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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
1章:オルヴァーリオの湖底
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6階層




 それから、2度ほどサファギンとの交戦はあったものの、特に問題なく6階層にたどり着いた。

 6階層も先ほどまでと対して代わり映えしないような場所で、道が入り組んでいるのがわかる。

 が、6階層に降り立った瞬間、ミシェルが顔色を変える。

「……この気配はまさか」

 ミシェルは真剣ではあったものの、先ほどまで余裕がわずかに浮かんでいた。が、今は余裕がそげ落ち、張り詰めた緊張感と苦笑いでこちらを見る。

 気配に疎い俺にもわかる重圧。だがそれがなにかまではわからない。少し生臭いような気もするが自分の感知能力だとこれが限界だ。

「ちょっとまずいかもしれない……。僕も予想してなかった大物がいる」

「大物?」

「レイクラブ」


 ――レイクラブ。オルヴァーリオの湖底では稀に出現する魔物で、このダンジョンで恐らく中ボスに相当する強さを誇る強敵だ。難易度の高いダンジョンではそれこそ雑魚敵として出現するがこのダンジョンを訪れるメインの冒険者の実力では相当苦労する。まず強固な殻。斬撃が通りにくいことから剣士の敵だ。バブルブレスを放ち、距離をとっても攻撃され、戦いづらいとのこと。あくまで魔物図鑑からの引用だがミシェルが顔色を変えるのだから事実に相違ないはず。


「レイクラブか……レブルスは双剣だし避けるに越したことはないか」

「なんだ……お前のことだからてっきり挑めとか言い出すのかと思ったぜ」

 少し安心する。斬撃が通りにくい敵と戦うなんて今の二人パーティでは自殺行為に近い。

「僕は君の力量を見て言ってるから。レイクラブは確かにここでは珍しいし硬いから強敵扱いされるけどメンバーさえ揃ってればそんなに問題はないさ。今回は君が双剣使いだから攻撃が通らないし、僕も基本使うとしても短剣だから……」

「避けて進むってことでいいんだな?」

「そうだね。挑戦は大事だけど勇敢と蛮勇は違うから」

 そう言いながら地図を見てルートを考えるミシェル。地図をなぞって最適解を導き出しているようだ。

「……レイクラブ以外の魔物の反応がない……食い散らかしたか……? ん?」

 顔を上げ、何かを聞き取るように目をつぶるミシェル。すると、忌々しげに舌打ちして左の通路の方へと歩みを進めた。

「どうかしたのか」

「今移動魔法陣で下から移動してきたやつがいる。数は6人。そいつらがもし魔法陣前で戦闘でもしだしたら――!!」

 ミシェルが半ば駆け足でダンジョンを進んでいく。途中、罠らしいものはなかったのが幸運で、スムーズに進んむことができたが――


 右の曲がり角の向こうから轟音が聞こえる。ミシェルは舌打ちして様子を伺うように通路の先を隠れて見る。俺も顔を出し過ぎないように通路奥の様子を見ると、6人パーティが巨大な蟹と戦闘していた。蟹はほぼ間違いなくレイクラブ。赤紫色の堅い殻は剣や矢を弾き、慌てふためくパーティを鋏でなぎ払っている。至近距離でもないのに生臭さが漂っており、つい鼻を覆う。

 しかも都合悪く、魔法陣へ向かうための通路を塞いでいる。

「あのメンツじゃ勝てるわけないだろっ。バカかあいつら……!」

 パーティメンバーは剣士が1人、ヒーラーが1人、シーフが1人、槍使いが1人とボウガン使いが1人、そしてなんとトドメは弓使い。

 後衛魔法もいなければ重量武器もいない。甲殻系には相性が悪いパーティだった。

「……っ」

「……助けに入るか?」

「…………ダメだ、そんなことしたらあいつら僕らに押し付けて逃げる」

 それは確かにありえる話だ。中には強敵と遭遇し、別のパーティにその相手を擦り付ける嫌がらせ行為をする冒険者だっている。もちろん、故意じゃない場合も存在するが、誰だって命は惜しい。が、このままだと俺たちが進めない。

 ほどよく逃げてレイクラブがここから離れてくれるのを待つべきだが……パーティは逃げない。

「……ああくそっ……」

 苛立たしげに舌打ちしてミシェルは接近戦用のナイフを握り締める。

 俺も双剣の柄を握るが通るかどうか怪しいあの殻を持つ相手に挑むのは無謀さよりも恐怖が勝ってしまう。


 自分たちの行動を決めかねていると、ボウガン使いが態勢を崩し、レイクラブに補足される。その瞬間、パーティのメンバーは何を思ったのだろうか。ボウガン使いを置いてこちらとは違う通路を使ってレイクラブからの逃走を計った。

 レイクラブはボウガン使いを鋏部分で捕らえ、持ち上げる。レイクラブの口が開かれ、捕まったボウガン使いは暴れるも敵いはしなかった。

 ボウガン使いの口が動き、悲しげな声で呟く。



「たす、け――」



 音が消え、俺は無意識のうちに駆ける。ボウガン使いを掴んでいた腕の関節部分、殻よりもまだ柔らかい部位を狙って斬りつけた。

 腕が切り落とされ、レイクラブの耳障りな絶叫が響く。

「逃げるなら早く行けっ!!」

 呆然と俺を見るボウガン使いの少年か少女かわからない幼い顔。俺の声ではっとしたのか、慌てて逃げていった。

 ま、援護なんて期待してないし、どのみちあいつでは攻撃が通らなかっただろう。

「あーくそ……俺もバカだ……」

 ダンジョンでのできごとは自己責任。良いも悪いも自分の責任になる。

 人助けなんてしても、返ってくるものはなにもない。それでも、俺は助けてしまった。自分がこれから死ぬかも知れないというのに。

「ああ、うん、バカだよ。でも僕もバカになってやろう」

 ミシェルは呆れつつもポーチから先ほどとは違うナイフを取り出す。雷の細工が施されているそのナイフはただのナイフには見えない。バチバチとミシェルの魔力に反応して電撃を纏うナイフ。雷がレイクラブの弱点だとしたら有効だろうが殻に阻まれることを考えると過度な期待はできない。

「仕方ないから僕も本気で戦ってあげるが、期待はするなよ?」

「ないよりマシだ」


 今、ここにバカ二人がまさに命の危機に晒されている。


 が、なぜか二人共どこか楽しげな表情を浮かべていた。



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