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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
3章:集うは問題児ばかりなり
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被害者は誰だ




「いきなりで悪いが、さっそくダンジョンというものを見てみたい」

 遅めの昼食というかもうおやつの時間にさしかかった頃、ヤラフィも含めて食事をしていると本当に唐突にヤラフィは言った。

「見てみたい、っていうと」

「私は王都に勤めていた頃、ダンジョンというものには挑んだことがない。正直、戦える自信はあっても未知の場所は気になる。まだ陽もあるうちに見てみたいんだが近場でいいところを教えてもらえないだろうか」

「一人で行く気かい? だめだよ、それなら僕らも行くし、どうせなら一度連携も確認しておこう」

 するとヤラフィは安心したように微笑む。

「そう言ってもらえると助かる。新入りが何を生意気な、と思われていないか心配していたところだ」

「そんなことありませんよー! 一緒に頑張りましょう!」

 イルゼがぴょこぴょこ跳ねている。食事中はおとなしくしろ。

 アルトナもそう思ったのか隣に座るイルゼを軽く叩く。しゅんとしたが反省したのかおとなしくしているようだ。

「ああ、ヤラフィはこの町周辺のダンジョンも知らないのか。せっかくだし、イルゼにいつか説明するつもりだったから今軽く説明しようか」

 そう言って、この町周辺の地図とまだ何も描かれていない紙を取り出し羽ペンの羽の部分でダンジョンの位置を示していく。


「まずはこの町内部にあるダンジョン」


・ハイオウガの洞窟

イーティングトゥリー(食人植物)の花畑


「内部にあるのはこの2つだけだね。ハイオウガはオークやゴブリン系が主に出てくる場所で初心者向け。イーティングトゥリーは食人植物が多く出てちょっと手ごわいかも。魔法使いがいるとまあ楽だけど……」

 ミシェルは説明しながらアルトナを見て、何事もなかったかのように視線を逸らした。

「で、町の周辺にあるダンジョンがこれ。現状5つだね。」


・キゼルドゥグクの洞

デミヒューマン(亜人)の宴会

モストロランダ(魔物荒野)の住処

ラセットスカル(赤い骸骨)の採掘場

・オルヴァーリオの湖底


 内部、周辺ともにどちらかといえば易しい、最奥だとしても中堅程度のギルドなら突破できる範囲の難易度だ。俺らはぺーぺーの新米なので奥地にはしばらく行かない。行ってたまるかこんな寄せ集め。ラセットスカルで事故るなんて論外にも程がある。


「キゼルはこの周辺では一番易しいダンジョンかな。魔物の気性も激しくないし。デミヒューマンは名前の通り亜人系ばかりの洞窟……といっても魔物寄りだからミノタウロスとかそっちね。ここはちょっと比較的難しいかも。僕らはまだ行かないほうがいいかな」

 ヤラフィは感心したように聞きながら頷いている。真剣そうなのでミシェルもとりあえず先へと進む。

「モストロランダは……ここは獣系が多いね。数にさえ気をつければ問題はない場所だし、毛皮が結構いい値で売れるから稼ぎ場所としては悪く無い。ラセットスカルは鉱石もまれに採掘できるし一発当てたいならここ。ただ、骨系の魔物ばかりだから斬撃だと――」

「問題ない。私は殴打技も得意としている。そこはまた実戦で見てもらったほうが早い」

「そっか。まあそれはおいおいね。最後はオルヴァーリオ。ここはサファギンのような魚系や甲殻類の魔物が出るかな。雷属性の魔法が使えると楽な場所で難易度はそこそこ。まあ、各地にあるダンジョンと比較してもここらへんは易しい場所ばっかだからね。ダンジョン初心者も集まりやすい町なんだよ。大きい町だし、ダンジョンが多いから物流も悪く無い。拠点にするにはかなりいい場所だよ」

「なるほど。だいたいわかった。初心者の私でも気軽に挑めるのは喜ばしいことだ。王都と比べるとどうしても田舎かと思ってしまったが不便なこともなさそうだ」

 素直に田舎という第一印象を抱いたヤラフィは間違ってはいない。この町はダンジョンによって盛り上がった町の一つでもある。数は多く、初心者向け。そんな場所だから成長した冒険者が離れてもまた新たな冒険者が訪れる。

 ダンジョンが続く限りはこの町は賑やかだろう。

「今聞いた限り……近くて難しくないのはハイオウガの洞窟だろうか。そこに行ってみてもいいか?」

「おっけー。そういえばイルゼにもまだ案内してなかったしね」

 まだ夕方ではないため、一層で軽く一戦交える位なら大した時間にはならないだろう。

 食事を終えて俺たちはダンジョン用の装備を揃え、ハイオウガの洞窟へと向かう。


 どうでもいいが、気絶していたストーカー男は誰かに引きずられていったらしいがその後のことはわからず、二度とここに関わらないで欲しいと願うばかりだった。






 町の内部にあるダンジョンはその近くになると柵によって子供などが入り込まないようにされている。警吏の人間も、誤って子供が入ったりしないように一人常駐していた。

「あれ、レブルス君。こんな時間から探索かい?」

 今日の警吏担当は知り合いのイライアスさんだったらしく、近くまで来るとニコニコと手を振ってくれた。

 巨躯ではあるが人当たりのいい笑顔を浮かべている彼は女性陣を見て微笑んだ。

「仲間?」

「まあ、そーですね」

「よかったねー、レブルス君。まあここはそんなに難しい場所じゃないけど、万が一の怪我には気をつけて」

 イルゼとアルトナもここにきてしばらくたつが初対面だったのか頭を下げて挨拶をしている。和やかな挨拶を交わしている。そして、イライアスさんがヤラフィを見た。

 その瞬間、紛れも無くぴりっとした緊張感が漂う。

 しかし一瞬のことだったためイルゼは特に気づいていない。ミシェルとアルトナは怪訝そうに顔を見合わせている。

「……失礼だが、どこかで会ったことはないか?」

 ヤラフィが口を開き、イライアスさんはまたにっこりと笑顔を作った。

「僕に覚えはないですね。人違いかと」

 自分にはフランクな感じなので忘れていたが事務的な口調でイライアスさんは答える。

「……そう、だな。失礼した」

 ヤラフィはどこか寂しそうに微笑むとダンジョンの入口を覗き込む。

「このまま入っていいのか? しきたりなどわからないから教えてくれないだろうか」

「あーはいはい。とりあえず武器とか出しといて。入ってすぐにいるかもしれないし」

 少し離れたところからイライアスさんはその様子を見守っているように見える。俺たち、というよりヤラフィを見ている気がするが気のせいだろうか。

 ちなみに今彼女の服装はどちらかといえば軽装寄りで革鎧などを身に着けてる。てっきり甲冑とかかと思いきや私物では持っていないとのこと。

 ヤラフィは買ったばかりのポーチから長剣と盾を取り出す。長剣はシンプルなもので特筆するべき点はない。一方盾の方は逆三角形で装飾も殆ど無い定番のものなのだが……なんだか血の汚れが酷い。正直かなり目立つ。

「……この汚れどうしたんだい?」

 ミシェルも思わず気になったのか眉をひそめる。するとヤラフィはどこか照れくさそうに答えた。

「私は整備が下手というかその、どうしても疎かになってしまって返り血がそのままこびりついてしまってな……」

「だめだよそれ……にしてもこの盾は買い換えたほうがよさそう。レブルス今度案内してあげて」

「あー、イグニドさんの店か。まあ、今日は大丈夫だろそれで」

 血の汚れはひどくとも盾そのものは使えないことはない。まあ、見栄えは悪いがここは簡単な実力確認だしいいだろう。

「じゃあ、入ろうか。僕とレブルスはできるだけ戦うつもりはないから三人でやってみて」

 実際、俺達が参加してしまったらあっという間に終わるだろう。ミシェルに関しては下手に手を出すと戦力かは置いといて厄介な存在だし。

 ミシェルは探索をメインともしているが本来戦闘においてはサポートや撹乱を得意としている。このメンバーではまだ活かしきれないとのことだが、まあ言いたいことは分かる。

 全員自由すぎるから作戦も何もないんだよなぁ……。

「私も魔法使っていいの?」

 アルトナが杖をくるりとまわしながら尋ねる。確かに、アルトナの魔法は初心者よりも少し上ではあるが中堅とも言いづらい。しかしこのダンジョンの敵はそれほど強敵にもならないだろう。

「アルトナは……そうだな、とりあえず、ヤラフィが危険じゃないかぎりは使わなくてもいい。状況に応じてまた指示出すよ」

「りょーかい」

 中へ入ると薄暗い洞窟。相変わらず光源がどこにあるのかわからないそこは魔物の住処。

 罠の危険性や奇襲はいつだって潜んでいる。ミシェルは警戒しながらも、魔物の気配をたどる。

「右の通路を抜けた先にひらけた場所がある。そこで待ち伏せしよう。三体の……多分これはオーク、かな? とりあえずそれと戦ってもらうね」

 ヤラフィは頷き、イルゼもぶんぶんと頭振る。俺は殿を務めながら移動し、別の通路からのこのこやってくるであろうオークを待ち伏せする。

 息を潜めてしばらく待っていると、それらは現れた。

 土色の肌に武装はしているがとても上等とはいえない装備。鎧はつぎはぎだらけで兜もかぶっているものとかぶっていない個体が存在している。得物はそれぞれ長剣、槍、斧。計三体のオークだ。特別代わり映えのない通常個体ばかりで急襲がない限りは安定して仕留められる。

 こちらにまだ気づいていない様子のオークたちは魔物の言語なのかなにか会話をしているようで地を這うような低い声でぼそぼそとやり取りしている。

 事前の打ち合わせ通り、俺はあまり前に出ないということになっている。ヤラフィの実力を見るためというのもあるが、俺にとって通常個体のオークは文字通り敵にすらならない。

「はっ――!」

 ヤラフィの初撃が長剣のオークへと向かう。しかし、ギリギリのところで受け止められ、ヤラフィは舌打ちする。

 このまま膠着状態では別オークに討たれるだろう。ヤラフィはオークを蹴って距離をとった。

 騎士、というわりにあまり上品な動きではない。どちらかと言えば型破りな剣技。ヤラフィの様子を見てイルゼはまだ動かずにいる。これで前に出たらぶん殴ってるところだ。

 盾持ち前衛はいかに敵をひきつけ、味方を守るか。それが重要だ。俺のような前衛は味方を守ることまで想定していない。

 オーク三体はヤラフィだけに狙いを定めている。何かあってもすぐに俺らも割り込めるがヤラフィを見るにそれほど心配はしていない。焦りなどはその横顔から見えず、冷静そのものだ。

 槍の攻撃を盾で素早く防ぎきり、隙を突いては攻撃するが数で分が悪い。これはアルトナにも出てもらうしかないだろう。

 そう考えた瞬間、拳ほどの石がヤラフィの頭に直撃する。頭を守る装備がないのを見てオークは得意気にしていた。

 ヤラフィの体がぐらりと傾く。イルゼが支えようと近づいた瞬間、ヤラフィは自ら踏ん張って剣を投げ捨てた。

「や、ヤラフィさん血が……!」

 額から血が流れているのがわかる。そんなに大量ではないが、放っておくのはよくない。

 イルゼが治療しようとしてもヤラフィは無表情のまま盾だけを持ってオークに近寄る。

 いや、もう次の瞬間には近寄るというよりも目にも留まらぬ速さで石を投げたオークを盾で殴りつけた。殴った衝撃でオークはその場に倒れこみ、地面はヒビが入っている。とんでもない馬鹿力だ。

「この薄汚れたクソ野郎が! てめぇなんぞ! 素材にもならねぇゴミの分際で! 人間様に逆らってんじゃねぇ! 死ね!」

そこまでしなくても、と思わず声に出しそうになるほど苛烈なオークへの攻撃。片手でオークの頭を掴んだかと思えば壁に何度も打ち付けそのたびに壁にもヒビの入るという執拗なまでの悪意。

 別のオークは怯えたのか後ずさりしながらヤラフィを見て逃げようとする。

「あ? 逃げるなよ」

 もう息絶え絶えでまともに動けないはずのオークを素手で引きちぎり投げ捨て逃げた二匹のオークを追う。投げ捨てられて生臭い血がミシェルの頭に降りかかり、なんとも言えない顔で立ち尽くしているミシェルに恐る恐る声をかけた。

「……お前、人を見る目ないんじゃないか?」

 まともな騎士かと思ったらバーサーカーだったんだが。


「あはははっ! そうら泣き喚くな! 見苦しいんだよ! 黙って首だけ差し出せばいいのだ!」


 少し離れたところからぶち、ぎち、とあまり聞きたくない肉の裂ける音がする。

 怖いもの見たさでその様子を覗き込んでみるとなんということでしょう。盾で嬲り殺してる。

 見るも無残なオークは息はしているがもう動けないだろう。二匹ともなんだか可哀想になってきた。

 一匹は血と涙と鼻水でもうぐちゃぐちゃだ。これ、魔物だからまだ冷静に……いやだいぶオークに同情してきたから冷静じゃない。まあ、人間相手にやっていたらドン引きだった。

 まずは一匹、腸を引きずり出してからオークの口に突っ込ませ、窒息死。

 もう一匹は盾の角で何度も首を殴打し、やがて絶命したのを確認してからヤラフィは立ち上がる。


「ふぅ、すっきりしたな!」




 こいつやばい。





この辺のダンジョンは全て地形固定のダンジョンです。難易度高いところは入るたびに地形が変化する場所とかです。地形変わらなくても難易度が鬼のような場所も存在します。

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