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魔王が育てた勇者が牙を剥く  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第七章 更なる力は限界を越えて
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最後の四天王

 騎馬四天王――“白虎”を倒したアレイス達。


――残る四天王は、あと一人。


 しかし、何の手掛かりもなくここアルタイトで数日が流れた。


「父上、そろそろ旅立ちましょう」


「うむ。手掛かりがない以上、長居は無用だな……」


 イシュケルの傷も完全に癒え、親子の関係も修復されつつあった。


「何か手掛かりがあればいいのだが……」


 アレイスがポツリと呟くと、何者かが心の中に語り掛けてくる……。




――アレイス、アレイス。聞こえますか? どうやら、騎馬四天王の一人、白虎を倒したようですね?


「その声は……マナ、マナなのか?」


――えぇ、そうよ。久しぶりね。


 独り言を言うアレイスに睦月が言う。


「誰と話してるの?」


「俺が以前、異界で世話になったマナだ。どうやら、俺の心の中に語り掛けているらしい」


――皆さんも一緒なのね。いいわ、皆さんの心の中にも声を伝えましょう。


 睦月達は心の中に語り掛けてくるマナの声を聞いて、戸惑いを見せた。


「あなたがマナ……」


 ミネルヴァは初めて聞くマナの声に、何処か懐かしさを感じていた。


――今日はあなた達に話があって、このような形を取りました。実は、最後の騎馬四天王“朱雀”がこの異界にいるのです。


「マナ、それは本当か?」


――えぇ、詳しいことは言えませんが、異界に来て欲しいのです。


「しかし、異界に行くには死ななきゃいけないのではないか?」


 沈黙を守っていたイシュケルが口を開く。


――貴方はイシュケルですね? アレイスから話は聞いています。それなんですが、ある炭鉱に異界に繋がる空間の狭間を設置しました。そこから生きたまま異界に来れるはずです。


「炭鉱? シルキーベールに近い、あの炭鉱?」


――詳しい場所までは言えません……兎に角、そこから異界に来るのです。頼みましたよ。


「マナ? マナ?」


 マナはそこまで伝えると、一方的にコンタクトを遮断した。


「他に手立てがない以上、マナに従うしかないな……」


 アルタイトの街も平和が戻り、これから巨大都市に変貌を遂げるであろう。

 アレイス達は穏やかになった街並みを見届け、再び港街へ送る船を探しに行った。


――ここはアルタイトの港。

 アレイス達が、降り立った港だ。数こそ少ないが、何隻もの船が列なる。


「すみません、港街に行きたいのですが……」


 アレイスは船着き場で作業する男に声を掛けた。


「他を当たってくれ」


 男はアレイスの顔も見ず、作業に戻って行った。無理もない――誰が見ず知らずの旅人を船に乗せるだろうか。


「次を当たるしかあるまいな……」


 イシュケルはこうなることを予想していたかのような口振りで言う。

 そんな時、比較的大きめな商船が入港してきた。

 白虎が倒されたことにより、遮られていた貿易が再開したのである。

 船からは様々な物資が運び出されていた。

 アレイスは思い切って、商船の船長に交渉を申し出た。


「港街だと? いくら払うんだ? 少なくとも、一人金貨五枚は貰わないと割りに合わないな」


「金貨五枚?」


 四人で金貨二十枚。決して安いものではなかった。二十枚もあれば、一ヶ月楽に暮らせる程の大金だったからだ。


「そこを何とかならないですか?」


「そう、言われてもねぇ……そうだ、あんたら見た所、腕っぷしが良さそうだな。用心棒としてならただでいいぜ。最近、海には頻繁に極楽鳥が出てな。大事な貴重品が奪われて困ってんだ。なぁ、頼む」


「そんな簡単なことでいいなら……」


「話は決まったな。丁度これから、港街に行く所だ。頼んだぜ」


 船長はそう言うと持っていたウイスキーをぐびぐびと飲み干し、船に戻って行った。


「何とか、目処がついたな。しかし、絶滅した極楽鳥がいるとは……やはり、ここは過去の世界なんだな……」


 アレイスはここが過去の世界だと再認識し、絶滅した極楽鳥に会える喜びを感じていた。だが、その極楽鳥が厄介な存在になろうとは知るよしもない。


 やがて船はアレイス達を乗せ、港街に向け出港した。

 出港して沖に出るまでは、波が穏やかだった。しかし、外海に出ると噂通り、極楽鳥が空から様子を伺い始めていた。

 基本的に光る物に目がない極楽鳥にとって、商船に積まれた金銀財宝は魅力的なのであろう。

 一羽の極楽鳥が船の周りを旋回し始めると、次々と極楽鳥が集まってきた。


「これ程、集まってくるとは……」


 アレイス達は船で休むことなく、甲板で迎撃態勢を取った。


 一羽の極楽鳥が急降下してくる。大きなくちばしは、それだけで凶器だ。

 だが、それだけではない。その巨大な翼と、鉤爪も脅威だ。万が一、連れ去られようものなら生きては帰れない……そんな、御伽噺のような伝説も伝わる程だ。


「接近戦には注意しろ! 船には近付けるな!」


 極楽鳥の情報を知っているが故に、アレイスは細心の注意を促した。


「クァァァ!」


 極楽鳥はアレイスとミネルヴァ目掛け、攻撃を仕掛ける。恐らくアレイスの王者のマントと、ミネルヴァのマナの指輪の光が極楽鳥のターゲットになった原因だろう。


 ミネルヴァは空気中に存在する電磁波と、海水を増幅させ雷を発生させた。


「行きます。それ――っ!」


 ミネルヴァの放った雷は、何本もの柱になり極楽鳥の逃げ場を防いだ。

 雷に弱い極楽鳥は高圧の電撃に打たれたように、次々に海に落下して行った。

 この勝負――ミネルヴァに軍配は上げられた。

 一方のアレイスは、意外にも苦戦を強いられていた。もともと、空中戦にはめっぽう弱いアレイスは、極楽鳥を追い払うだけで精一杯だった。


「アレイス、ここは私に任せて」


 空中戦の得意な睦月がアレイスの前に出る。

 睦月は甲板を蹴りあげ、空高く跳躍し、極楽鳥の鮮やかな翼を切り落とす。翼を失った極楽鳥は、甲板の上でのたうち回った。


「アレイス、こいつらは食料に適している。ここは睦月とミネルヴァに任せ、我々は極楽鳥の回収をするぞ」


「こ、こんな鳥、食べれるんですか?」


 アレイスは思わず聞き返したが、イシュケルは極上の珍味だと言う。


 そうこうしてるうちに睦月とミネルヴァが極楽鳥を全て追い払い、食料になる十羽程度の極楽鳥だけが残された。

 イシュケルや船の乗組員は極楽鳥を喜んで食べたが、アレイスや睦月、ミネルヴァは口にすることはなかった。


 それからは極楽鳥の襲撃もなく、船は穏やかに航海を続けた。


「そろそろ港街に着くぞ!」


 見張りの乗組員がそう言うと、船は港街の船着き場に入港した。


「世話になったな。これは、極楽鳥の燻製だ。保存食としては勿論、体調回復にも優れている。持っていきな!」


 船長は極楽鳥の燻製をイシュケルに笑顔で渡した。


「すまない……」


「いいってことよ。また何かあったら、言ってくれよ」


 船長はそう言うと、持ち場に戻って行った。


 アレイス達は港街で停滞することなく、直ぐ様炭鉱へと向かった。

 以前アレイス達が訪れた時にはなかった怪しげな霧が、炭鉱から溢れ出る。


「何だ、この霧は?」


 何かに導かれるように霧を辿る。魔物の気配は感じられないが、異様な雰囲気を醸し出していた。


 霧の発生源とも言える炭鉱の奥底は、歪んだ空間が顔を覗かせる。恐らくここが、マナの言っていた空間の狭間であろう。

 アレイス達はなんの躊躇もなく、そこに飛び込んだ。



――優しく包み込む光が、アレイス達を包む。



「来ましたね。お待ちしていました」


 宮殿の前で、マナがアレイス達を待ち構えていた。


「あなたが、ミネルヴァ……」


「はい……」


 マナはミネルヴァを見るなり、目を細めながらそう言った。


「やはり、あなたは私の娘……信じられないかも知れませんが」


「あなたが私の母さん?」


 次の瞬間、ミネルヴァの身に付けていたマナの指輪が激しく光る。


「ミネルヴァ……今まであなたを一人にしてごめんなさい……。あなたがここから消えた時、諦めずに探すべきでした……」


「…………」


 ミネルヴァは真実を受け止めれず、言葉を失った。当然と言えば、当然のことだろう。


「マナ……まさかとは思っていたが、やはりミネルヴァの……」


「えぇ、アレイス。でも、言い訳はしません。ただ一つお願いがあります……」


 マナは羽織っていた白い布を脱ぎ去ると、真紅に燃える怪鳥に変化した。

悲しげな表情で、マナは語る。


「そう……これが私の姿。騎馬四天王最後の一人……“朱雀”(すざく)です……」


 マナの正体を知った一行は驚愕した。


「さぁ、ミネルヴァ。あなた一人で、私にかかってきなさい……」


 朱雀マナはミネルヴァただ一人を指名し、燃え上がるような翼を広げた。


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