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白いバングル  作者: 佐藤釉璃
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1.僕の生い立ちって…

目を開けると体が思い。

頭痛がひどい。

血の匂いで鼻がおかしくなりそうだ。


「今日は何人殺したんだろう。」


僕は寝ている間に人を殺す。


そう、僕は人間であってもひとでない。

戦うことだけを目的として産み落とされた軍用人体兵器、通称「神鉾ハルバード


自分が兵器だということ、人を殺しているということを知ることでさえ十年を要した。

ものごごころがついた頃には立派な兵器に育っていた。


国同士での戦火が増えてきた西暦二千百年、僕はこの国に生まれた。

生まれてすぐ両親は僕を軍に売り払ったらしい。

名前すら付けずに僕を引き渡したのだから、どれだけ望まれなかった子供かは容易に想像がつく。


軍に引き取られた僕は戦争のための人間兵器へ。

毎朝、僕は部屋から出され右腕に注射を受ける。


そして僕の一日は終わりを告げる。


意識はないが、僕はかつて抑止力として保有されていた核兵器ですら無力化してしまう化け物となり、

他国の騎士を蹴散らす、殺す、血の雨を降らせる。

殺戮の限りを尽くした僕は軍の施設に戻り眠る。


そして次の朝を迎え、また注射を受ける。

これが生まれて13年、毎日の日課だった。

感情がないわけではないが、特に思うこともない。

戦争で兵器が人を殺すのは、ごくしぜんなことだろう?


そんな日々に終止符がうたれたのは雨の降る日のことだった。

日課のごとく血にまみれた僕は帰ろうとした。確かに帰ろうとしたんだと思う。

そこに誰かが立ちふさがり、僕のことを連れ去った。軍の最高傑作である人体兵器を連れ去った。

きっとぼくは抵抗したんだと思う、

それでも今いつもと違うふかふかのベッドで温かい部屋で目を覚ましたということは

「負けた」ということになるだろう。殺されなかっただけよかったのか、


分からない。


なぜ僕は生きているのか、

こんなところで寝ていたのか、

僕は、分からない。


注射を打たれない朝に困惑していたところ、部屋のドアが開いた。

「やあ少年、体調はどうかな?」

そこに立っていたのは腰まである綺麗な赤い髪と、赤い瞳の僕より年上に見える女の人。


美しい


戦場で見る綺麗な夜空よりも美しいものを僕は、初めて見た。

その美しい人は僕のいるベッドまで近づいてきた。


何をされるのだろう、そう思った。

殺されるのかもしれない、でも不思議と抵抗する気にはならなかった。


ギュッ


「えっ?」

何が起こったのか、僕には理解できなかった。その人は僕を抱き寄せた。

僕の顔を胸に押し付け、僕を強く抱きしめた。

温かい、いい匂い、とても心地いい。


「もう、大丈夫、、、大丈夫。」


その人はそうつぶやいた。

何が大丈夫なのか、なぜ抱きしめているのかわからない。

わからないけれど僕は、この温かみにすがりついた。

この温かさを失わないように、この心地よさが離れてしまわないように。

そして僕はこの日、初めて涙を流した。


ーーーーーーーーーーーーーーー

「もっとっっ!!こんなものかっ!?」

先生が半歩踏み込んでくる。

「これなら…どうだっ!」

隙ができた先生を見て僕は更に一歩踏み込む。


木刀がぶつかる。鈍い音がする。

僕の木刀が折れて地面に刺さる。


「結局一度も私に勝てなかったな、少年。」

そう言い、にかっと笑うのは僕の先生。

「もう、少年って呼ぶのはやめてくださいよ…。先生。」

先生に救われ、国の学園に入学するために旅立つ今日までの3年間、

先生との手合わせの戦績は1094戦0勝1094負と見事なまでの負けっぷり。


「ははっ。それよりも発つ準備はできたのか?ノエル。」


僕は先生に名前をもらった。

先生に救われたあの日、殺人兵器だった僕は「ノエル」になった。

名前の理由はどうやら僕を見つけた日がクリスマスだったから、という安直なものだった。

それでも僕は自分の名前を誇りに思っている。


「はいっ。昼前には発つ予定です。

 先生こそ、僕がいなくなって寂しいんじゃないですかっ?」


なんて、冗談を言えるくらいに丸くなったのも先生のおかげだろう。


「ほぉ?お前もそんなことが言える立場になったかノエル」

そう言ってバシッっと僕の頭を叩く先生の顔は少しさみしげに見えた…のはきっと気のせいだろう。


「まったく、いつからそんなに生意気になったのか…。

 ほらっ。お前のバンクルだ、持って行くといい。」


そう言って先生は僕にバングルを手渡す。

白く美しく光る細めのバンクル。細いながらも何かの綺麗な紋章が彫ってある。

「きれい…。

 えっと、これ、先生が作ったバングルですよね…?いいんですか…?」


そう、先生はバングルを使って戦う騎士ナイトでもあり、バングル技師でもある。


バングル

それは身に着けている者が騎士ナイトもしくは騎士ナイト候補生であることを示す。

バングルは、使用者の意志で形を変える兵器である。僕や先生の場合は片刃である「刀」を使う。

「銃」や「剣」など、様々な使用者がいるらしい。

さらにバングルは使用者との適合率によって、「魔法」のような効果を使用者に与えることがある。

人間では考えられない速さで走れたり、火を操ったり、空を飛んだり。僕にはまだ使えないが…。

とりあえず、バングルを使う騎士は化物。という認識で間違っていないだろう。


「しがない弟のために作ってやったんだ、感謝しろよー?」


そう言って今度は僕の頭をガシガシと強く撫でる。


「あ、ありがとうございます。」

少し恥ずかしいが、一応お礼を言っておく。


「だから、お前のバングル。あれは絶対に使うなよ?またお前を沈めないといけないからな。」

先生が言うのは僕が殺人兵器だった頃に使っていたバングル。

使っていた時の記憶はないけど、先生がそういうのなら使うのは避けよう。


先生がくれたバングルに付け直し、荷物をまとめて


「先生、今まで有難うございました。

 これから、学園に行きますが先生も……早く結婚して下さいねっ!」


バシッッッッ

強烈な脳天チョップ


「ガキが、ささっと行っちまえ!!

 もう私に手間かけさせる事にはなるなよっ?………ノエル、がんばれな…」


最後の言葉までしっかりと聞き取った僕は

視界が歪んできたのでさっさと行くことにする。

学園の制服の裾で目を乱暴に擦り、街へと歩き出す。


先生、本当に有難うございました。


「やっぱり、ハンカチ持ってくればよかったかな…」


旅立って数秒で僕の目は真っ赤に腫れていた。












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