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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
ラセットスカルの採掘場
18/29

3階層



 29層までギリギリ戦闘はなく、次の階層へと移動する魔法陣の前に4人はいた。

「ボスは“鮮血のしゃれこうべ(ブラッディスカルマン)”。まあ普通に骨系だからアルトナの炎とイルゼのメイスが有効だね」

 反面、俺の斬撃は通りづらい。それだけがネックだがミシェルには策があるのか。

「基本的にはアルトナに魔力を切らさないように魔法を撃ってもらってイルゼに大きく破壊ダメージを与えてもらう感じかな。レブルス、君は陽動……まあ基本的に的になってもらう」

「俺も攻撃するってことでいいのか?」

「イルゼのほうが狙われたら危険だからね。得意の連撃で憎まれてくれ」

「お前は何をするんだ?」

「炎の短剣……はあるが僕じゃ対して威力は出せないからなぁ。魔力も使うの不安だし。1回補助ができるって程度。あとは……一応奥の手はあるけど使うのに時間がかかる」

 ミシェルは俺達より多くのものを持っている。その中に逆転の道具もあるんだろうが様子からしてあまり使いたくなさそうだ。

「生きるか死ぬかなんだぞ? 使い渋るなよ」

「……いや、使ったら最後、僕は問答無用で魔力が切れる。仕留め切れなければ危険なんだ」

「じゃあ使うとしてもある程度削ってからってことか」

 ミシェルが魔力欠乏症に陥ったらただでさえ貧弱なのに危険過ぎる。アルトナとイルゼが代わりに使うのはデメリットが大きいというより事前の削り役が発動に時間を取られていては危うい。俺が使うってのも多分よくないだろう。ミシェルは素早いが攻撃がゴミクズだ。ヘイトもなにもあったものじゃない。

「まったく……こんなことになるんだったらもっと使い捨て道具も含めて持ってくるんだった」

 そうぼやいてこれから使うであろう道具類を取り出し、数本の瓶をアルトナに手渡した。

「アルトナは絶対に魔力切らすなよ。頼むから」

「これだけ上等なものがあれば切れないよ。まあ、長期戦になったらわからないけどね……」

 鮮血のしゃれこうべはあまり攻撃的ではない分かなり粘り強いらしい。それでもそこまで強くはないとのことだが、比較対象が主に難易度の高いボスとの比較なのでアテにしてはいけない。


「さて、逝きますか」

「縁起でもない」

「まさか参入してすぐのデビュー戦がこんなことになるなんて……」

「お役に立てるよう頑張ります!」


 魔法陣から移動した先にはボロボロの剣や衣服が散らばっている。

 かつて、ここで果てた者達の持ち物だったんだろう。

 閉鎖的な空間であるはずなのにゴオッと風が吹き、ゾクゾクと背筋に気味の悪い悪寒が走った。

「来るぞ……」

 ミシェルは赤い刀身の短剣出して身構える。前衛を任されたイルゼも真っ直ぐ前を見据えていた。

 ゆらりとまるで蜃気楼のように空間が揺らいでそこからパキ、パキと不気味な音と共にそれは現れた。


 鮮血のしゃれこうべ。およそ4メートルほどだろうか。一本一本の骨が太く、骨にへばりついた肉塊と薄汚れた血はとうに固まったのか動いても揺れたり垂れ落ちたりはしない。

 ぽっかりとあいた眼窩が見えるはずもないのにこちらを凝視してくる。スカル系の魔物はなぜ目がないのに見えているのか本当に謎だ。

 まず俺がしゃれこうべへと攻撃する。狙うとすれば関節部分。それをどうにか外して攻撃手段を少しずつ奪う事ができれば楽な戦いができるはずだ。

 振りかざされた右腕の攻撃をかわして、肘にあたる関節に刃をかけてみるが外れる様子はない。そもそも骨が異様に硬い。俺では折ることはできない。

「えーい!!」

 イルゼの打撃がやつの左腕に命中する。ピシッとヒビの入る音がしたので恐らくイルゼが攻撃を続ければ砕くことはできそうだ。

 しゃれこうべの狙いが俺からイルゼに移りそうになると、剣を使うより蹴ったほうがある程度気が引けるので頭蓋骨を思い切り蹴ってやるとじろりと空の相貌がこちらを睨む。

「――焼き殺せ、ファイヤーランス!」

 アルトナの魔法で火の槍がしゃれこうべへと突き刺さりまるで絶叫するかのように骨がカタカタと音を立てる。

 今のでも結構消費したのか、アルトナはマジックポーションを急いで飲んで口元を拭っている。頼むから無理はしないでくれと願いつつ、アルトナへと狙いがいかないようにしゃれこうべを攻撃する。

 イルゼの何度目かの攻撃で左腕の先が完全に砕け、先のない左腕が乱暴に振るわれる。

 イルゼは慌てて後ろに下がるが、でたらめな動きをする腕をよけきれず、弾き飛ばされた。

「イルゼ!」

 アルトナがイルゼを呼ぶがすぐに動けないのか立ち上がろうとして膝をつく。

 それを見逃さなかったしゃれこうべは無事な右腕をイルゼに振り下ろそうとし――


「『フレイムソーン』!!」


「縛れ! ファイヤーロープ!!」


 ミシェルが風のように駆け、しゃれこうべの右眼窩へ炎の魔法をまとった短剣を突き刺した。

 それとほぼ同時にしゃれこうべを縛るように炎の縄が全身を駆け巡っていく。身を焦がす二つの炎に悶え苦しむしゃれこうべはイルゼへ攻撃できずに空振った手を自らの体にまとわりついた炎を引き剥がすために動かす。突き刺さった短剣をミシェルは手放し、地面に落ちるが炎自体はしゃれこうべを焼こうとしている。

「ミシェ君! そろそろ切り札!」

「わかっているさ! レブルス、合図したらそいつから離れろよ!」

 イルゼは自分を治したのか立ち直っており、動けないしゃれこうべへと攻撃を続ける。俺もダメ押しで攻撃はしているものの手応えはない。


「全員離れろ!」


 ミシェルの全力の叫びを合図に一斉にしゃれこうべから距離を取りミシェルの手にあった銀色のベルが清廉な音を響かせたかと思うと白い光をしゃれこうべへと発射した。

 圧倒的な威力にしゃれこうべは浄化されるように声にならない絶叫をする。

「やっ――」

 アルトナが勝利を確信したその瞬間、しゃれこうべは最後の力を振り絞るように右腕を掴み、握りつぶそうと力を込める。

「アルトナちゃん!」

 イルゼが駆け寄ろうとするも、先のない左腕で妨害されアルトナのもとへと辿りつけない。

 俺は地面に落ちたミシェルの短剣を拾い、恐らく発動するキーである言葉を魔力とともに叫んだ。

「『フレイムソーン』!!」

 アルトナをつかむ右腕は再び焼かれ、骨は力尽きたかのように大部分が灰になり、消えていった。

 解放されたアルトナはゲホゲホと咳き込んでいるものの大きな外傷はない。

「倒せた、か?」

「……多分」

 半信半疑で周囲を警戒するが鮮血のしゃれこうべも動く気配はない。もはや灰になったその身は残った骨を素材として回収するのみだ。

「アルトナちゃん無事ですか!?」

「ああ、うん……ていうかミシェ君は……」

 ミシェルの方を振り向くと膝を抱えてミシェルは震えながら俯いていた。どう見ても魔力切れだ。

「……ミシェル、終わったけど大丈夫か?」

「死にたくない……死にたくない……」

 恐怖症だ。ある意味慎重なミシェルらしい症状だけどいつも不遜な態度のミシェルを見ているのでこれは新鮮である。

「とりあえずマジックポーション飲めって」

「怖い……」

「よしよし」

 イルゼが子供をあやすようにミシェルの頭を撫でる。自分が原因だからかイルゼは罪悪感があるのだろう。申し訳無さそうにしていた。

「とりあえずミシェ君が戻るまで待機しようか。ここだと魔物は出ないし」

 最奥ボスを倒したあとにボスの部屋に魔物は出現しない。出るとしても次に誰かが来た時だけだ。

 マジックポーションをなんとか飲ませて元に戻ったミシェルは不機嫌そうにそっぽを向いている。

「見たんだろ」

「いや、気にすることないと思うぞ」

 どうやら魔力欠乏症状態を見られたのが恥ずかしいらしい。

「だから嫌だったんだ! くっそ! 生きてるから今回はいいけど次はあんな無茶絶対にしないからな!」

 普段かぶらないフードを被って顔を隠すミシェルは微笑ましいというかちょっとからかい甲斐がある。アルトナも口にはしないが表情が微笑ましい物を見る目だ。

「とりあえずせっかくだし回収できる素材回収して――」

「あ、ミシェ君。そういえばここって」

「……ああ、そういえばあるね。すっかり頭から抜けてたよ。とりあえず素材回収するから待って」

 ホコリを払ってせっせと素材を回収したかと思うと部屋の右側に駆け寄り壁を伝うように触れる。

「あー確かこの辺……」

 言いかけてすぐに蹴りを入れるとガコッと何か動いたような音がし、壁から宝箱が出現した。

「うわ、隠し宝箱か」

 こうして宝箱を見るのは実に久しぶりというか、質素な鈍色の宝箱をミシェルは小道具を使いながら器用に解錠していく。

 宝箱というものはミミックの卵である説やミミックになる前の幼体であるとか様々な説が研究者の間で挙げられている。宝箱の解錠者が解錠に成功し、開けた瞬間に中身が確定する。宝物のランクもこの時に決まる。つまり、ミシェルの女神の施しはまさに今この瞬間発揮される。

 かちゃりと素人にもわかるほどわかりやすい音が響き、思わず宝箱を覗き込もうとし、近づきすぎたのかミシェルの肘打ちを食らった。

「いってぇ!」

「邪魔。いいって言うまで近寄るなよ」

 呆れたように息を吐きながら開ける前に更に後ろの方にもなにやら針金をねじこんだりしてかなり時間をかけて開けている。

「ったく……これだから素人は……簡単に開く宝箱なんて三流以下だよ」

 ようやく重々しい宝箱を開けると中身がない、というより暗闇のようなものが内部に広がっている。ミシェルは先ほどとは打って変わって迷いなくそこに手を突っ込むと取り出した手には白く輝く光が握られていた。

「チッ、ランク5ってところか」

 5で舌打ちしたぞこいつ。1~10のランクでレア級に相当するランク5で不満だというのか。ミシェルの能力を持ってしてもランク5止まりということは元々のランクが高くなかったのだろうか。

 ちなみにランク1でも2でもコモン扱いだが宝箱から出たものは値打ちものなのでレアでなくとも価値がある。のでミシェルの感覚がおかしい。

 光は徐々に形を作り、やがてミシェルの手の中で銀色のブレスレットへと変わった。銀色の鎖のような形状で小さめの赤い宝石が一つはめられている。

「えっと、ルビーブレスレット……うん、ふっつー」

「……ちなみに聞くけどそれ売ったらどれくらいの値がつく?」

「うん? まあせいぜい20万ニルかな」

 20万をせいぜいって言いやがったぞこいつ。やっぱり価値観がズレてる。

「20万の金で打ち上げしよーよ」

 アルトナが呑気にブレスレットを見て俺に言う。いや、俺に言われてもな。

「打ち上げか。悪くないね」

「生きて帰れたことですしお祝いしましょう!」

 ミシェルとイルゼも同意し、俺も否定する要素が特にないので頷いておく。


 全員生きている。


 その当たり前だけど尊い事実を噛み締め、俺達は帰還陣からダンジョンを脱出した。




相変わらずマイペース更新

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