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タロットゲーム  作者: 灰庭論
第3巻 女帝編
41/60

SIDE OF THE STAR   星

 今日はレンちゃんとお出掛けする日です。

 九時に『神さまの家』に行く予定です。

 でも待ち切れなくて八時に家を出ちゃいました。

 風が気持ちいい。

 自転車も嬉しそうです。

 セイラも嬉しい。

 実習林の林道はキラキラしています。

 はっ。

 どうしましょ。

 知り合ったので、無視はできません。

「おはよう」

 自転車を止めて挨拶をしてくれました。

 やさしい人。

 でもセイラは緊張しちゃって声が出ません。

「レンちゃんのお友達だよね?」

 頷くことしかできませんでした。

「ひょっとして今日遊ぶ予定だったのかな?」

 やっぱり頷くことしかできませんでした。

「そっか、それは悪いことしたな」

 困った様子です。

「レンちゃんにお願いがあって頼み事をしちゃったんだ」

 頼み事をされるレンちゃんが羨ましい。

「悪いけど、今日だけは俺のお願いを優先してほしいんだ」

 頷くことしかできませんでした。

「本当にごめんね」

 首を振ることしかできませんでした。

「じゃあ、急いでるから。本当にごめん」

 そう言うと、行ってしまいました。

 セイラのことを憶えていてくれたことが嬉しい。

 大きい背中が見えなくなるまで、ずっと見続けてしまいました。


 玄関に現れたレンちゃんは元気がありませんでした。

「予定より早く来て、ごめんね」

「それはいいの」

 レンちゃんが言いにくそうにしています。

「今日ね、遊べなくなっちゃった」

 大事なお願い事だから仕方ありません。

「さっきね、ケント君が会いに来たんだ」

「うん。途中で会った」

 レンちゃんのように名前を呼ぶことができません。

 だって恥ずかしいから。

「話したの?」

「うん。お願い事を優先してほしいって謝られた」

「そっか」

 そこでお堂に行ってお話することにしました。


 いつものようにお祈りをしてから席に着きました。

「何を頼まれたの?」

 そう言うと、レンちゃんが折り畳んだ紙を広げて見せてくれました。

「十二時になったら、ここに書いてある場所に来てほしいんだって」

「実習林のハイキングコースだね」

「うん。時間より早く来ちゃダメだって言ってた」

「すごく急いでたよ」

「うん。この紙は絶対に捨てたらダメなんだって」

「わたしは行かない方がいいのかな?」

「一人で来てとは言われなかったよ」

「でも、わたしが行くと迷惑になるかもしれない」

「大丈夫だよ。セイラちゃんも一緒に来て」

 嬉しい。

「でも、宇宙人がいたらどうしよう?」

 そう言うと、レンちゃんが怖い顔をしてしまいました。

「ケント君は私にマリアさんと会わせないようにしているから大丈夫だと思う」

 レンちゃんはいつも冷静です。


 それから約束した時間に間に合うように『神さまの家』を出ました。

 目的地まで自転車でも二十分は掛かるかもしれません。

 同じ実習林でも入り口が違うので町に出ないといけないのです。

 ハイキングコースに入ったところでレンちゃんが自転車を止めました。

「なんかあったんだ」

 パーキングエリアに車がたくさん停まっています。

 パトカーもありました。

 胸が痛い。

「行ってみよう」

 レンちゃんが急ぎます。

 心臓が痛い。

 不安です。

 心配で胸が痛い。

 怖い。

 なにかあった。

 でもレンちゃんから離れるのも怖かった。

 パーキングエリアの手前で止められました。

 立ち入り禁止になっていたからです。

 たくさんの警察官がいました。

「あの、すいません」

 レンちゃんが自分から警察官に話し掛けました。

「何があったんですか?」

「この付近で遺体が見つかりました」

 息ができない。

「この近くで友達と待ち合わせをしてるんです」

「ご遺体はお友達ではありませんので心配いりませんよ」

 すぐに安心させてくれました。

 よかった。

 でも亡くなられた方を思うと気の毒でなりません。

「待ち合わせしているお相手の名前を伺ってもよろしいですか?」

「久能賢人君です」

 それを聞いた警察官は無線で会話を始めました。

「失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「私が伊吹恋で、お友達が天塚聖来ちゃんです」

 セイラの名前も一緒に告げてくれました。

「今お二人と話をしたいという刑事さんが来ますので、この場で待っててもらえますか?」

「はい。分かりました」

 それから刑事さんが来るまでレンちゃんは口を開きませんでした。



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