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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
3章:集うは問題児ばかりなり
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混沌ブランチ



 朝起きたら地獄絵図が広がっていた。

「アルトナちゃん! お皿! お皿!」

「イルゼ、もう焦げてるから」

「えと、あっ、スープ!」

「煮込み過ぎて吹きこぼれてる」

「きゃー!?」

 厨房と食卓の間を行ったり来たりしてるイルゼとそれを眺めつつ新聞を読んでいるおっさんくさいアルトナ。ミシェルの姿はない。

 きょろきょろ冴えない頭でミシェルを探しているとアルトナがこちらに気づいて声をかけてくる。

「よおレブ君。相変わらず低血圧?」

「……ミシェルは」

「ミシェ君なら朝早くから出かけたよ。そのおかげで朝食がないからイルゼが3時間かけて作ろうとして今まさに失敗してる」

 じろりとイルゼの方を睨むと半泣きのイルゼが黒焦げの何かを見せてくる。

「ごめんなさぁい……」

「とりあえず厨房の片付けは俺がやる。どいて」

「ふぇぇん……」

 見事にぐちゃぐちゃな厨房。これを片付けてから何か作るにしても材料が結構消費されている。大したものは作れそうになかった。

 窓の外から時計塔を確認すると昼の11時になったばかり。……朝8時からこんなことずっとやっていたのに自分は起きなかったのか。

「疲れてんのかな……」

「レブ君って眠りが深いよね。一度寝たら中々起きない」

「そーでもないぞ」

 自宅だからそうなるだけで自宅以外だとあまり寝付けないし物音に敏感だったりする。ここ最近外で眠ることはほとんどないが。

「あと低血圧なのか朝の機嫌が異様に悪い」

「頭回ってないだけだよ」

 焦げた何かを捨てて残っていたパンを三枚出してジャムを塗る。林檎のジャムだ。

「……これだけ?」

 アルトナの冷たい視線が突き刺さる。なにもしないくせに文句だけは一人前だな。

「いらないなら食うな」

「いらないか言ってないし。ていうかもうちょっとなんとかできないのかと思って。レブ君家主なのにミシェ君に全部家事任せてるよね」

「うっせぇ!!」

 ラセットスカルの採掘場から戻ってから5日ほど経過した。その5日というものの、ダンジョンに行ったのは2度だけだ。そしてどちらもほとんど稼げていない。というのもアルトナはともかくイルゼがとにかく戦線をかき乱す。つい魔物を殴り殺すせいで魔物の注意がイルゼに向いてしまい更にミシェルがそれに巻き込まれアルトナも魔法で対応するも結局巻き込まれるという散々な結果になった。

 そのため、少し戦闘の理解を深めようとミシェルによる講義が家で行われ、とにかくイルゼができるだけ戦わないようにするための方法を考えた。

 が、このパーティは前衛の俺、後衛のアルトナ、補助や回復のイルゼ、中衛兼指示等のミシェル。とにかくこの中で一番弱いのは自称だがミシェルだ。なのでミシェルを前線に出すのは厳しい。

 そんなこんなでとにかくダンジョン冒険者にも関わらずまともな探索をしていなかった。

 その間の家事についてだが、最初は皆当番制にしようとミシェルからの提案があった。俺も特に不満はなかったので受け入れたが、早速これも問題が発生する。

 まずイルゼ。やる気はあるのだがどうにもままならない。掃除すればなぜか汚れが増える。料理を作らせれば食材が黒い燃えカスになる。洗濯をさせたら服が伸びた。見かねたミシェルが「もういいよ。いいから座って。いいから」と半ば引きつった顔で全部代わりにやってしまったり。

 更にアルトナに至っては家事そのものにやる気が無いのかすぐ忘れて結局ミシェルが代わりにやった。

 そして俺は家事というか料理がミシェルから言わせると「ふざけてるのか君は」というものらしく結局家事のほとんどはミシェルがやっているという現状だ。

 はっきり言ってぐだぐだの極み。

 手抜き朝食、というよりもはや昼食に近いのでブランチともいうべき食事を三人で静かに取る。アルトナは新聞をパラパラめくりながらジャムパンを小さく食べ進めていく。

「食事中くらい新聞はやめろよ。親父臭い」

「んー、今ちょっと気になるところあるから待って」

「ったく……そもそも新聞どこから取ってきたんだよ」

 うちは新聞を取っていないためどこかに買いに行く必要がある。新聞とは安価な紙が大量生産されるようになってから情報発信用の伝達手段として重宝されている。やれどこのダンジョンが穴場だとかどこの町が人手不足だとか社会情勢や広告のように冒険者を募集している欄もある。

「イルゼが準備中暇だから協会行って買ってきた。戻ったら終わってるかな―って思ったらご覧の有様ってわけ」

「目を離すな」

 アルトナはまだもそもそ食べ続けているが新聞はもう置いて水と一緒にパンを流し込み始める。俺はもう食べ終わったので新聞を拝借し目についたところを軽く流し読みしてみる。

「“ハイエナヴェリテ”が王都に出現……美術館にある秘宝をいくつか盗み逃走中……」

「ハイエナヴェリテってガチな盗みもするんだねー。あいつてっきりダンジョン専門かと思ってた」

 ハイエナヴェリテとは小賢しい盗賊でダンジョンで他人の得物を横取りし被害者も多数。更には今回のようにどこからかものを盗むため多くの罪状を持つ大泥棒だ。横取りする様からついたあだ名がハイエナ。本来はダンジョンでの横取りならダンジョンの無法により罪には問われないが美術館から盗んだようにダンジョン外での行動は当然罪になる。

「この近辺じゃ出ないみたいだけどまあ横取りには注意しないとな」

「よーするに、この辺はハイエナが来るようなダンジョンもないってことでしょ」

 新聞を読み進めると【噂の冒険者】という項目にある大きく取り上げられた人物が目に留まる。

「炎使いのプロクス? 炎使いってだけでなんでこんな――」

「レブ君、足りないからなにか買ってきてー」

 食べ終えたアルトナがバタバタと足を揺らして主張してくる。寝起きにガタガタとうるさいせいで苛立ちが増す。

「自分で買いに行け」

「新聞買いに行って気力なくなった。レブ君元気でしょ」

「なんでお前のために俺が」

「私も食べたいです!」

『諸悪の根源!』

 アルトナと声がハモった。怒鳴られたイルゼはしゅんと肩を縮こませる。

 ぐだぐだ言っても仕方ないし自分も多少物足りなさはあるので買い出しついでに協会に行こう。

「しゃーねぇからちょっと出てくる。余計なことはすんなよ」

「はーい」

「あんまり油っこいものはやめてねー」

 アルトナてめぇ。





 そんなわけで先に協会にやってきた。人はいるもののこれといって声をかけてくる人間もいなければ呼び止める相手もいない。

 ……俺って、ミシェルがいなかったら孤独な男だったんだなぁ。

 改めてそう思う。ミシェルと出会わなければアルトナのパシリにもならなかったしイルゼのドジに苦労したりも――

 ……今のところ悪い影響しかない。

 まあ日々なんだかんだで充実しているとは思うのであえて触れないでおこう。

 受付を確認するとサリーナが冒険者の対応をしている。しばらくそれを眺めて終わるのを待つ。どうやら素材の換金らしい。

 暇だな、とぼんやりしているとなんとなくだが視線を感じて振り返る。こちらを見ている人間はいない。数人人はいるものの声をかけてくるわけでもない。

 気のせいか、と納得しているとサリーナが空いたので早速声をかける。

「よお」

「あら、生きていたのね。残念だわ」

「お前本当に上に苦情入れてやろうか」

 開口一番にこれだ。さすがに怒ってもいいと思う。

「だって私だって暇じゃないのにいちいち私にしか声掛けないんだもの。面倒だわ」

「悪いかよ。お前が一番慣れてるんだよ」

「そうね、幼馴染だものね」

「お前幼馴染って歳でも――」

 シュッと空を切る音。壁に短刀が突き刺さる鈍い音も聞こえた。

「……そうだな、俺達は幼馴染だな」

「そうよ、素直にそういえばいいのに」

 幼馴染、というより俺とサリーナの関係はまたちょっと複雑なものだ。

 8歳差ほどあるのにも関わらず接点が多いのは元々こいつの実家が近かったというのもある。だが、大きな理由はそれではない。

 子供の頃、俺がまだ6歳くらいの時、14歳のサリーナは暴君と呼ぶに相応しい女で、公園で遊ぶ俺と年の近い男子たちを「特訓の邪魔よ」と一蹴しボコボコにされた。俺達も女にやられてばかりじゃと躍起になり反撃を試みたが毎度撃沈。ついには親の一人がサリーナの親に苦情を入れ公園で共存はできたものの度々サリーナは「不甲斐ないから鍛えてあげるわ、ガキども」と言い放って結局ボコボコにされた。ちなみにこれがだいたい6年くらい続いた。

 なので幼馴染とは死んでも認めたくはない。のだが一応はまあその部類でも間違ってはいないのかもしれない。

「それで? 用件があるなら早めに言ってよ」

「あのさ、ぶっちゃけ今ソロでギルド希望のやついないか?」

 元々ミシェルと相談してメンバーを増やすということは考えていた。前線が足りない。できれば屈強な前に立てる人間がいいが最悪後衛での補助でもいい。とにかくもう少し増やしたい。ギルドの規定人数にも満たない現状、パーティとして名を挙げて希望者を選別するという当初の目的は忘れて頭数を揃えるべきだと判断したのだ。

 サリーナは眉をひそめたかと思うと長い長い溜息を吐いて不機嫌そうに言う。

「……一人希望者はいるわ。しかもドンピシャ、あなたのところよ」

「……は? うちの希望」

「前にパーティメンバー求人だしたでしょ。あれで希望者出たのよ。一応あなたたちの返事待ちってことにしたけどどうする?」

「ちなみにポジションは」

「後衛中衛、得物はボウガンから槍に鎌。結構前衛張る以外ならだいたいできるみたいよ。ただまあ、ちょっと――」

 言い淀んだサリーナは何かに気づいたのか口をつぐみ再びため息を吐く。

「どうした?」

「いえ、なんでもないわ。とにかく、希望者いるから予定合う日でも面接してあげて。あなた一人でね」

「え、ミシェル――」

「あなた一人で、ね」

 なぜか俺一人と強調してくる。よくわからないがまあ断る理由もない。

「明日にでもこっちとしてはいいんだが」

「明日? 今日にしておいてよ……」

「だって向こうも準備必要だろ。それに今、ミシェルがどっか行ってるから確認も取れないしな」

「……はあ……じゃあ明日の13時。私が取り次ぐから私のところに来なさい」

 サリーナがな何か書類に書き込みながら「ったくめんどくさいやつばっかね……」とぼやく。俺、なんでこいつにこんな嫌われてるんだろう。俺もなんでこいつが嫌いじゃないのか疑問だけど。された仕打ちを考えれば嫌っててもおかしくないのに。

「そういえば男か? 女か? 希望した通り男だったらいいんだけど」

 できれば男がいいのだが最悪女でも仕方ない。決して変な意味ではなく、女ばかりでも困るし。

 するとサリーナは複雑そうに視線を泳がせ、舌打ちしたかと思うと唐突に自分の髪をいじりだす。

「……明日会って確認しなさい」

「は、なんで?」

「さあ、早くどきなさい。別の人が待ってるんだから」

 しっしっと手で追い払うジェスチャーをされて渋々受付から離れる。サリーナは次の冒険者にも淡々とした様子で対応していた。よくあいつ首にならないな。

 そういえばあの後武器を結局そのまま買わないでいたけどやっぱり軽すぎるしイグニドさんのところ行ってこよう。

 出口に向かおうとすると再び視線を感じる。振り向くがやはりこちらを見る人間はいない。

「……疲れてんのかな」

 帰ったら二度寝も検討しよう。



実はミシェルの次に美人設定なサリーナ。……あれ、女性で現状一番美人ってことに?活動報告にて修正のことなど

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