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タロットゲーム  作者: 灰庭論
第2巻 女教皇編
11/60

SIDE OF THE JUSTICE   正義

 警察に休日はありません。統計を見てもらえれば分かると思いますが、日曜日だからといって犯罪者が休んでくれるはずもなく、七曜日に満遍なく犯罪が起こるというのが社会というものです。

 ただ、これは個人的な感覚ですけど、生活安全課に配属されてからは、日曜日の日没後に残業をしているこの時間帯が比較的落ち着いて仕事をすることができるので気に入っています。親御さんには子どもの在宅率を上げるように徹底して教育してほしいものですね。

 といっても、好き好んで残業しているわけではありません。ウチの署では、もとい、ウチの課では予算配分を減らされないように持ち回りで残業をするのが受け継がれているので、それで私も居残っているというわけです。

「はい。こちらは小牧署生活安全課のばんと申します。お掛けになった番号は匿名通報ダイヤルですが、お間違いでなければ、ご用件を伺います」

 通報者は声を変えていました。

「もしもし? 夜見湖のどこですか? もしもし?」

 夜見湖に死体があることを告げてから一方的に電話を切ってしまいました。通報者は高校生から大学生くらいの女の子なので、おそらくはイタズラ電話でしょう。それでもすべて文書を作成して記録に残さないといけないのが警察官の仕事です。イタズラはやめてほしいですね。

 警察官にとって一番大事な心構えは何かと問われたら、多くの人が「人を信用しないこと」と答えることでしょう。私もそのように答えます。それは新人に徹底的に教え込まなければならないことでもあるのです。

 聞こえの悪い言葉ですので市民の方が耳にしたら不信感を抱かれるかもしれません。それでも犯罪者から市民の皆様を守るには、絶対に人間を信じてはならないのです。それが犯罪者にとって最も都合の悪い考え方ですからね。

 よく冤罪を危惧される方がいますが、それも人間を信用してしまうから起こることなのです。同じ警察官だから間違いはないだろう、と思い込むから冤罪が生まれるので、やはり「刑事も人の子、だから人を信用してはいけない」と考えることが大事です。

 優秀であれば優秀である人ほど他人を信用しません。私人としての人付き合いを、仕事上の公人と別のものとして考えられるのですね。出世する警察官の誰もが立派な人なのは、そういう理由があるのです。

「電話の内容は何だったんですか?」

 声を掛けてきたのは同僚の大ちゃんです。年下で、さわやかで、真面目で、独身なので魅力的だけど、警察官とは付き合いたくもないので目の保養にするだけです。選べる立場ではありませんが、仕事で定収を得るより大事にしたいと思える同僚はいませんね。

「夜見湖に死体があるんだって」

「なんでそういう通報がウチに回ってくるかな? そういうんじゃないのに」

 一一〇通報できない時点で信憑性は低いということです。

「一応連絡しておきましょうか?」

「うん。判断は地域課に任せよう」

「湖のどこですか?」

「それが凍った湖面の下にあるって。泥が目印になってるんだって」

「え? なんですか、それ?」

「どうやって発見したんだって話だよね」

「通報者は釣り人ですか?」

「この時間だから違うと思う。しかも声を変えてた」

「じゃあ、イタズラか」

「だと思う」

「確か今日、夜見湖で祭りがありましたよね?」

「でも湖中の死体を発見できると思う?」

「通報者がったとか?」

「じゃあ、刑事課にも先に回しておこうか」

「絶対に動きませんけどね」

 そこで笑ってしまいましたが、市民の皆様には見せられない姿です。

「報告してきます」

「うん。お願い」

 つい笑ってしまいましたが、本当は笑えない話なのです。凍った湖面の下から死体を探すとなると、人手とお金が掛かります。予算は限られているというのに、誰がその費用を負担してくれるというのでしょう?

 こういった場合は、せめて信憑性というものを考慮していただきたいものです。匿名で死体のありかも特定されていない場所を探すというのは、仮に捜査本部が立ち上がっていたとしても簡単に捜索に踏み切るわけにはいかないのです。

 市民の皆様には警察にも決められた予算というものがあることを是非にでも理解していただきたいものですね。それでも、その足りない予算をカバーしてくださる市民ボランティアの方もたくさんおりますので、そういった輪がもっと広がっていくことを願っています。



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