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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
2章:ギルドメンバーを集めよう
16/29

1階層



 洞窟内は薄暗く、広い場所には灯りがあるものの、通路や狭い空間では灯りがないと周囲が見えづらい。

 ミシェルがあらかじめ用意していたカンテラを灯して少しばかり通路の先が見える。

「とりあえず、魔法陣場所は地図でわかってるし、そこへ向かって進もうか」

「はい!」

 ミシェルが地図を確認しつつ、気配を探っている。

「ここ、スカルモンスター多いから気配が遠くだと探知しづらいんだよなぁ……」

 愚痴、もしくは言い訳のようなものをこぼしながら道を示す。

「とりあえずこっちだね。あんまり通路で戦闘になるのはよくないからできるだけひらけた場所を進もう」

 地図で道を示しつつカンテラで先を照らすミシェルはどことなく上機嫌だ。イルゼはまだ緊張しているのか周囲をきょろきょろと見てはちょっとした音に反応している。対してアルトナは……どこか気の抜けたようなあくびをしている。

 ゆっくりと進んでいく先に光る何かを発見し、ミシェルはそれに躊躇うことなく進んでカンテラでよく確認する。それはそれ自体が発光する鉱石のようなものだった。明るくなるほどの光ではなく、ほんの小さな灯火程度だが。

「お、カライト鉱石だね。これ結構レアだから売れるよ」

 そう言ってマジックポーチから採掘道具を取り出してカライト鉱石とやらを回収。ミシェルは俺よりもこの手の素材に詳しい。

 というよりミシェルの『女神の施し』は実は幸運値に影響しないもののこういったレア物との遭遇確率もあげるらしいとわかった。だからミシェルがいるだけでレア物が手に入りやすい。真価としては宝箱の中身なんだろうがこの辺のダンジョンでは宝箱に巡り会える確率も低い。

「ミシェ君手馴れてるね―」

「あいつは下手したら俺よりベテランだしな」

 アルトナが感心したようにぼやいた言葉に相槌をすると、アルトナはじっとこっちを見て鼻で笑う。

「私もそこそこ長さだけはあるから、私のほうが先輩かもよ」

「そうか」

 割とどうでもいい。

 そのまま通路を抜けて明かりが灯る広い場所に出る。魔法陣まであと少し、といったところでミシェルが手をかざして行く手を遮った。

「全員戦闘準備」

 静かにそれだけ言って、ミシェルも短剣を握る。アルトナも目を細めて杖を握り直し、俺も双剣を抜いた。改めて持ってみると軽い。イルゼは一人だけよくわかっていないようでメイスをぎゅっと掴んで首を傾げている。


 ――その瞬間は訪れた。


 スケルトンの群れが紫色の光と共に目の前に出現し、ぎろりと目のない眼窩をこちらに向けた。

「ど、どこから!?」

「これがダンジョンだよ、慣れな」

 アルトナが僅かに赤く光りながらイルゼに言う。

 ダンジョンによってまちまちだが、魔物は突然その場に現れたり、魔法陣のようなもので出現したり、生まれてきたりと様々だ。ここはなんらかの力で出現したというパターンだろう。本来はそれを事前に察知することなどできないが、ミシェルの驚くべきまでの察知能力の高さでなんとなくわかったというところだろう。あのまま進んでいれば群れのど真ん中で戦闘になるところだった。

 群れの数はざっと12、3体だろうか。スケルトンソルジャー、スケルトンアーチャー……その他もろもろ武装したスケルトン。どうやらボス格のものはいないようだが数は一種の暴力だ。

「レブルス、遊撃。アルトナちゃん、後方型のスケルトンの掃討。イルゼちゃんはレブルスの支援に魔法よろしく」

「了解」

「らじゃー」

「が、がんばります!」

「そして僕は後方支援組の護衛、で大丈夫かな、レブルス」

「ああ、やばそうならこっち入れ」

「そうならないことを願うよ!」

 まっすぐとこちらに向かってくるスケルトンの剣を受け止め横になぎ払う。そのまま全力の蹴りでスケルトンの胴体を弾き飛ばすがやはりただの蹴りでは完全には壊れてくれない。ぼろぼろの剣がこちらに襲いかかる。切れ味はいまいちだろうが確実に当たると痛いのは間違いない。

 そして鍔迫り合いをしていて気づく。この剣軽すぎてぶった斬ってる感じがしねぇ!

 まるで食事のナイフだ。今まで使っていたものとの重量差に慣れない。しまった、少し慣れてからくるべきだった。スケルトンに斬撃は効きづらい。打撃等のほうが効果的だから斬るよりも叩くほうがいい。それなのにこの軽さじゃ意味がねぇ!

 というかアルトナ、魔法まだかよ! さっきから矢がちょいちょいかすりそうなんだが。


「焼きつくせ……フレイムランブル!」


 ようやくアルトナの魔法が発動したのかスケルトンの後方で炎の渦が発生する。後方型スケルトンをほぼ一掃しただろう。数は残り7体ほど。

「よし、アルトナ、こっちにも魔法――」

 ソルジャースケルトンから離れてアルトナを見る。……あれ、なんかおかしいぞ。


「……ごめんなさい生きててごめんなさい無駄に空気を消費してすいません許してください私は骨にも劣る弱小生物ですごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 魔力欠乏症だ!?

 アルトナは膝を抱えてその場に蹲りブツブツと意味の分からない自虐を吐き続けている。ミシェルもそれに気づいてぎょっとしたようにアルトナに声をかける。

「アルトナちゃん魔力欠乏症!? ちょ、ちょっと待ってマジックポーションあるから――」

 ミシェルがポーチから取り出そうとすると俺が取りこぼしたスケルトンソルジャーがミシェル、いやどちらかというとアルトナのほうへと襲いかかる。ミシェルは短剣でギリギリの防御をするものの捌ききれず、一閃食らってしまった。

 ミシェルとアルトナの方へと向かいたいところだがこちらは6体ちかくのスケルトンを相手にしているので正直庇えない。というか疲労がやばい。イルゼは、イルゼはなにしてるんだ!

 ちらりとイルゼの方へと視線を向けると一応俺に魔法はかけているみたいだが回復が追いつかない。

 やばい、パーティーデビュー戦で全滅するぞこれ。

 もう惜しむとかそんなことは言っていられない。使える技をフル活用してスケルトンを切り捨てていく。もう斬撃通らないとか知るか! 蹴りも織り交ぜてスケルトンをさばいていく。2体は殺った。が、ミシェルが交戦しているのも含めてあと5体。

「ちょ、嘘だろ――」

 ミシェルがぞっとしたような表情で後ろを振り返る。俺たちには何も見えない。ミシェルにわかる気配とはつまり――

「僕らの後方から増援3体!」

 絶望的なまでに数が減らない。火力が圧倒的に足りていない。アルトナが復活すればなんとかなるだろうが魔力欠乏症になってしまったらしばらく数に数えることすらできない戦力だ。

「ミシェル!」

 ミシェルと交戦していたスケルトンの剣がミシェルの脇腹をかする。本格的にまずい――そう思った瞬間。

「悪鬼成敗!」

 イルゼのメイスがスケルトンの頭蓋骨を粉砕して壁に吹き飛ぶくらい強く殴打を見舞う。

 ……あいつどっからあんな力出してんの?

 後方から出てきた3体も、イルゼのメイスによってほぼ1、2撃で破壊されている。

 こちらは数が減らない。それどころか俺の魔力が減っていく一方だ。

 突然、頭痛で頭が割れそうになる。この症状は――

「レブルスさん!?」

 イルゼの声が遠く聞こえる。あ、なんだかもうどうでもよくなってきた……。

「おいレブルス!? 君まで魔力欠乏症かよ!? ちょ、まずいってさすがに君がダウンはまず――」



 こうして、俺たちパーティのデビュー戦は最悪のものとなった。







「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」

「アルトナアアアアアアアアアアアアアア!! まだ魔力欠乏症治らないのか君は!!」

「なんかもう、全部どうでもいい……」

「レブルス! 君も!! なんで君が魔力欠乏症になるんだよ!!」

「あ、あのミシェルさん落ち着いて」

「落ち着けるものかよ……マジックポーションはなんとか飲ませられたがまだ治らないんだぞ」


 魔力欠乏症。体内の魔力が空になると起こる精神障害。症状は人によって様々だが共通しているのが『戦闘行為が軒並み不能になる』というところだ。情緒不安定、躁鬱、昏迷など様々だが精神的な影響があるのはほぼ共通だ。魔力は精神力の具現ともいう説もあるため、魔力がなくなると精神不安定になるという見解だが詳しいことは未だに不明だ。

 アルトナは鬱、レブルスは無気力。このまま探索はできない。マジックポーションで魔力を回復させたものの、この魔力欠乏症はすぐに治らないのが最悪の特徴だ。個人差はあるので早い人間は早く立ち直るのだが……。

「二人共心に闇を抱えすぎなんじゃないか……」

 元々の精神が根幹なのだから治るのが遅いのも元々そういう心の闇が大きいという説もある。特にアルトナ。

 ひとまずここにいても危険ということでミシェルがなんとか二人をひっぱって出口を目指す。イルゼは対スケルトンの戦闘準備だ。他人を抱えたままで戦闘に入るのは分が悪い。

「さす、がに……二人は重い……」

「わ、私もお手伝いします!」

「と、とりあえずもう少ししたら頼むかも……」

 自分は貧弱であると自覚しているミシェルとしてはこんな役割を背負うのは想定外だった。そもそも前衛戦闘員が魔力切れを起こすくらい苦戦すると思っていなかった。

「と、いうか……イルゼちゃん、めっちゃ前衛だね……」

「いえ……私は殴るくらいしかできないので……」

 どんな脳筋だよとミシェルは心の中で悪態をつく。回復担当なのにレブルスの回復が追いつかなかったり問題はあったものの、スケルトン殲滅は彼女がいなければできなかったので悪くは言えなかった。

「あ、そこ踏まないでね……踏むと周囲まるごと崩壊するタイプの落とし穴だから」

「はい。ってあのミシェルさん大丈夫ですか? 顔色が」

 真っ青というか二人を引きずって疲れ果てて汗だくのミシェル。そして二人はまだ治らない。

「私、やっぱりアルトナちゃんの方持ちますよ」

「う、うん……ごめんねほんと……」

「いえいえ」

 アルトナを軽々と抱えて進もうとするイルゼを見てミシェルはなんとなく劣等感を抱いた。持っている重さが違うとはいえ、じぶんは男なのにレブルス一人持ちあげられない。

 そんなくだらないことを考えていたせいか、ミシェルはミスを犯した。

「ちょ、イルゼちゃんそこ踏んだら駄目って――」

「え?」

 時既に遅し。イルゼの踏んだ場所から周りにヒビが入り、ミシェルやレブルスもまとめて巻き込まれる。


「ああああああああああああああああ!! なんでだよおおおおおおおおおおおおお!!」


 ミシェルの絶叫は虚しく下層に吸い込まれ、4人は揃って下層へと落ちていった。


だいぶ遅れてすいませんでした。

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