届かぬ想い
◇◇◇◇◇◇
――一方勇者サイド
レインチェリーを目の前に、イセリナ達は雨に晒されていた。どういう訳か、レインチェリー上空のみ厚い雲が覆い、その雨が止む気配はない。
「これは、どういうことなんだ。今の時期、雨が降ることはほとんどないはずなんだが……」
この状況に唖然とするウッディにイセリナは言った。
「とにかく、レインチェリーに行ってみましょう。行けば何か分かるかも知れないわ」
イセリナは足を止めたウッディの腕を掴み、雨の中駆け出した。
時同じくして、魔力を封印し人間になったイシュケルもこのレインチェリーの地に降り立っていた。そして、イセリナ達の姿を確認するのにそう時間は掛からなかった。
「イセリナ……」
遠くからイシュケルは、その名を口にした。更にその後をマデュラが偵察に送ったシャドウが尾行する。
やがて、イセリナ達はレインチェリーの街に辿り着いた。
「ウッディ、街の様子がおかしいわ。調べてみましょう」
ウッディは、以前訪れたレインチェリーの街並みと異なることに不安を募らせていた。街中は荒れ果て、活気がなく、僅かにいる人々は皆荒んだ目でイセリナ達を凝視した。
「危ない! ウッディ」
突然、斧を持った男がウッディに襲い掛かった。
「金だ……金をよこせ」
何かに取り付かれたように、男は斧を振り回した。
「こいつら、変だぞ。どうしちまったんだ、この街は」
嘆くウッディに、更に男は斬り掛かる。
「ウッディ、逃げて」
イセリナが注意を呼び掛けるもすでに時遅く、みるみるうちに斧を持った男達がイセリナ達を取り囲んだ。
「どうする? イセリナ」
「どうする? って相手は人間でしょ。手出しは出来ないわ」
戦いに躊躇するイセリナ達の少し離れた建物の影から、固唾を飲む男の姿があった。
イシュケルだ。
「イセリナ、何をしているのだ。くっ、やむを得ん。衝撃波――っ!」
一瞬魔力を開放したイシュケルの手のひらから、凄まじい衝撃波が放たれ、斧を持った男達を一網打尽にした。
「どういうこと? 斧を持った男達が皆倒れて行くわ」
イセリナは状況を把握するのに、時間が掛かり戸惑っていた。
「恐らく衝撃波だ。何者かが、俺達に加担したらしいな」
動揺するイセリナを背に、ウッディは冷静に分析する。
「ふぅ。世話を焼かせる。これはこの前の礼だ。カリを作るのはあまり好きではないからな」
イシュケルは事態が収まるのを見届けると、再び魔力を封印し人間に戻った。
「イセリナ、今のうちに突破するぞ。知り合いの竜騎士の家はこの先だ」
「でも……誰が私達を……」
イセリナは自分達を助けた者が、誰かは把握出来なかったが、後ろを振り向きペコリと一礼した。
「ウッディ、待ってよ~」
「ふん。礼なぞ要らぬのに……」
律儀なイセリナに、ますますイシュケルは惹かれていった。
その一部始終を見ていたシャドウは、マデュラと連携を取っていた。
――マデュラ様、イシュケル様が、勇者どもに魔力を開放し加担しました。
――やはりな。シャドウよ、引き続き尾行をお願いします。
――御意。
降りしきる雨の中、それぞれの思惑を胸に、新たな展開が待ち受けようとしていた。