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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
2章:ギルドメンバーを集めよう
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いざ、迷宮へ





 夢を、見た。


 いや、これは記憶だ。



 痛む身体。閉ざされた視界。孤独と絶望。

『――か、――――いでくれ』

 朦朧とする意識。覚えているのは誰かの優しい声。

『君はきっと強くなる。でも、心が折れてしまったのなら――』

 そう呟いてその人は自分の指にはめてある指輪を俺の指へとはめる。その動きだけはなぜか片隅にしっかりと記憶されている。

 顔はよくわからない。目の前のものすらよく見えない。けれど、この誰かもわからない人へ、強く焦がれた自分がいた。

 ああ、俺はまだ、生きていられる。

 体中の痛みすら生きていることを実感できる。苦しくて、辛くて、泣きたくなるくらいな痛みだというのに、『彼女』に生かされたのだと。


『この指輪を売って路銀にするといい。君がこれをどう使うかは任せよう。もし、君がまた立ち上がって旅立つならば』


 霞みがかった視界が一瞬だけ晴れて、見えたものは金色の――




 ぼんやりと天井を見つめていると目が覚めたんだということに遅まきながら気づく。

 夢、というより昔の記憶は時折思い出したように見る。

 女の、声だったと思う。当時は意識も朦朧として、目はろくに見えていなかった。声しか判断材料がないのは見えたものが体部分だけで、その体もまだ幼く、細身だったため少年か少女かわからなかった。言葉遣いやらで女だとは思うのだが……どことなくミシェルっぽい口調のせいで今はミシェルみたいに男という可能性が頭をよぎってしまう。

 ベッドから降りて机の引き出しを開ける。そこにはあの時、彼女が俺にはめた指輪があった。チェーンを通してリングペンダントのようにしているが、無くさないようにと俺が勝手にしただけである。シンプルなシルバーのリングには赤く模様が掘られている。印象的な模様は翼のようで、恐らくだが珍しい装備品だろう。

 そう、俺は結局これを売ることができなかった。たった一つ、彼女に繋がる情報でもあったから。けれど、俺はいつしか惰性でダンジョンに潜る日々の中で彼女に礼をするという気持ちを失っていた。


 今なら、また探し出せるだろうか。


 くだらない感傷だと自分を嘲笑しながらリングペンダントを首にさげ、ダンジョンへ行くための服へと着替える。

 いつか、彼女にまた会えたとして、俺は何がしたいのだろう。

 礼をして、そしたら――?

 そこで終わってしまう。それで終わってしまうことが怖くて、考えることをやめてしまった。






 1階に降りるとイルゼが食卓にちょこんと座ってミシェルを見ていた。ミシェルは厨房で朝食の準備をしているらしい。が、もう出来上がったのか食卓にスープとハムエッグを並べ始める。イルゼとミシェルはよく見るとまだ部屋着で食後すぐに出かけるつもりではなさそうだ。

「おはよう、レブルス。ちょうどアルトナちゃんと君を起こしに行こうと思ってたんだ」

「おはようございますー」

 ミシェルが別の皿を取りに厨房に戻り、とりあえず椅子に座るとイルゼが俺の胸元を見て目を輝かせた。

「わぁ、レブルスさんのその指輪、とっても綺麗ですね」

「あ、ああ……」

「なにか効果のある装備品ですか?」

 と、聞かれてもこの指輪は効果があるか調べていない。というのも、俺がメガネで効果を確認しても詳細がわからなかったのだ。鑑定能力が高い人間か鑑定士に見せればわかるだろうが……。

「んー? なになに、何の話?」

 ミシェルがサラダの大皿を食卓の真ん中に置いて話に入ってくる。なんだか楽しそうだなぁと思っていると俺の指輪に視線がいった途端、顔色が変わった。

「――それ」

 まるで表情というものが殺されたとでも言うべきか。感情らしい感情が削げ落ち、ぞっとするほどの殺気がミシェルを包む。目から光が消え去り、本能的にまずいと思わせた。


 が、それはほんの一瞬で掻き消える。


「綺麗な指輪ですよね! あ、私アルトナちゃん起こしてきます!」

 ミシェルの様子に気づかないイルゼは席を立って2階へと行ってしまう。しかし、その間の抜けた言動のおかげかミシェルの目に光が灯った。

「ど、どうかしたか……?」

 かすれてしまった声でミシェルに問いかけると気まずそうに視線をそらされる。

「……その指輪」

 ミシェルの表情が今度は悲しげに曇る。どこか苛立たしげなその表情に思わず困惑してしまった。コロコロ様子の変わるやつだな。

「な、なんだよ」

「……別に」

 急に不機嫌そうに朝食を食べ進めるミシェルに疑問を抱きながら、俺も朝食を口にする。

「なあ、この指輪のこと、なにか知ってるのか?」

「…………」

 無視された。なんだこれ。

 すると、イルゼがアルトナを引きずるように2階から降りてくる。アルトナはいかにも寝起きと言わんばかりのボサボサの髪と寝乱れた服、あとよだれの跡。

「おーはよー……」

 あくびをしながら席についてスープに口をつけ始める。まだ寝ぼけているのかまだ熱いスープに「あっち!?」とか驚いて危うくスープをこぼしかけてた。






 町から少し離れた場所にあるラセットスカルの採掘場はぽつんと巨大な岩のようなところに人が通れるほどの穴が開いており近くに古代語で名が記されている。

「ダンジョンって、こんな感じなんですね……」

 初めて見たイルゼは忙しなくあたりを見回して目を輝かせている。散歩中の犬みたいだな。

 周囲に自分たち以外の冒険者はいない。まあ、比較的新人パーティでも挑める難易度だから中にはいるかもしれないが。

「この辺のダンジョンはこんな感じばかりだよ」

 ミシェルが入る前に地図やカンテラを確認しながらイルゼに声をかける。

 キゼルドゥグクは樹の幹にできた穴からダンジョンに入るし、オルヴァーリオは地下に降りていく石階段がある。ダンジョンによってまちまちだがこの近辺はだいたいこうなっている。

 別の地域や難易度の高いダンジョンではまた仕組みすら違うらしいが。これらは全て地下へ、下へ潜っていくタイプに対して上へ登っていくダンジョンもあるらしいし、階層が少ない代わりに1層が広大なダンジョンなど多岐にわたる。

「ラセットスカルの採掘場。骨系魔物が主な敵で、魔石や鉱石も入手できる可能性のあるダンジョン。難易度としては低めで1層の範囲は中規模。30階層まであるが迷宮主は討伐されているため帰還陣は稼働済み……」

 付け加えるようにアルトナが淡々と情報を隣にいるイルゼへと向ける。魔法使いだからか木製と思われる杖を手にしているが……老人みたいな杖の使い方しているようにしか見えない。というかすでに疲れているような表情だ。

「迷宮主? 帰還陣?」

 イルゼはアルトナの言葉に疑問を浮かべ、ミシェルが困ったように呟く。

「……イルゼちゃん、ほんとにダンジョンの知識ないんだね?」

「はい……ごめんなさい」

「謝らなくていいよ。えーっと、迷宮主ってのはダンジョンで一回しか倒せない強い魔物のこと」

 ダンジョンには必ず主がいる。その主こそ迷宮主と呼ばれる存在である。迷宮主は一度倒せば二度と出現しない。ダンジョンの最奥にいるボスとはまた違った特殊な存在で、最奥ボスと迷宮主を同時に倒すことになったパーティも過去には実在する。また、迷宮主はダンジョン内を自由に移動するため1階層目でいきなり出会うなんてパターンも存在するらしい。迷宮主を倒すとダンジョン最奥には帰還陣が出現し、階層を移動する魔法陣のようにそれに触れるとダンジョンの入口まで帰還できるという仕組みだ。

「帰還陣は、ダンジョンの一番奥にある一瞬で入口まで戻れる魔法陣のこと。ほかにわからないことはあるかい?」

 ミシェルがそう聞くとイルゼは思い出したように冒険者カードを取り出してステータスの欄を指さした。

「この『HP』ってなんですか? MPは魔力で、マジックポイントの略称だって聞いたのですが……」

「ああ、HPはヘルスポイントの略だよ」

 ヘルスポイント。健康状態や体力を表すとされる数値で高ければ高いほど体力が高い、健康で毒や麻痺などの抵抗があるということでもある。

「ヘルス……健康……」

「まあ、だから君の役目はみんなの体力を回復するヒーラーだから。ヒーラーの基本魔法に体力を診る技能あるだろう?」

「じゃ、じゃあHPが0になったら死んじゃうんですか!?」

「死ぬわけないでしょ。何言ってんの」

 アルトナがかわいそうなものを見るような目でイルゼを見つめる。

 HPが0状態なんてそうそうない。そもそも俺たちは戦闘中にHPを確認する余裕がないからわからないというのが大きいが。HPが下がる条件は傷や病気、毒麻痺などの状態異常、空腹や疲労などだ。これが0になると行動不能ということらしく、気絶や意識不明の重体。HPが高くとも首が落ちれば死ぬし、体に大穴が開けば死ぬ。まあ、どれだけ行動ができるかの目安みたいなものだ。数値なんて所詮人間の本質を表すことはできないのだから。

 しかし、まさかここまで無知だとは……。ミシェルの見る目は大丈夫なのだろうか。

「ま、あんたは前衛のレブ君が怪我したら治してやればいいだけの話よ。とりあえずはそう考えとけば平気平気」

 アルトナがあくび混じりでイルゼに向けていう。イルゼはそれを聞いてわずかに不安そうだが元気よく頷く。

「はいっ! 頑張ってみせます!」

 汗をかいたイルゼを見るに緊張している様子。まあ、ダンジョンデビューだし仕方ないだろう。

「レブ君は少なくとも初心者じゃないみたいだし、ミシェ君もベテランっぽいからそんな気張ることないって」

 お前はのんきすぎると思う。というかレブ君ってなんだ。

「そういえば、お前は武器はないのか?」

 ヒーラーだからなくてもいいだろうが完全に素手というのもどうなんだろうか。せめて魔法使いのアルトナみたいに杖とか魔道具はなくていいのか。

「あ、武器ならあります! ポーチにしまったままだったんです!」

 そう言ってマジックポーチに手を突っ込んで引き出したものは鋼鉄のメイス。

 聖職者が持つことでも有名だしまあ護身用としては問題ないか。


「準備はいいかい? さて、目標5階層。魔物とはできるだけ戦闘していく方針で!」

「はい!」

「ういーっす」

 ミシェルの声かけにイルゼとアルトナが反応する。

「さあ、レブルス!」

 ミシェルに急かされ、足を踏み入れる。これから起こるできごとを微塵も想像せずに……。




ステータス設定をまとめて載せられたらと思っています。

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