

「まだ決めてないって」

「決めてないのか?」

「うん。叔母さんは『進学するならウチから通え』って」

「それもいいかもしれないな」

 厄介払いしたいというのが本音のようだ。

「再婚するの?」

 父さんに聞きたいことはそれだけだったので、このタイミングで訊いてみた。

「叔母さんから聞いたのか?」

 佐和さんは俺と会って話したことを父さんに伝えていないようだ。

「うん。妹もいるって」

「いや、あぁ、うん」

 極まりが悪いのか、歯切れも悪い。

「そのうち会うことになるかもな」

 会わせると断言しなかったということは乗り気じゃないということだ。母さんが死なずに離婚していたら、存在すら知らずに人生を送ることとなっていただろう。複雑な事情とはいえ、あまりに身勝手な振る舞いのように感じられた。


 それからコンビニに寄って晩御飯を買ってから家に帰った。これから当分はこのような食生活が続くと言っていた。これを機に二重生活を終わらせるかと思っていたが、その気はないようで、これからも帰りが遅くなると言った。

そこで「自分で作る」と言ったら、その場で一万円札を渡してくれた。一週間分の食費と言っていたが充分すぎる金額だ。普段料理をしないので食料品の相場が分からないのだろう。切り詰めれば一か月分の食費にすることも可能な金額だ。

 高校に入れば自分で弁当を作らなければいけないが、うまくやりくりすれば貯金を増やすことができるかもしれない。問題はマリアによる『タロット・ゲーム』だが、アレは天災と似たようなものなので、日常生活は日常生活でしっかりと考えていかなければならないのである。


 翌日、ユウキの家に預けていたマジックを引き取りに行った後、母さんから宅急便が届いた。受付日が先週の木曜日の日付なので、亡くなった日か、前日に茨城県の水戸市から期日指定で発送したのだろう。受取人が俺の名前になっていたので父さんの許可なく開けることができる。

 中に入っていたのは何枚かの手紙が入った封筒と、母さんが愛用していたデジタルカメラだ。そういえば水戸市に行って母さんの遺体と対面した際、地元の警察から遺品の確認を求められたが、父さんも叔母さんも、そして俺もデジカメが紛失していたことに気がつかなかった。

 まずは手紙を読んでみる。二つ折りの紙を広げると、そこには母さんの文字がびっしりとしたためられていた。達筆ではないけれど、丸みがあって優しい、まるで母さんそのもののような文字だ。



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