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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
2章:ギルドメンバーを集めよう
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食って洗って寝ろ




 ぼんやりと厨房を掃除しているとドタドタと物音がしミシェルが入ってきた。

「……っ……あっぶねぇ……」

「なんだ?」

「いや、ちょっとタチの悪いストーカーが……」

「家に迷惑かけるなよ?」

「撒いたから大丈夫だと思う……はあ、美しいってほんと罪だね」

「顔焼いてやろうか? ちょうどいいと思うぞ」

「遠慮しておこう」

 私物らしき大きめの鞄と市場で買ったと思われる食材が入った袋。

「ところで念の為に聞くがレブルス、君料理はできるか?」

「朝、厨房見たならわかるだろ」

 ずっと使われていない厨房の惨状を見たならば俺が料理をできると思えないはず。

「まあ、そうだよな。仕方ない……ギルドメンバーが増えればきっと料理ができる子も増えるだろうし、それまでは僕が作ってやるよ」

 こいつ本当になんでもできるのな。

「荷物は……後でいいか」

 そう呟いて食材を作業台の上に置いて髪を括る。断言しよう。これを見てこいつを男だと思うやつはほとんどいない。髪がそれほど長くない、肩より上の長さだが調理の時は気になるのだろうか。一応、という感じで括っている。

「腹減ったし簡単にすぐ作れるものにするぞー」

 とりあえず出されたものが死ぬほどまずいとかじゃなければ文句を言わずに食べる。

 厨房自体は貸宿時代に使っていたものをそのまま利用しており、コンロは炎の魔力石を設置して火加減を調節ができる。実はこれ、結構いいものらしいが俺は料理をしないのでそのありがたみがわからない。ほかにも食材を保管するための冷蔵箱や氷箱、鍋や刃物の類は一通り揃っている。母が料理をするのが好きだった名残でこんなもの何に使うんだ?というものまである。

 ミシェルは慣れた手つきで卵を溶き牛乳と混ぜ合わせ、茹でた大豆を大雑把に潰し、それと薄く切った玉ねぎと胡椒や塩などの調味料炒める。一旦それを器に移してから溶いた卵を再度油をひいたフライパンに投入し、先ほど炒めた大豆と玉ねぎを半分ほど卵の上に乗せ、それらを包み込むように卵を寄せていく。

 出来上がったものをフライパンから皿に見栄えよく乗せ、同じようにもう一度卵で具を包み、出来上がった二つのオムレツにソースをかけ、彩りなのかキャベツを適当に添える。

 あとは購入してきたパン切れと一緒に食卓に並べ、ミシェルは一息ついた。

「はい、とりあえず遅くに行った市場だしあり合わせね」

「正直今、お前のその、“女子力”とやらに震えてる」

「は?」

 あり合わせでオムレツを出されるとは思わなかった。しかも男に。少なくとも俺はできない。

「まあさっさと食べよう。いただきまーす」

 一足先にオムレツにナイフを入れるミシェル。なんとなく食べる踏ん切りがつかず食べる様子を観察してしまう。

 ミシェルの口にしているオムレツは半熟でとろっとした卵が美味そうに見える。不味くは、なさそうだ。

 恐る恐る一口食べてみると具はシンプルな味付けだが物足りないわけではなく、胡椒や塩のシンプルさが素材の味を引き出している。恐らく大豆は肉の代わりに使ったのだろう。結構満足感を味わえる。付け合せになっていないようなキャベツも一応食べ、パンも含めて気づけば完食していた。はっきり言ってしまえば美味かった。もちろんプロの料理人や食堂とは違うしそれは当然だが、想像していた以上の出来だった。これで食材がちゃんと揃っていてなおかつ準備をした調理ならもっとよかったに違いないだろう。


 ……なんだろう、色々負けた気分だ。


「ごちそうさまー。レブルス、なんか不満そうだね?」

「飯に関して不満はなにもないがお前の存在がだいぶ不満だ……」

「は?」

 首をかしげるミシェル。どうせお前に俺の気持ちなんてわからない……。

 俺も料理の練習をしようかなと思わせられたなんて。


「さて、これからの話をしようか」


 顔を引き締めてミシェルは話を切り出す。

「ギルドを設立して承認を得るためには最低6人必要だ。僕は決して大手ギルドを目指しているわけじゃない」

 大手ギルドは100人単位のギルドのことでどうやって運営しているのかなんて見当もつかないが規律があり、こまかく定められた報酬の配分などがあるとのことだ。

 もちろん、俺たちが目指すのはそんなものではない。

 小規模、それも10人も満たないような人数だ。

「まあまず最低はヒーラー、魔法使い、盾持ち前衛は確保したいね。魔法使いは後方支援といて二人くらいいても問題ないし……あとは遠距離攻撃の弓とかかな? まあ前衛も欲しいけど当面の目標はそんな感じ? んー贅沢だけど専属の鍛冶師とかいるとすごい理想」

 突拍子もない提案が来るかと身構えていたが案外普通のことだった。さすがに鍛冶師は理想が高いだろうがヒーラーと魔法使いはなんとかなるだろう。盾持ち前衛は最近数が減っていると聞くので保証はできないが。

「あと……これが一番重要だけど……」

 真剣そうに眉を寄せる。なんだ? 報酬の分け前か? 勧誘する実力決めか? まさか年齢制限――?


「できるだけ女の子!! ギルドをハーレムにしようぜ!」


「馬鹿なこと言ってねーで男勧誘してこい」

 コイツに何かを期待した俺が馬鹿だった。顔が美少女なものだからそんなツラでハーレムしようぜとか言われても反応に困る。

「えー、若い女の子がいたほうが癒しだろー? まあどうせ僕より可愛くないんだろうけど」

「お前先にそのクズの性根を直せよ」

 ナルシストも大概にしろ。

「まあ男手がいたほうが助かるのは事実……だけど考えても見ろよレブルス。実力が同じの戦士が男女それぞれいたとして勧誘するなら女だろ?」

「よほど男が酷くない限りは男を勧誘するな」

「なんでさぁ!? 君やっぱりそういう趣味なの!? やめときなよ! まだ若いのに!! 童貞こじらせて臆病になってるんだろ? 娼館行こう娼館!! 人生観変えようぜ!!」

「だからそのツラで娼館とか連呼するんじゃねぇ!!」

「娼館常連舐めるなよ!!」

「自慢げに言うことじゃねぇからな!?」

 ミシェル、酒でも飲んでいるんじゃないかと思ったがそんなことはなかった。素面でこれか……。

「ここ4日くらい娼館行ってなくて……そろそろ女抱きたくて……」

「ほんとお前そのツラでクズなことしか言わねぇな」

 美少女ヅラの性悪ナルシストで娼館狂いのストーカーとか手に負えない。

「あーやっぱり女だ女!! ギルドメンバーはできるかぎり女を増やす!! どうせヒーラーは後方支援だし女も多いだろ!!」

「ヒーラーに関しては確かにそうだけどほかはちゃんと男からも選べよ」

 ため息をつきながらも俺は食器を片付ける。ミシェルの分の食器も回収し、水につけてあとで洗えるようにしておこう。

 元貸宿なだけあってこの家は一般的な家よりも設備が整っている。水は井戸から直接引けるようになっており厨房の水場や水浴びがいちいち水汲みにいかなくても可能だ。

「僕先に水浴びするね」

 ミシェルが当然の権利とばかりに水浴び用の部屋に入っていく。公衆浴場はあるのだがいちいち入りに行くの面倒だし、今はそこまで冷え込む時期ではないので湯を沸かしてそれを浴びることもしていない。個人で風呂を楽しむのは大金が必要になってくる。誰しも一度は一人で風呂を楽しんでみたいと思うものだが遠すぎる夢だと思う。

 貯めておいた水につけた食器を洗いながらこれからのことを考える。

 勢いで色々決めてしまったがギルドに関しては不安と期待と――恐怖が心の奥速にある。

 そう何度も同じようなことはないとは思う。だが、もしまた同じようなことがあったら……。

 ふと、そういえば水浴び部屋の石鹸を切らしていたのを思い出し買い置きしていた新しい石鹸を持って水浴び場に向かう。水を被る音がしたので頃合いを見計らって扉を開けた。

「なあ、石鹸――」

 呼吸を忘れるという感覚を味わう。

 透き通るような白い肌。水気を帯びて張り付く髪。少し不機嫌そうな瞳がこちらに突き刺さる。


 そして、はっきりと目視してしまった胸板。


 ……これ男だわ。


 いや別に疑ってたとかもしかしたらやっぱり女なんじゃ、とかそんなこと思っていたわけではないし? というかそれなら別にわざわざ中に入ろうと思わないし? ただ改めて証拠を見ると衝撃が強いというか。

 絶対に下は見ないぞ。見たらもう立ち直れない気がする。いやなにがっていうほどでもないけどやっぱりこう、顔が美少女だから余計にショッキングというか。

「……なんだよ」

 今までで一番低い声。軽蔑というかはっきりとした嫌悪が感じられる。

 あからさまに不機嫌そうなミシェルの声にはっとし石鹸を投げ入れて慌てて扉をしめた。

「石鹸、新しいの」


 足早に水浴び場から離れ、食卓へと戻る。

 あれは男だ。もう惑わされることはない。

 そして、確認をしたことで俺は安堵していた。


 もうこれで、あいつにドキドキすることは決してない。




 ……今までも別にしてなんかない……。クソが……。









 水浴びの設備というものは不便なものでシャワーと呼ばれる噴出口から水が出てくる。それを止め、桶に水を貯めるように下の蛇口から水を出す。

 ぴちゃん、と水滴の音だけがやけに耳に残った。

「……気にしすぎ、か」

 レブルスに対し、かなりきつい態度を取ってしまった。思わず癖で身構えてしまったが向こうも気まずいと思っているのかすぐさま退散していった。

 ……わかっている。悪意などなかったことは。

 けれど、自分にとって無防備な瞬間というものは一番恐ろしいものだ。

 弱い。だからこそ臆病でなによりも己を大事にする。

 肉の薄い自分の腕を掴み、自嘲気味に僕は口元を歪める。


 ――結局、僕は変われないんじゃないか。


 鏡に映る自分がひどい顔をしている。左肩のあたりに触れ、一瞬で手を放す。

「終わるまでに気持ち切り替えないと……」

 桶に貯めていた水はいつの間にか溢れ、ひんやりとした水が足元を伝っていった。











 貸宿だったときの部屋8部屋。俺の私室や両親の部屋を除いてもそれだけ余っているのでミシェルに一つ貸し与えるのは問題ない。

 だが一つ納得いかないことがある。


「勝手に僕の部屋入らないでね? いくら僕が美しいからって夜這いとかやめてね」


「死ね」


 もう罵倒の言葉を考えるのが面倒くさい。こいつへの罵倒は全部死ねでもういいって思うほどに面倒くさい。

 一応簡易ではあるが掃除はしたので部屋はなんとか使えるだろう。

「そういえば先に言っておくけど」

 寝巻きなのか首まである長袖のインナーと短パン。正直どうかと思う。

「この家の部屋をギルドメンバーには提供するって形で勧誘文書いていいかな」

「どうせ了承も得ずにそうするんじゃないかって思ってたよ」

 むしろ確認してきたことに驚いた。

 確かに衣食住の住が保証されるだけでも十分ありがたいことだろう。俺はこの町出身だからいいとして遠くから訪れた冒険者は宿を長期で借りている。ギルドに入るメリットとして提案するとすればそれに釣られる冒険者も多いだろう。

「じゃあ勧誘文書いて僕寝るわ。おやすみー」

「……おやすみ」





設定的にミスがあったため後半部分の修正と差し替えを行いました。

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