表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/69

雨の中のレインチェリー

 イセリナ達が街の奥に歩みを進めると、煉瓦造りの小さな家が見えて来た。その小さな家を指差してウッディが言う。


「あそこの家だ。俺の知り合いの竜騎士『あかつき』の家は……」


 ウッディは濡れた髪を書き上げながら、その小さな家の扉を開いた。


「お~い! 暁! 俺だ、ウッディだ」


 しかし、返事はなく暖炉の火だけがユラユラと揺れているだけだ。まるで人の気配がない。


「留守かしらね?」


 誰もいない部屋の静寂を打ち破るようにイセリナは言った。

 刹那に部屋の奥から、暁の声とは思えない悍ましい声が“待っていたぞ”と二人に呼び掛けた。

 すると、その声の主は強固な尻尾を振り回し、煉瓦造りの壁に向かって強烈な一撃を放った。


「ウッディ、家が崩れるわ。外に避難しましょう」


「わかってるって!」


 イセリナ達は、その声の主との戦闘を避けられないと判断し身構えた。


「逃げられると思うなよ。我はキマイラブレイン。貴様らを八つ裂きにしてやるわ」


 降りしきる雨の中、キマイラブレインとの戦闘が始まった。ウッディは魔法を詠唱しようと間合いを取るが、キマイラブレインはそれを阻止した。


 間合いを取ったはずが、いつのまにか間を詰められていたのである。続けてキマイラブレインは、鋭い爪でウッディを捉えた。


「うぐっ。こいつ、早い」


 流血するウッディを見下ろしながら、キマイラブレインは不気味な笑みを浮かべた。


「ザコが……」


「この俺がザコだと?」


「ウッディ、挑発に乗っちゃ駄目よ。私が引き付けるから詠唱して!」


「すまない、イセリナ」


 冷静沈着なウッディが、強烈な一撃とキマイラブレインの言葉に熱くなっていた。


「いい作戦だ。我を止めてみよ」


 イセリナはキマイラブレインに向かって駆け出すも、ぬかるんだ地面が攻撃の邪魔をする。自慢の足もここでは意味を成さない。


「そんなものか? 勇者と言えど、ゴミだな」


 イセリナの前髪を雫が伝う。先ほどより雨足が強くなったようだ。


「ウッディ、まだ?」


 諦めにも似たイセリナの声が、雨音にかき消される。


「いい雨だ。行くぞ! 二人纏めて死ね! アクアブレス!」


 キマイラブレインは周囲の雨をかき集め、強烈な技を繰り出した。心臓に突き刺さるような、水圧が二人を襲った。


「いやぁぁぁ……」


「ぐはっ……」


 一瞬呼吸が止まる程の衝撃。二人とも急所を外し辛うじて生きてはいたが、もはや風前の灯。


――イセリナよ、何をしているのだ……。


 陰から見守るイシュケルには、その行く末を見届けることしか出来なかった。仮に助けたとして、それは魔王軍に対する『裏切り』、自己嫌悪に陥るしかなかった。


「しぶとい奴め。今楽にして……ぐわはっ」


 何者かが、頭上からキマイラブレインの背中に一撃を喰らわした。


「ウッディ、久しぶりだな? 何やられてんだよ。みっともないなぁ」


「あ、暁! お前、何処ほっつき歩いてたんだよ」


「ちょっとヤボ用でね。僕が来たから、もう大丈夫だよ」


 イセリナ達のピンチを救ったのは、ウッディの知り合いである竜騎士『暁』だった。しかし、依然劣勢に変わりはない。


「ウッディ、これを。あなたも。特製の薬草だ。ちょっと苦いけど我慢しな」


「暁……助かったぜ」


「ありがとう、暁さん」


 暁の特製の薬草で、イセリナ達の傷はみるみる塞がった。


「さぁ、反撃よ」


「己れ、ザコがちょこまかと……許さんぞ」


 イセリナは剣を構え直し、暁は鋭く長い槍をキマイラブレインに向けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ