その想い裏切りにつき
イセリナ達に助けられ、イシュケルは黒龍石を手に入れ魔界に戻ることが出来た。
「お帰りなさいませ、イシュケル様。失礼ながら、一部始終このマデュラ拝見させてもらいました。念のため言っておきますが、人間と魔族が結ばれることは到底有り得ぬこと。まして、その相手が敵なら尚更のこと。残念ですが、あの女のことは諦め下さい」
イシュケルは自分のイセリナへ想いが見透かされ、返す言葉がなかった。
それと同時に浅はかな行動を悔やんだ。
「マデュラよ、黒龍石だ」
イシュケルは話を反らすように、黒龍石を渡した。
「確かに。では早速、以前と同様にモンスターを呼び起こして下さい」
「わかった。やってみよう」
イシュケルは黒龍石を魔法陣に向かって掲げ、祈りを捧げた。魔法陣に風が吹き荒れると、魔界ゲートから新たなモンスターが現れた。
「ギャォォォン。我こそはキマイラブレイン。魔王様、私を呼び起こしたこと嬉しく思います」
「これは見事な! イシュケル様、こ奴はかなりランクの高いモンスターですぞ!」
「本当か? マデュラよ」
「左様でございます。キマイラブレインに掛かれば、勇者どもなど赤子も同然」
イシュケルは複雑な思いだった。イセリナに限って、負けることはないと思うが万が一ということがある。自ら産み出したモンスターではあるが、手放しでは喜べなかった。
「キマイラブレイン。敵は憎き勇者ども。形なきまでに滅ぼし、伝説の兜を取り戻すのです」
マデュラはイシュケルより前に出て、キマイラブレインに指令を下した。
「ギャォォォン。容易いこと。心得た」
キマイラブレインの咆哮は地響きが起きるほど、辺りにこだました。
◇◇◇◇◇◇
――一方勇者サイド
港街でイシュケルと別れたイセリナ達は、次なる伝説の武具を求め遥か東の大地を目指していた。
「ウッディ、最近モンスター達も力を付けてきたと思わない?」
「確かに。魔王の魔力が増幅してきたのかもな。よし、レインチェリーに寄ろう。俺の知り合いの竜騎士に力になってもらおう」
「ウッディの知り合いってことは腕も立つのね?」
「まぁな。そうと決まったらレインチェリーへ向かおう。ここからなら、そう遠くないはずだ」
イセリナ達は新たな仲間を求め、レインチェリーの街を目指すことにした。
――レインチェリー
以前は貿易が盛んで、活気に溢れていた街。しかし、いつの頃からかレインチェリーの街は一年中雨が降り注ぎ、日の光を浴びることはなくなった。
人々は生活に疲れ皆街を離れ、荒くれどもが巣くう街に変化していった。
やがて人々はレインチェリーの街をこう呼んだ『デッドタウン』と。
何も知らないイセリナ達は、希望を胸にレインチェリーの街を目指していた。
◇◇◇◇◇◇
――一方魔王サイド
「イシュケル様、どうやらイセリナ達はレインチェリーを目指しているようです」
「そうか、ではキマイラブレインよ。レインチェリーへ赴き、勇者どもを一掃するのだ」
「承知」
キマイラブレインは不気味な巨体を震わせながら、魔界ゲートからレインチェリーへ向かった。
「マデュラよ、俺は用事がある。暫く席を外す間、魔界を頼む」
イシュケルはイセリナの動向が気になり、再び人間界に降り立とうとしていた。マデュラは理由を聞かず、口角を上げながら頷いた。
「畏まりました。イシュケル様が留守の間、魔界はお任せ下さい」
「すまない……」
イシュケルは颯爽と、キマイラブレインの後を追った。
マデュラはイシュケルが姿を消したのを確認すると、手を鳴らし謁見の間にモンスターを呼び寄せた。
「シャドウよ。おるか?」
「ははっ。マデュラ様。何用で」
「イシュケル様を尾行するのです。手出しは無用、イシュケル様の行動を報告してくれればよい。よいな?」
「御意」
――小わっぱが……恋にうつつを抜かすとは……。
マデュラは態度を豹変させ、不敵な笑みを浮かべた。