死後
死んだ。
なぜかはわからないけど死んだ。
事故だったのか、自殺だったのか、あるいは殺されたのか・・・は定かでは無いが…
・・・どうして分かるかって?
…そらぁこんな状態だもん。
「はいはーい、列を乱さずにならんでくださーい。
そこ、はみ出さない!地獄行きになっても知りませんよ。今のあなた方は霊体でーす。
どんな些細な事でも消失の危険がありますからね。くれぐれも注意してくださーい。」
随分恐ろしいことをサラっと言ってるな…。
おそらく、正面に微かに見える宮殿?に向かう列の中腹に俺は居た。
ここに至るまでにいくつもの分かれ道があり、誰にも指示される事無くその中の1つを選んで今ここに居るのである。
他の道を選んでいたら何処へ行っていたのか。またこれから先に進んでいけばどうなるかも分からない。そんな不明瞭な中ひたすら進んでいく。
俺の意識がはっきりして来たのは先程だ…。それまではだだ進み、たまに聴こえてくる鬼みたいの?の指示に従って動いていただけに過ぎない。
彼らは時折声を張り上げ指示を飛ばす。この列を統制するのが仕事らしく宛ら警備員といった所だろうか・・・。
割とキチンとした格好をしていて、黄色と黒の縞々のパンツでは無く、ひとりひとりに個性があり大体の鬼は真面目な印象を受けた。
まぁ、途中でぼけっとしてる奴や居眠りしてる奴も沢山居たが・・。
と、そんな訳でどうやら死んだらしい。
死んだ時の記憶は全くなく、死を嘆く理由も思いつかない。
普通はこんな状況になったら、嘆きの言葉でも未練がましく吐いてたのかもしれないな・・・
実際、そこら中で嘆きの言葉を吐く者や、勇ましく声を上げるものが居て
「あの時右に避けていれば・・」とか「後悔なんてありぁせん いい人生だった」とか談笑が聞こえてくる。
きっと事故や寿命などで死んでしまった彼らのひとりひとりに、人生があったのであろう。
そして死んでから実感できる初めての事がその振り返りで、今それを確かめあっているのであろうと容易に想像できた。
悲しむ者、誇る者、塞ぎ込む者。まさに千差万別の違いがあり多様の言葉が飛び交っている。
中には生前の自慢大会みたくなってる場所もあって、割と和気あいあいしてる場所まであった。
みんな生きた証を確認するようにに自分の事を話してるみたいだった。
俺はそんな半透明で高らかに声を上げているじいさんを、横目で流し見てとあることに気がついた。
…ん?。
視線を正面に戻し、ふと他者と自分に置いて違和感を感じる。
・・・んん??あれ???なんかみんな普通に話してる??。
中々進まない列ではあったが今は完全に足を止め、あたりを見回して見た。どこもかしこもみんな談笑している。
それはこの場に置いて普通の事、おかしなことなど1つも無い。おかしいとすれば・・・その会話の輪に入る術が無い存在なのである。
俺話せる気しないんだけど・・・。
その姿はまさに異様。千切り取られた綿飴が如く、はたまた白く揺らめく炎が如く、浮いているのである。
ある意味 死後の世界には最も相応しく、見たものが”魂魄”や”霊魂”と口々に言うであろう姿でをしている。
しかし、周りは白き写し身を持って、それが人であったと認識出来る姿をしているのに対して、その男は綿飴なのである。どちらが異常なのかは言うまでもない。
あれー?俺だけオプション足りてなくない??
口どころか手足も無いし…そして視線も動かせるけど、多分これ目玉もねぇだろ・・・。
自分を中心にぐるっと視線を動かす。人の形をしていれば首を振り幅のある一定の所までで限界が来て止まるはずであるが、障害は何も無く難なく視線を一回転できてしまった。
ありゃりゃ・・・一周できちゃった。こりゃあ…ちょっとおかしいぞ・・・。
ぱっと見、他に俺みたいな奴は居ないし、多少の濃い薄いはあるけどみんな綿飴みたいな外装にちゃんと姿を持っている。
もしかして死んだときに全部落っことして来たか?
・・・いやいやいや…死んだんだから体全部、現世に置いてこないとおかしいだろ…なら俺が正しくて他の奴らがおかしい!!
…はずなんだけど、数の暴力には勝てないか。多数派はその数が多いから常識になるわけだから………。
不安になり周囲を観察し物思いに耽っていく。彼は彼なりに焦っていた。それは周囲の確認を怠る程度、『…おい』と後ろから声をかけられてるのにも気づかぬ程度には。
例え正しい事を言っていても俺が1人なら、間違ってる奴が100人集めて俺と対立したら勝てる訳ねぇ…そのうちそっちの方が常識として認識されて………。
くそ…勝てるわけがねぇじゃねぇか・・・ん?
それに気づいたのは声が聞こえたからではなく、不穏な空気を感じたからだ。
後ろの男が更に苛立ち声を強めると共に、自分の中心が圧迫感を感じ、男の足首が速く動くたびに不安感が募るような…。
それはごく小さな変化ではあったが気づいてしまったらその感覚は拭えない。
「おいっつってんだよ!!薄気味悪い奴だな・・・姿も見えないし・・・早く行けよ!!」
今にも殴りかかってきそうな勢いを持ちつつも、他の奴とは違う不気味さを感じ、声を張り上げることしかしない男の姿がそこにあった。
口髭とスキンヘッドで如何にも威喝そうな風貌、生前ではあまり関わらなかった人種だ。
内心震えながらも何度も謝りながら移動を始める。
どうやら俺のせいで列が遅れてしまったらしい。
『申し訳ない、失礼しました』と散々お辞儀をして謝罪したが、案の定伝わってなかったようだった…。
足が無いので滑るように移動しながら再び考え込む。
コミュも不通かよ…マジでやべぇな…。難癖付けられたら言い訳も言えないから事態が悪化しかねん・・・。
…つうか足も無いのも動き難いんだよな…なんかこの滑る移動も楽しいけど不安定で安心できん…。死んでからも俺の人生ろくなもんじゃないかもしれんな…ん?
視界を眼前に戻し、前列の魂の外装に目を奪われる。
胸元と腰のラインに巻かれた薄めの布地以外の衣類をまとわず、指先や額に質素で決して目立たず女性の美しさを高める宝石を付け、
優雅だがおしりの辺を強調するような佇まいで、列に並んでいた。
一言で言うならグラマラスであり、尚且つとてもセクシーな格好。男どもを惹きつけるには十分な魅力的な女性であった。
お?…おおぉ!
・・・今まで気付かなかったが前列の人、なかなか際どい姿してらっしゃるではないか。
生前はキャバ嬢かな?いや…どこぞの国の踊り子さんとか?んん~際ど過ぎる…こんなんじゃ俺のエクスカリバーさんも・・・・
・・・・!?
・・・折れたカリバーン状態だと…!!つうか無ぇ!!!
なんという事だ…。決戦の地カムランの丘が目の前に存ると言うのに。
戦いを前にして唯一の武器を失っているとは…これでは敗北は必至。
・・・・・
…ち○こも無ぇのかよ。
いやそらそうか、今の状況にち○こだけついてたらどんな卑猥生物?だよ。
動く公然わいせつそのものだよ。
全裸で歩いてる人より直接的であぶねぇ…。
俺なら逃げるね。うん絶対。どんなに紳士的な態度とってきてもち○こだもん。
『暑ですね~』とか言われても
『皮かむってますからね~』みたいな洒落たこと言えないよ?
実際会ったら間違いなく逃げるね。
と、それはいいんだが…いや良くはないが(ち○こ大事だし)
この移動法…急に止まれなくね?
俺はカムランの丘目掛けて追突した。
そこには…柔らかいとか弾力があるとかそんな感想は生まれなかった。
なぜなら…なぜなら俺は丘を超えその先にある白き綿飴が如き物体に触れてしまったから。
「ン・・ぁ・・い・・・ぁあぁん♡」
踊り子っぽい女性が崩れ落ち魅力的な声を漏らす。
甲高い声が辺りに響き渡り、近くに居る男の姿を型どった者達も心なしか前かがみになっている。
く…やべぇ・・なんだこれ・・・超きもちぃい~~~~~~!!!
狂う狂っちゃう・・・おかしくなるいいこれ・・・やあば・・・。
全身が快楽に溺れ、何かが消費されていく。
「あーーー!!こらそこーーー!!!
霊魂同士の接触は危険だ離れろー!!!」
異変に気づいた鬼たちに引き離され正気に戻る俺。
はぁはぁはぁ・・・なんだ今の・・・気持ちよすぎて狂うかと思った・・・。
…ってあんな感じなのかな。
・・・くそっ!こんな時に俺のカリバーンはなぜこんな状態なんだ。
目の前にも息も絶え絶えの美女がいるというのに・・・ちきしょう!。
俺は悔しさと共に何かを消費した疲労から意識が遠のいていった。
異変を察知した鬼たちが集まり慌てふためいている。
「・・・!?おい!こいつ霊体外装が無いぞ!!」
「なに!?どういう事だ!!?・・・・こいつは生きていた時の自分を認識していなかったのか!?」
「いや…分からん。
何か特殊な事情から外装が剥がれてしまったか…原因はさっぱりだ…
・・・・だがただ一つ分かることがある」
鬼は視線をピクピクと痙攣し、淫乱な顔を浮かべている女性を見てこう言った。
「こいつの魂は…エロい事を考えていたという事だ…」
「・・・・・」
「・・・・・」
鬼たちは顔を見合わせて『こいつ、男だな』と確信した。
「と、不測の事態だ。俺たちには手が負えん。宮中に運んで閻魔様の支持を伺おう」