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科学世界と魔法世界、あと冥界

思わず声が出てしまった。これもまた閻魔ちゃんに無礼な発言だが、多めに見てくれるはずだから

それは良いとして…。時折 鬼のおっさんの目が痛いけど…。


「あの、言ってる意味がよくわからないのですが…」



「…原因は解りませんがあなたは本来生まれ落ちるべき世界とは別の世界、つまりは『科学を主とする世界』に行ってしまった様です。

 『科学を主とする世界』はその名の通り科学によって進化した人間社会の世界です。

 その世界の大きな特徴は《物理物質転換》。形あるものを人が持つ想像により創造を成す、そんな世界です。

 そこには他の世界では重要な”ある特殊な力”を必要とはしていないのです。寧ろそれがないから発展したと言い換えてもいいでしょう。

 それは・・・”魔法力”今あなたを守ってくれている力です。」


「」

この時、俺に顔があれば先ほど変な顔をしていた鬼達よりも、面白い顔をしていたであろうが、閻魔様は構わず続けた。


「…魔法力を有する魂は基本的には『魔法を主とする世界』の中で廻ります。

 しかし、それは絶対的ではありません。『魔法』から『科学』へ、『科学』から『魔法』へのその世界の行き来は

 十分に起こりえます。また、更なる別の主とする世界への移動も有り得ますが、今はいいでしょう…。

 …ここで問題なのは『魔法』から『科学』への移動の制限がある事なのです。それは”ある一定以下の魔法力の者”しか転生できないという制約。

 これは様々な理由がありますが(ひとえ)に集約されます。世界においての致命的な欠陥(クリティカル・デフェクト) 、それを起こさせない為の処置です。

 魔法ひいてはそれに準ずる様な力、その力は簡単に積み上げてきたモノを壊す…それが出来てしまうのです。

 ですから冥界において世界の行き来が行われる場合、”ある一定以下の魔法力の者”は弾かれる様になってるのですが…

 どうやらあなたはそれを突破してしまった様です…。」


「・・・・・」


説明を受けなお困惑し揺れる綿飴。

「科学を主とする世界」から来たものにとっては到底理解できない事であったからである。

その世界においての常識が全てだったのに、その枠外から”魔法”という情報は処理するのは時間が必要であった。

それは「魔法を主とする世界」から来たものであってもそのように情報を瞬時に受け入れることはできないであろう。

携帯や冷蔵庫などの高度な機械を説明をされても理解できないように、全く異なる世界の文化や思想など理解するには及ばないのだ。



しかし、厄介なことに既に自身の常識では理解できないことが常に起こっており、自分より高位である閻魔様の言葉に

反論する意志も疑う余地も全く生まれない。それは真実であり反論することはただの愚鈍な行為でしかない。

そんな結論が用意されているのだから・・・。


「…少し時間を貰います。今は18番目の『科学を主とする世界』に何も起きていませんが、

 ”魔法力”を持ったあなたが現世にいた事、これが致命的な欠陥(クリティカル・デフェクト)

 もしくはその兆候だとしたら憂いは早めに取り除かなければなりませんから…。」


そう言うと、閻魔様は司命と司禄に何か告げ、奥の方へ去がって行ってしまった。

司命と司禄は俺に先ほどの客間の移動する様に命令し、部下を連れて閻魔様が行った方とは別の道に歩いて行った。

そして残った俺は巨体の鬼の誘導に従って”謁見の間”を出るのであった。


扉が重厚な音を立てて閉まる。

少しであるが心を支配するような重いものが取り除かれた気がした。それはただ単に緊張の糸がほつれたというべきかも知れないが…。

未だ考えがまとまらないまま巨体の鬼の背に付いて行く。


無言のまま足音だけが響いていた。俺はその音と巨大な鬼の体を目印にただ付いて行く。

脳が在るかどうかは分からないが、記憶容量がいっぱいに成るまでに情報を詰め込まれた俺は、憔悴していた。

『魔法』というものが存在し、それを利用する世界が存在し、俺はそうゆう世界に生まれる予定だったらしい。

極めつけは俺が居た現世、18番目の『科学を主とする世界』が、俺が居たせいでやばい事になるかも知れないと。


身体の消失によるストレスや自分の常識が通じない新情報、そして自分のせいで危機的に陥ってるかもしれない世界(ふるさと)

その全ては一個人には重く、忘却は不可能としても一時的に思慮的思想を、隅の方へ追いやっていたのかもしれない。


何も考えていないのに脳は絶え間なく情報を処理して働き続ける。そんな状態のまま俺は客間に戻ってきた。

《ドゴンッ!!》と扉を開き中に通される。

客間の中に入ると、再び《ドゴンッ!!》と大きな音を立てて、扉が閉まった。


俺は「はぁ…」と息を漏らし、ふらふらとベットの方まで移動した。

すると、首筋(多分)にチリチリと視線を感じ、振り向くと巨体の鬼がそこに居たのだ。


案内なんだから部屋まで送り届けたら帰ればいいのに。と思いつつ視界を上に向けるとそれは、眼光を赤く光らせた鬼のおっさんだった。


「ひっ」


鬼のおっさんはゆっくり近づくと、膝を曲げ、ヤンキー座りをして、俺の眼前(多分)まで視界を合わせ怒気を浴びせる。


「わしは言ったよな…謁見する前、ここで。くれぐれも粗相のないように…。と」


やばい・・・・そんな事したのすっかり忘れてた。

にしても何て目してるんだ…光線や!光線がでそうや!!


俺はめいっぱい姿勢を正し、これ以上怒りを買わないようにハキハキと答える。


「はい!!確かに伺いました」


「・・・・・それで、あれか?」


ひぃ、低い声の方が、ドスが効いてて怖い。

何、この番長の彼女に手出してしまった哀れな後輩みたいな構図。


「そ、それはですね…あまりにも立派な〔〕…お姿に気が動転して、そりゃあもう素晴らしい…〔〕でございまして、

 ワタクシ如き小市民があのオーラ〔〕にやられたら、とても正気を保ってられなくてございまして、

 いやもうなんていうかすいません」


「・・・・・」


目の前で、鋭い眼光で睨みつけてくる鬼のおっさん。


うぅ…怖い・・・っつうか近い。


しばらく睨みつけられて居たが、不意に眼圧が弱まったかと思うと、一つ溜息を漏らし

「今回はお前も大変そうだから許してやる」と言って離れてくれた。


いやもう、心臓止まるかとお…無いけどね!


「もっとも、次は無いがな!」


そう言う彼の口元は、笑みを浮かべて居たが、眼光は灼熱だった。


あれ、今、無いはずの心臓が止まった気がした…。








「俺がもしクリティカル・デフェクト?ならどうなるんです?」


俺は思い切って鬼のおっさんに聞いてみた。


「さあな…お前が冥界に来たことで何か変わって、面倒事が起こるのであれば…魂の消失させるか、もしくは封印をすることになるんじゃないか?」


おぅ…そりゃ世界一つと俺の魂を天秤に掛けたら、当たり前だが、直接聞くと堪えるな…。


「…じゃあ、俺がクリティカル・デフェクトじゃ無かったら?」


「それは、お前の今までの生き方次第だな。おそらくだが、閻魔様による正しい形式の審判が下される。

 よっぽどの悪事をしてなけりゃ転生の道が拓かれるであろう」


「…天国は?」


「徳を重ね、魂の位が高まった時、その道が拓く。自分から訪ねてくる様な奴が行けるとは思えんな」


…そりゃそうだな。まったくもって、行ける気しねぇもん。

それにもし、今のまま天国に行けたとしても納得できないしな。俺のせいで、こんだけ大事(おおごと)になったんだから、せめて説明くらい聞いてから逝かしてもらわないとな。うん。


俺が少し無言になってうんうんと考え事をしていると、落ち込んでるのかと思われたのか、鬼のおっさんが声をかけてくれた。


「まぁ、お前が悩んだ所で仕方あるまい。閻魔様が何とかしてくださる。おじょ…ゴゲフンッ!・・・閻魔様は大変勉強家でな。

 過去の出来事もよく目を通しておってな。上手くやってくれるであろう。」


ん?なんだ噛んだのか?と疑問に思ったが、鬼のおっさんは何事も無かったように、もう一つ大きな咳払いをして続けるので、気にしないことにした。


「それに、もしダメでも、わしが魂消失だけは避けてやるわい。まぁ大したことも出来そうな器に見えんし、大方巻き込まれたんじゃろうて。

 軽く数千年位、封印しとけば、お前の世界に影響を及ぼす事柄は消え去ってるじゃろうから、そしたら魂を転生の理に戻すように打診してやっても良いぞ」


ガハハと豪快に笑う。


いやいや、破格の条件みたく言ってますけど、数千年てとんでもなく長いですからね!?



その後は、本気とも、冗談とも取れるような話をしてくれた。

…中でも、『鬼』として鬼のおっさんの下に置いてくれるって話はどうなんだろう・・・。


最後は「ガハッハ心配すんな」と大きく笑いながら、鬼のおっさんはまた扉を《ドゴンッ!!》と閉めて出て行った。


嵐のように過ぎ去った鬼のおっさんの軌跡を眺めながら、少し軽くなった心の中で強く思った事は、

『落ち込む時間を与えてくれなかった鬼のおっさんへの感謝』と、『心の声〔おっぱい〕が漏れなくて良かった』という事だった。

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