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タロットゲーム  作者: 灰庭論
第3巻 女帝編
37/60

SIDE OF THE STAR   星

 大丈夫かな?

 レンちゃんが警察の人に呼ばれました。

 セイラの不安が的中です。

 レンちゃんは『心配ないよ』って言っていました。

 でも、これはただごとじゃありません。

 何かセイラにもできることはないかな?

 ダメ。

 何もできない。

 涙。

 はっ。

 お堂の扉が開きました。

「あなたもホームの子?」

 宝塚で男役をしているような背の高い人に声を掛けられました。

 緊張して声が出ない。

「その子は学校のお友達です」

 セイラの代わりにレンちゃんが答えてくれました。

「遊んでいるところジャマしちゃって、ごめんなさいね」

 優しく声を掛けてもらいましたが、怒ったら怖そうな人です。

「明るくても外は危険だから、帰る時は気をつけてね」

 お姉ちゃんにも同じことを言われました。

「道で困っていても白馬の騎士はやってこないから」

 そう言って、警察の人は自分の言葉に笑いました。

 セイラは何がおかしいのか分かりませんでした。

「それじゃあ、伊吹さんも登下校の際には気をつけて」

 別れの挨拶をして、二人の警察の人は帰って行きました。

「セイラちゃん。休憩室で待っててって言ったでしょ」

 レンちゃんの目が怒っています。

 怒られるとセイラはシュンとしちゃいます。

「もう」

 そう言って、セイラの手を握ってくれました。

「心配だったんだね。ありがとう」

 すぐに許してくれました。

「せっかくだから、お堂でお話の続きをしましょ」

「うん」

 お堂はレンちゃんが一番落ち着ける場所だと言っていました。

 だからセイラも大好きな場所です。

 入ると、すぐに二人で十字架にお祈りを捧げました。

 ここで初めてお祈りを捧げたのは四年生の時です。

 三年生の時にクラスが一緒になって、それからずっとお友達。

 最初は何にお祈りをしていいのか分かりませんでした。

 でも、レンちゃんは教えてくれたのです。

 世の中には、たくさん感謝できることがあるって。

 だからセイラはたくさんのお恵みに感謝できるようになりました。

 レンちゃんのおかげです。

「座りましょ」

 一番前のベンチの左端がセイラのお気に入りの席です。

 レンちゃんは隣に座ります。

 ぴったり横に座ってくれるのが嬉しい。

「なんの話だったっけ?」

「春休みのお話をしてたけど、それはもういいの」

「でも、大事なお話があるって」

「うん」

 今日はレンちゃんに秘密を打ち明けようと思ってきました。

 それはレンちゃんが一人で悩んでいるからです。

 レンちゃんがセイラに相談しないのは、セイラが秘密を持っているから。

 セイラに隠し事がなくなれば、レンちゃんも相談してくれると思います。

 レンちゃんにセイラのすべてを知ってほしい。

 レンちゃんには隠し事はしたくありません。

 お姉ちゃん、ごめんなさい。

 でも、セイラもレンちゃんの力になってあげたいの。

「セイラちゃん?」

 勇気を出さなきゃ。

「レンちゃん、あのね、わたし、打ち明けたいことがあるんだ」

 すごく心配そうな顔でセイラのことを見ています。

「でも、お姉ちゃんには『誰にも話したらいけない』って言われてて」

 涙が出そうになってしまいます。

佐和さわさんがそう言うなら、言ったらダメなんだよ」

「でもレンちゃんに隠し事はしたくないの」

「それは嬉しいけど」

 レンちゃんも困っている様子です。

「これからもずっとお友達でいたいんだもん」

「それは隠し事があっても変わらないよ」

「んん。ダメなの」

「でも、お姉さんとの約束なんでしょう?」

「わたしは隠し事されるのイヤだから」

 レンちゃんがため息をついて、考え込んでしまいました。

「分かった」

 そう言って、セイラの右手を掴みました。

「こうしよう」

 それからその手をレンちゃんは自分の左耳に添えるのです。

「これなら神さまと私にしか聞こえない」

 そこで、小さな声でレンちゃんの左耳に秘密を打ち明けました。

 秘密を聞いたレンちゃんは、とても真剣な顔で考え込んでしまいました。

 重荷になってしまったのかな?

 レンちゃんに、あの重たい十字架を背負わせてしまったのかもしれません。

 ごめんね、レンちゃん。

「そっか」

 呟いてから、また黙って考え込んでしまいました。

「レンちゃん?」

 我慢できなくて声を掛けてしまいました。

「ああ、ごめん」

「わたしの方こそ、ごめんね」

「打ち明けてくれて、ありがとう」

 その言葉に救われました。

「でもこの秘密は秘密のままにしておいた方がいいね」

 レンちゃん以外の人には喋るつもりはありません。

「私も誰にも言わないから」

「うん。ありがとう」

「佐和さんにも、私に打ち明けたって言ったらダメだよ?」

「うん。大丈夫」

「それなら心配いらない」

 レンちゃんの言葉が何よりも安心できます。

「でも、そっか、これまで言えなくてつらかったね」

「レンちゃんに隠し事をしているのがつらかった」

 正直に言うと、レンちゃんが微笑んでくれました。

 でも、すぐに暗い顔をするのです。

「聞きたいことがあるんだけど」

 レンちゃんが言いにくそうにしています。

「なんでも聞いてほしい」

「うん。セイラちゃんさ、『マリア』っていう人に会ったことがある?」

 マリア?

「聖母様?」

「ぜんっぜん、違うよ。マリア様とは正反対のような人だから」

 そう言われても意味が分かりませんでした。

「一個上だけど、背が高くてきれいだから高校生に見えるの」

 説明されても分かりません。

「ピンとこないなら会ってないんだね」

「うん」

「よかった」

 レンちゃんがほっとします。

「いや、でも、安心できないんだ」

 そこでレンちゃんが真剣な顔でセイラのことを見ました。

「信じられないかもしれないけど、そのマリアっていう人は宇宙人なんだ」

 宇宙人?

「幽霊かもしれない」

 幽霊?

「でも神様ではないから、やっぱり宇宙人かな」

 宇宙人はいたんだ。

「その宇宙人がね、ユウキ君とアンナ先生を殺しちゃったの」

 宇宙人に殺された。

「それで、そのケント君も狙われているの」

 ああ、どうしよう?

「だからレンちゃんは悩んでいたの?」

「うん。宇宙人の話をしたら『もう会わない』って言われちゃった」

 セイラも同じようにつらい。

「でも放っておいたら、また誰かが殺される」

 それはダメ。

「どうしたらいいの?」

「『どうしたら』って、私の話を信じてくれるの?」

「うん」

「だって宇宙人だよ?」

「うん」

「どうして信じられるの?」

「だってレンちゃんは嘘をついたことがないから」

 そう言うと、レンちゃんが泣きそうな顔になりました。

 セイラも泣きそうです。

「嬉しい」

「セイラも」

「うん」

「でも、どうしたらいいの?」

「あっ、そうだった」

 そこでレンちゃんが耳の横の髪を触って考えます。

 学校のテストの最中にもよくやる仕草です。

「今はまだ分からないんだけど、とりあえずセイラちゃんにできることは、マリアさんと会っても話し掛けたり目を合わせたりしないで。話し掛けられても無視するの。すごく大変かもしれないけど、今のところそれくらいしか思いつかない。だからそれだけは守ってほしいんだ。どう? できる?」

 レンちゃんの言うことを聞いていれば間違いはありません。

「うん。できる」

 レンちゃんがほっとします。

「問題はケント君なんだ。もうすでに宇宙人に身体を乗っ取られた可能性もある」

 ああ、どうしましょ。

「でも、当の本人は気がついてないんだ」

 かわいそうに。

「いや、違う。もっと特殊なルールが存在しているのかもしれない。とにかくね、ケント君に関わる人が、ケント君の知らないところで死んでしまうの。その連鎖を止められるのはケント君だけなのに、私の話を聞いてくれないんだ」

 レンちゃんが悔しそうです。

「現在までの状況を整理するとね、まず宇宙人のマリアさんに『隠者』と名付けたところから始まって、次に『魔術師』であるユウキ君が死んだんだけど、そこまではゲームにタイトルはなかったと思う。でも次に『女教皇』にぴったりと当てはまるアンナ先生が死んでしまったことで『タロット・ゲーム』が成立しちゃったんだ。彼女の次なるターゲットは『女帝』で、そのカードに当てはまる人がもしも死んだら、今度は『皇帝』に当てはまる人がターゲットに選ばれる。決められたルールは存在していなくて、現在進行形で新たな決まりごとが付け加えられていってるんだと思う」

 そんなゲームのように人が殺されていくなんて本当に恐ろしいです。

「そう、だから私たちがターゲットにされないように、ここを出たら『隠者』の名前をみだりに呼ぶのもやめましょ。その上でこのゲームを終わらせる方法を考えて、ケント君を救ってあげるの。それをしなければならないのは警察じゃなくて、ユウキ君とアンナ先生を救ってあげることができなかった私なんだ」

 レンちゃんはまた自分一人で十字架を背負おうとしています。

「セイラも手伝うからね」

「うん。一緒にケント君を助けてあげよう」



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