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ダンジョン冒険者はロクでなし  作者: 黄原凛斗
1章:オルヴァーリオの湖底
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これからのこと






 時計塔の鐘が19の刻を告げる。町の門番もほとんど沈んだ日を確認し交代の時間だと慌ただしく人が出入りする。門番の兵士と町の治安を守る警吏は共通でいわゆる役人だ。町の巡回に門での見張り。そんな仕事が主でその傘下に自警団が存在する。今日もいつもどおりの仕事を終え、皆これから休めると思うものや、夜勤が始まって憂鬱そうにしている者もいた。

 そんな中、町の入口である関所に近づいてくる二人の影があった。



「だいたい君、ずっと僕のこと女だと思っていたとかありえないだろう!? 馬鹿か!? 節穴か!?」

「てめぇそのツラ鏡でじっくり見てから言えよ!!」

「素晴らしく美しいだろうが!!」

「完全に女顔だよ!! そしてその身長!! お前を男だと一瞬で見抜く方が難易度高いだろうが!! ついでに声ももっと低くしろ!!」

「口調も服装も普通に男だろう!! 顔だけで判断するなんて脳みそ足りてないんじゃないか!! あと声変わりは既に迎えている!!」

「冒険者には男装する女がどれだけいると思ってんだ!! 詐欺じゃねーか!!」


 心底くだらない喧嘩を繰り広げながら関所へと俺たちは大股で進んでいく。関所につくと、馴染みの警吏の人が迎えてくれる。

「レブルス君、おかえり。今日はキゼルじゃないんだね」

「ああ……イライアスさん……お勤めご苦労様です」

 穏やかそうに笑う巨躯の人物は警吏であり門番でもあるイライアス。その身長と威圧する雰囲気に反して穏やかで真面目な人物で、たまに顔を合わせて少し話をすることもある。

「こんなに遅くまでダンジョンなんて珍しい。それに仲間がいるなんて珍しいね。パーティ組んだの?」

「組みましたけど永久解散するつもりです」

「なんでさっ! 僕と一緒にギルドを設立するって言ってくれただろう!?」

 ミシェルが喚き散らすが無視してイライアスさんに頭をさげる。

「じゃあイライアスさんも夜勤頑張ってください」

「おいこらレブルス! 僕のことを無視するんじゃない!」

「うるせぇついてくんな女男!!」

「君も心が狭いなぁー!? 勝手に勘違いしておいて!!」

「ははは、仲がいいね」

 イライアスさんが楽しそうに見送るが何が「仲がいい」だ。即刻縁を切りたい。






 所変わって冒険者支援協会。

 だいぶ遅い時間なのにまだ受付にいるサリーナを見て半ば憤りながらサリーナに詰め寄る。

「どういうことだ!!」

「は? 何が」

 サリーナがわけがわからないと言いたげに首をかしげる。表情は冷静そのものだ。

 ミシェルがため息をつきながらレイクラブの鋏とミソ、そしてサファギンの鱗をサリーナの前に置く。これの換金があるから仕方なく一緒にいるだけで決して許したわけではない。

「こ・い・つ・が! 男だってなんで言わなかったんだ!!」

「あら、気づいてなかったの。てっきり気づいてると思っていたわ」

「このツラ見てどう男だと思えって!? 男装する女だってゴロゴロいるんだぞ!!」

 そう、冒険者には男装する女が多い。なぜかというとダンジョンでは治外法権。無体に扱われても仕方ない。自分の身を守るために男のふりをする女は結構いる。が、大抵バレバレなのがオチだ。ほかに理由としては宝箱からの装備品が有用な効果を持っていたが男物で仕方なく身につけているなどがあるがそういう理由で男装をする女は実際多い。

 ミシェルもその類だと思っていた。初対面で襲われているし、自衛で男っぽく振舞っているのかと。

「あら、そもそも気づかないあなたもどうかしら? というか、最初から本人に聞けばいいのに」

 サリーナはミシェルから受け取った売却素材を別の人物へと渡し、俺と向き合う。

「俺が悪いって言いたいのか!?」

「そうよ」

「断言しやがった!?」

 それもこれも冒険者カードに性別欄がないのが悪い。誰だ、あれを設計した魔法使いは。

「パーティを組むなら、最低限相手とやりとりくらいしなさいよ。第一何。その子が男だとしてあなたなにか不都合でもあるの? むしろあなた女苦手じゃない」

「えっ……」

 ミシェルがなぜかドン引きしたように俺を見て数歩距離を取る。違う、そうじゃねぇ。

「そ、その言い方は誤解を招くからやめろサリーナ……」

「本当のことじゃない。むしろ男のほうが――」

「悪いけど僕そういう趣味は一切ないからあんまり近づかないでくれないかな……」

「うるせぇこのクソ女男!! 俺にもそういう趣味はねぇよ!! ぶっ殺すぞ!!」

 もう俺こいつと関わりたくない。男に一瞬でも綺麗だとか可愛いとか思ったのかと思うと気持ち悪くて仕方ない。

「まあ、深いこと考えないほうがいいわよ。仲良くしなさいよ。こっちとしては面倒なソロ二人が組んでくれてちょうどいいわ」

「俺今まで面倒だと思われていたのか……」

 ちょっとしたショックだ……。

「うだうだ言ってないで仲良くしなさいよ。ったく……だいたい組む組まないの喧嘩ならよそでやりなさいよそで。こっちだって暇じゃないのよ。だいたい男だったからって私にキレないでくれる? 女経験ないからって浮かれすぎじゃない?」

 こいつ、受付嬢のくせに辛辣すぎないか。いくら慣れ親しんだとはいえ、仮にも対応すべき冒険者に対して。

「この……っ! 27にもなって男もいないくせに――」

 ヒュッと左頬をなにかが掠める。恐る恐る動かないように視線を動かすろサリーナの手に短刀が握られており、それが自分の頬を掠めていた。

「――……なにか言ったかしら?」

「ナニモ、イッテマセン」

 年齢と結婚のことはやっぱりタブーらしい。

 というか受付嬢のくせに冒険者が補足しきれない動きで脅すのってどうなんだ。あとで上に苦情入れてやろうか。

「はい。レイクラブの大鋏2つとミソ、サファギンの鱗の買取金額。レイクラブのミソは自分で食べればよかったのに売ってよかったの?」

「調理できるわけでもないし料理人雇うのもめんどうだ」

「まあ僕もミソ食べたいわけじゃないしー」

 一応そこの意見は一致させている。

 金額を確認すると総額5万8千ニル。内訳はレイクラブのミソが3万5千ニル。大鋏が二つ合わせて2万。鱗が6枚合わせて3千ニル。二人で分けるとして2万9千ニルだ。

 久しぶりに大金を得て手が震える。一日でこんなに稼いだことが今まであっただろうか。

「まあレイクラブだしこんなものか」

 特別感動した様子もなくミシェルが2万9千ニルを受け取る。その金に感動しないミシェルが怖い。金銭感覚が絶対に違う。一日の稼ぎが紙幣か硬貨になるか危うい瀬戸際で生きている俺とは絶対に違う。こいつなら万紙幣を見慣れてやがる。

 元々金貨銀貨銅貨が主流の通貨だったのだが数年前に冒険者が持ち運びしやすいようにと紙幣が考案され、少しずつ広まっている。一見紙ペラなので信用できないため硬貨で支払いを求めるという人間も中にはいるようだ。特に街の安宿や酒場などはつり銭が面倒ということで紙幣を取り扱わないところもある。そのため、冒険者はできるかぎり大金を得たら冒険者支援協会の銀行に預け、硬貨に変えてもらっている場合が多い。かくいう俺も紙幣は苦手だ。だが硬貨は何十枚もあるとかさばるし重い。紙幣を使えるところもこの町では限られるため基本硬貨に変えて生活している。

 恐らくミシェルはこの町以外にもいた経験があるのだろう。王都なんかじゃ紙幣でのやりとりが盛んだと聞く。

「あ、そういえばレブルス。僕宿引き払って君の家に住むから部屋どこか空けといて」

「何を言ってるか理解できなかったから何も言わず俺に関わるな」

「宿はそんな遠くないからすぐ戻るよー」

「聞け」

 流れが完全に俺の家に住み着く気満々だ。

 冷静に考えたら家を押さえられているし逃げ場がない……。

 でも考えてもみろ。こんな大金、自分一人だったら手に入れられなかった。共同でギルドをしていくならどっちかがどっちかを雇うということもないので出費がこれ以上増えるわけではない。飯に関しては自腹を切ってもらえばいい。

 そう考えると利益の方が大きい。確かに詐欺だし今でも許しがたいがこれからの利益と新しいダンジョンへの挑戦の可能性を考えたらそんなにマイナスではない。


 ただ、精神的に摩耗しそうなのが一番辛い。


 耐えろ……耐えるんだ俺……。

「…………部屋は掃除してないから自分でやれ」

「はいはい。あ、今夜の晩飯決めてる? 君の家なにも食材なかったけど」

「人の食料庫を漁ってんじゃねぇよ」

 俺が寝てる間に確認しやがったなこいつ。

「外食はー……無駄にかかるから自炊したほうがいいよ?」

「お前に言われるのだけは想定外だよ……」

「とりあえず荷物取りに宿行くついで、食材買って帰るから厨房だけ掃除しといてよ」

 なんか、なんだろう……。


 会話がこれ、男同士でする会話じゃねぇ……。


 色々不安はあるが先に自宅へと戻り、言われた通りに厨房の掃除をすることにし、重い足をなんとか動かしながら帰路に着いた。





ようやく女キャラが増える(予定)

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