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プロローグ

連載もの初挑戦

「そっかぁ・・・『絶望』…望みが絶たれるという事はこういう事か…」


物心ついた時より調べ始め、わずかな希望の道が今絶たれた…。

いくつもの資料と構想、先人たちの知恵を借り行き着いた先は行き止まりだったのだ。



僕はひとつ溜息を漏らし、机の上に乱雑に並べられた本の束を整理する。

自然界の本、人体解体書、そして初級から最上級、さらには最古に至るまでの様々な魔導の資料。

それらを部屋の隅の大きな本棚の一角にまとめて入れていく。

幾度となく繰り返した作業なのですぐに片付き、最後に3冊のノートが残った。


…その3冊目に先ほど出た結論を書き出していく。

丁寧にその一つ一つの事実を飲み込むように・・・。


元々そうではないか…と覚悟を決めてはいた。

だがそれを認めてしまえば、僕は今までやってきたこともすべてが気泡に消えてしまう事を知っていた。

知っていたからこそ最後の最後まで認めるわけにはいかなかったのだ。



全てを書き終え、ノートをゆっくり閉じる。

ポケットから小瓶を取り出し、蓋を開けた。

きゅぽっとビン特有の音を鳴らし、中からほのかに風が流れ出て来るのを感じる。

魔道具と呼ばれるそれは、手軽に奇跡を起こし日常と空間を捻じ曲げた。


一冊目のノートと二冊目のノートにそれぞれ『キー』となる言葉と共に瓶の中に収めた。

そして3冊目のノートに『キー』を施そうとした時、ふと言葉が詰まってしまった…。


「・・・・・」


最後のページをもう一度開き、震える手で一言加えた。

心の底から溢れ出てくる何とも言えない気持ちが、涙となって頬を伝っていった。






玄関の扉を開け外に出てみると、心地よい風が体を通り抜けていった。

晴天で清々しい日差しが僕の気持ちをわずかに持ち上げる。


日の光を浴びるなんて久しぶりかも…。


別に虚弱体質だったという訳ではない。ただ、時間が惜しかったのだ。

外に出て人との違いに嘆くより、問題点を見つけ出し解決策を講じる方が何倍も自分のためになるし、将来の役に立つ。

そう思いたった僕は次第に部屋から出る数が減って行き、仕舞いにはまったく部屋から出ることが無くなってしまったのだ。


じゃりじゃりと土で覆われた道を歩き、目的もなくふらふらと歩く。

いつもは通り抜けてしまうだけの道なのに、今日はやけに周りの様子が鮮明に残る。

草木が輝き、まだつぼみの花が美しく見えた。

それに呼応するように、いつの間にか少し深く森の中まで入り込んでしまったみたいだ。



草木を眺め足首ほどの若草を踏み鳴らして歩いていると、頬を撫でるような風が吹きつけてきた。

それに気付き、振り返ると風を舞わせ得意げに笑ってる少女が居た。


オリヴェラ…


この森に住みついたエルフの孫。

いや、正確にはエルフでは無い・・・同族以外と恋に落ち、戒律を破ったはぐれエルフとその一族は、エルフを名乗る事を禁じられているから。

しかし、金の瞳、そして母よりも色濃く受け継いだ深緑の髪、静かに舞う風、そのすべてがエルフの血を思わせる。


「ひさしぶりね。×××××」


「…ああ」


彼女が僕の名前を呼ぶ。だがそれはひどく耳慣れない音だ。


「最近は、ぜんぜんこっちまで来てくれないんだもん。

 だから今度、お母さまが作るジャムを持って、×××××の家まで行こうかと思ってたんだよ?」


「…ああ」


彼女と僕は両親同士が仲がよく、互いの家に遊びに行く時に付いて行っては、よく子供同士で遊んでいた。

小さい頃から可愛くて、活発で、よく笑って。


「遊び場にだって全然顔出さないし…」


ころころ表情が変わって、散々振り回されて、でも時々やさしくて。


「ちょっと前だって、おばさまが来てくれた時に会えると思って楽しみにしてたのに」


「…ああ」


大好きだった。


だから僕はこの森に来なくなった。

・・・・会うたびに違いを見せ付けられるから。



「ねーきいてるー?」と整った顔が覗き込んでくる。


僕はなんて答えたのであろう?

強めの風で叩かれた事から、きっと彼女の望んだ答えを返せはしなかったんだな。


頬を膨らませた彼女が少し離れ、振り向きざまに舌を出しながら微笑む。

するとそれに合わせるかの様に、昼を告げる鐘が鳴り響いた。

その光景はとても美しく、一枚の名画を切り取った様で・・・。


まるでそれが合図だったかのように、何かが僕の中心を貫いていった。


何が起こったのかはわからない…

だが、何かが切れた?・・・いや奪われた…?


次第に四肢に力が入らなくなり、両足が膝をついた。


あぁ倒れる…


どさりと仰向けに倒れこみ視界が遠のく。






頬を叩かれた。


瞼を開き最初に捉えたのは深緑の髪を持つ少女だった。


先ほどまで怒っていたのになぜ泣いている…。


オリヴェラが何かを泣き叫んでいるようだが、理解することができない。

だんだんと叩かれる頬も、痛みを感じなくなってきた。


指先1つすら動かない、それどころか呼吸さえ・・・・

・・あぁ僕は死ぬんだな・・・

視界がぼやける…もう彼女の顔すらも見えない。


だが・・まぁいっか・・・



『魔法を使えない僕には、この世界に価値などは無い』のだから・・・



肉体から魂は離れていく。

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