宮中にて
…んあ?
宮中、煌びやかな装飾が施された部屋で俺は起きた。
一つ一つが豪華絢爛といった感じで、一般庶民の出としては目が痛くなる様な輝きを放っている。
まぁ…今の俺には目なんてないけどな。はっはっはー。
・・・・・・
…で、ここはどこだ?
見たところ地獄って感じはしないな…。
天国は《魂の位》がなんたらかんたら~って鬼達が説明してたし…無いな。
大穴でもう転生してて、超VIPで金持ちーな家に生まれたとか…。
自分の綿飴みたいな姿を確認して『無いな』と呟いた。
さーて…全部無いとしたらここはどこなんだ?
高貴を匂わせる部屋、気品あふれる絵画、価値のわからない俺が見ても目を見張る数々の品。
外が見える窓枠にさえ、美しい彫り物がしてある。
美術館かと言われれば信じてしまいそうになる空間だ。
しかし、中心よりも若干隅に寄せられたカーペットとベットが、それを否定する様に存在している。
その存在が辛うじて客間なのであろうと納得させられる。
部屋を物色しながら思慮を巡らしていると扉の方から《ドゴンッ!!》と音が聞こえ、外から強面のおっさん鬼が現れた。
ぬお!と奇声を上げたと思うが声はやっぱり届いてなかった。
「おおー起きておったか!」
起きてなくてもあんなでけぇ音たてられたら寝ていられないだろ…と悪態つきながらも男の手招きで鬼のおっさんの前に移動する。
「起きてなかったら叩き起こす予定だったからな。手間が省けたわい わはっはー!」
修正、起きてて良かった…。
鬼のおっさんは他の鬼と比べると一際大きく、多分今の俺を縦に3つ並べても足りない位にはでかかった。
そんな鬼のおっさんは声もデカイ。威圧感は半端なく態度も堂々としているので存在感まで在る。
おそらくは一般兵では有り得ない…何かしらの役職を持っているだろうと思わせるモノを持っていた。
「お主の霊体が不自然ということで、我らの手に余ってな…それで直接、閻魔様に判断してもらおうとこの宮中に運んだのだ。
なにせ霊体外装も無く審判の列に並んでたそうではないか。そのまま時が過ぎれば消失の危険も合ったというのに…」
「ガハハ…すまんすまん」と特に悪びれもせず豪快に笑っている。
マジかよ!そんな危ない状態だったとか。悠長に笑ってる場合じゃねえだろそりゃ、責任問題ですよ!?
魂の消失ってあれだろ 虚無に帰すっていう…再生も死も受け付けない状態。
全て消え失せるまで何にもない所で過ごすっていう。
ん?…なんでそんなこと知ってんだ??
「ここ数百年は特に大きな異変も無く鬼たちの士気も下がっていたようでの、こんな分かりやすい変異を見逃すとはな…。
・・・・ここいらでキチンと鍛え直してやらねばならないな。」
途中で鬼のおっさんの声のトーンが変わって眼光がギラって光った気がした。
俺はぞくっとして身震いをしたが
傍目には綿飴がふわっとした位にしか見えなかったかもしれない。
「…おっと、話が逸れたのぉ。えーとうーん…綿飴!!いやお前でいいか…」
俺はまたびくっとしながら姿勢を正した。
綿飴が かさ増しされた程度にしか変化しなかっただろうけど…。てか綿飴ってここにもあるんだろうか?
「お前にはもう少ししたら閻魔大王様に拝謁して貰う。
わしはそのための使いに来た訳だ。くれぐれも粗相のないように…。」
綿飴がふわっふわっと揺らめく。
「・・・・・・わかりにくのぉ」
『閻魔大王様の準備が出来たら呼ぶ』と言い残し鬼のおっさんはまた《ドゴンッ!!》と扉を閉め向こうに行ってしまった。
…ふぃ緊張した。
しかしあのおっさんそれなりに位が高いのか、中々いい眼光してやがる…食われるかと思った。
それにしても閻魔大王様か・・・。どんどん話が大きくなって行きやがる…。
一体この綿飴がどうだって言うんだ。霊体外装がどうとか言ってたな…ふむ…少し話を整理してみようか。
ふわふわする外装と、あまり高さが足りてないせいか上手くベットに座れなかった俺は、なんとなく部屋の端に寄って考え込む。
霊体外装…多分、魂魄が纏う鎧って認識で間違いなさそうだ。
脆弱な魂魄を守るもの、そして生前の姿の映し身って所か?
あのエロい姉ちゃんも強面のヒゲスキンヘッドもそれぞれ別の姿をしていたからな…。
自身が独自で作り上げられた物で俺にはそれが無いと…。
やばいよねそれって…。
なんかそのまんまだったら魂魄消滅してたかもって言ってたし、要するに今の俺は全身急所を晒してここまで来たわけで…。
つまり俺はカリバーンが折れた訳じゃなくて、全身エクスカリバー状態…。
・・・あれ何か強そうじゃね?
いや、まてまて…かっこいい比喩に変えてるだけであって実際はち○こ。
卑猥生物から卑猥物質にジョブチェンジしただけだし。
ん~分からん。
やっぱり俺が死んだ時の記憶持ってないのが原因かな~?
…にしったって他の人たちだって特別な訓練もしないで外装持ってる訳でしょ~。だったら、俺だってその位の記憶無くたってその辺は融通効かせてさぁ・・・・・・・。
自分の生前の風貌、そして顔を思い出そうと思考を遡りそして気付く…。
…あれ? そういえば俺、生きてた頃ってどんな顔してたっけ………?
…まてまてまてよ、確かこっちに来た時はその辺の記憶有ったよな…。
・・・少なくとも!。俺の中ではそのように認識している…つもりだ。
朧ろげだったのは死んだ直後の記憶だけで…。
・・・・・・
もしかしてこれが外装無しで動き回ってた弊害か?
・・・いや、それだと原因と要因が逆転しちまうか?…。霊体外装が無かったから霊魂に直接影響を及ぼす訳だからな。
・・・いやまて、『この魂魄』の状況から失ったと考えればそれもありか…?
…ますます分からん。
ただ、俺の全ての記憶が失われた訳でも無いらしい。
普通に学校に通ってた記憶はあるし、犬に追っかけられたり、先輩に殴られたり、車に引かれそうになったり、
超高度から植木鉢が落ちてきたり、トラックに潰されそうになったり…
…よく生きてたな俺・・・。
ま、要するに今は外装が無いただの綿飴で困ってる訳だが、中身は綿飴が入ってないテキ屋のカラーな袋状態って事だな・・・。
自分の『主』となる部分がかなりの割合で失われてて、本来それに付属して付く記憶だけが色濃く残っていやがる・・・。
『俺が俺たる部分が思い出せねぇ』
しばらくして、謁見の準備を終えた使いの者が来て案内された。