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魔王が育てた勇者が牙を剥く  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第七章 更なる力は限界を越えて
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回避できぬ悲劇

 天馬を失った白虎は、イシュケルより素早さが劣っていた。何より、大振りの攻撃が大きな隙を作っていたのだ。

 激しい打ち合いの末、鍔迫り合いにもつれ込む。素早さが劣る白虎だが、力はイシュケルより上手だった。

 両手が痺れる程の強さが、イシュケルを徐々に追い込んだ。


「うぉぉぉぉ!」


 イシュケルは力を解放し、バーストタイプにチェンジした。押されかけていた体勢を取り戻すかのように、押し返す。


「死ね――っ! 魔斬鉄――っ!」


 下半身に体重が十分に乗りきらないも、イシュケルは魔斬鉄を放った。


 白虎は身体を仰け反らせ回避するも、右腕に魔斬鉄を喰らった。右腕からは骨が見えるほど肉が抉れて見える。


「ぐぉぉぉ……」


 白虎は右腕を抑えながら、のたうち回った。


「ちっ、外したか……運のいい奴め!」


「ぐぉぉぉ……」


 のたうち回っていた白虎が目を見開く。


「……何てな? 恐ろしい技だ。まともに喰らってたら、まずかったな……」


 白虎はそう言った後、静かに瞑想した。すると、傷は何事もなかったかのように塞がっていった。


「な、何だと?」


 イシュケルは、追い討ちをかけようとしたが攻撃をやめた。

 不完全な魔斬鉄だったとは言え、あれほどの傷を一瞬で回復してしまう白虎を見て、戦意を失ってしまったのだ。そう、それはある意味、死を予感させることでもあった。



「私の負けだ……」



 かの大魔王ジュラリスを倒した百戦錬磨のイシュケルも、いよいよ風前の灯かと思われたその時、白虎は言い放った。




「許すはずなかろう?」


 二人の間に、木枯らしが吹き抜ける。


「と、言いたいところだが、我は優しい……」





――どうだ? 我の元で働いてはみぬか? 





 白虎の目は蒼白い光を放った。思わず凝視してしまったイシュケルは、自分の意思とは裏腹に白虎に賛同してしまった。


「それでよい……今からお前は、我の部下だ。精進せよ」


「有り難きお言葉、このイシュケル、白虎様の為に働く次第です」


「うむ、いい返事だ。時に、イシュケルよ。青龍を倒した奴は何処にいる?」


「恐らくまだ、アルタイトにいるかと……」


「アルタイトか……そう遠くないな……。よし、挨拶がてらそいつらを倒しに行くぞ」


「承知!」





 心の奥底でイシュケルは抵抗を続けていたが、白虎の洗脳する術はあまりに強く、言われるがままするしか方法がなかった。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、アレイスサイド。


 アレイスと睦月のケンカにミネルヴァは振り回されていた。


「二人共、いい加減にして下さい」


 アレイスと睦月はお互いの背中を向け、険悪なムードになっていた。


「アレイス……睦月……もう……知らない」


 ミネルヴァはしゃがみ込み、泣き始めてしまった。さすがにアレイスは放ってはおけず、ミネルヴァに駆け寄った。


「ミネルヴァ……すまない」


「私にじゃなく、睦月に謝って下さい」


「ミネルヴァいいの! こんな薄情者!」


「睦月も許してあげてくださいよ」


「い~や~だ」


「そんなこと言っていいんですか? それじゃ、私……アレイスを狙っちゃおうかしら~」


 ミネルヴァはチラリと睦月を見ながら言ってみた。


「駄目に決まってんじゃん」


 睦月は急に真顔になり、ミネルヴァに食って掛かった。冗談混じりにミネルヴァは言ったが、アレイスに想いを馳せているのは事実だった。


「二人共……静かにするんだ。イヤな予感がする……」


「まさか、騎馬四天王?」


「睦月、そのまさかだ」


 アルタイトの遥か彼方に、邪悪なオーラを放つ二人が見える。

 暗闇の中、徐々にその二人の姿が明らかになってきた。


「父上――っ!」


「待って、アレイス! イシュケルの様子がおかしいわ」


 イシュケルを確認したアレイスに、睦月が待ったをかける。


「アレイス、やはりここにいたか」


 白い毛並みを揺らした虎の横でイシュケルが言う。しかし、その虎はどう見ても味方とは思えない風貌だ。


「父上、その方は?」


 イシュケルはいきなり刀をアレイスに向け言った。


「アレイスよ、剣を抜け!」


 洗脳されたイシュケルは、蒼白く染まった目を光らせた。


「面白くなってきたな……やれ、イシュケルよ!」


 白い毛並みの虎は、アレイス達に名乗ることなくイシュケルから一歩引いた。


「さぁ、剣を抜け!」


 アレイスの喉元――五センチの所までイシュケルの刀が迫る。

 アレイスはただただイシュケルを睨み付け、歯を食い縛った。


「父上……」


――アレイス……許せ。


 イシュケルは心の奥底でそう思っていたが、自分をコントロール出来ず苦しんでいた。


「さぁ、剣を抜け!」


 いつの間にか、イシュケルの目からは涙が溢れていた。


「聞こえぬのか! 剣を抜けと言っている……」


 白虎はその光景を見て、不気味な笑みを浮かべる。


「出来ません……父上に剣を向けるなんて……」


 アレイスもまた、涙が頬を伝う。


「ならば、死を選べ!」


 イシュケルは刀を振り上げ、アレイスの首筋に狙いを定める。


「やめて――っ!」


 睦月が二人の間に割ってはいる。


「睦月よ、退け! 退かねば貴様も殺す!」


「いいえ、退きません」


「睦月……俺は大丈夫だ。父上にも何か理由があってのこと……。この勝負、受けて立ちます」


 アレイスは意を決し剣を構えた。


「それでこそ我が息子だ。手加減は要らぬぞ」


「睦月、心配するな。下がっていろ!」


 アレイスは一旦間合いを取り、様子を伺った。

 イシュケルも同じように間合いを取り体勢を整える。

 そして、かつてない死闘は始まった。


「はぁぁ――っ!」


 先手を取ったのは、勿論アレイスだ。コンパクトに構えた剣に隙はない。

 アレイスの連打する剣と、それを受け止めるイシュケルの刀の金属音が鳴り響く。

 イシュケルは反撃のチャンスを伺うが、徐々にアレイスに押されていった。


「アレイスよ、さすがだな。だか、簡単にはやられはせんぞ!」


 追い込まれたイシュケルはバーストタイプにチェンジし、アレイスを押し返す。 すると、負けじとアレイスもバーストタイプにチェンジする。どう考えても、イシュケルの方が不利なのは明らかだった。


「父上……俺は貴方に勝つ!」


「笑止! 息子に負けるほど落ちぶれてはおらん……」


 イシュケルは魔斬鉄の構えを見せる。瞬時にアレイスはそれを悟り、迎撃態勢を取る。


「喰らえ、魔斬鉄――っ!」


 完璧と言っていいほど絶妙のタイミングで、魔斬鉄それは放たれた。


「面白い戦いだったが、これで終わったな……」


 後方で佇む白虎は、戦いに終止符ピリオドを打たれることを感じた。


 周囲にある全ての物を巻き込むくらいの凄まじい勢いで、イシュケルはアレイスの懐に飛び込む。


「残像魔斬鉄……」


 それに対抗するかの如く、無防備な体勢からアレイスは迎え撃つ。



――肉を切り裂く生々しい音。



「ぐはっ……」



 痛手を負ったのはアレイスだった。

左腕から吹き出す気高い血。


 しかし、数秒遅れてイシュケルが頭から地面に倒れ込む。地面から沸き出るように溢れる血の泉。


「み、見事だ……」


 イシュケルは全身から血を吹き出し、そのまま意識を失った。


「睦月、ミネルヴァ! 早急に父上の怪我の手当てを」


 アレイスは正確に急所を外し、イシュケルを瀕死に追い込んだ。通常では考えられない神業だ。


「そうは、させんぞ! 我の楽しみを奪わせはせん! 今度はこの白虎が相手だ。覚悟はいいな! そのはらわたかっ捌いてやるわ……」


 イシュケルを介抱しようとしたその時に、遂に白虎が重い腰を上げた。


「貴様が父上を……許さない……許さないぞ」


 アレイスは剣を翳しながら白虎に向かい突進した。


「騎馬四天王を舐めるな! 貴様如きに我は倒せん。青龍とはわけが違うぞ!」


 剣と長刀が交差する。白虎の渾身の一撃が、王者のマントを掠める。


「虎野郎――っ! どうやら、口だけではないみたいだな」


「強がりを……」


「俺も少し本気を出さないと失礼のようだな。剣士として、最高の最期を与えてやるぜ! 喰らえ――っ! 天地烈波斬――っ!」


 何処からともなく地響きが聞こえ、大地が震える。立っているのも困難なくらいの、地震が発生した。


「はぁぁぁ」


 アレイスは気合いを最大限まで溜める。


「こ、これは? 何が起きようとしているのだ?」


 白虎は困惑し一歩も動けない。


「待たせたな。白虎よ、自らの運命を呪うがいい……」


 まるで、風が通りすぎるかのように、静かにアレイスの剣が白虎の肉体を突き刺す。



「ぎゃぁぁぁ」



 白虎はこの世のものとは思えぬほどの悲痛な断末魔を上げ、その場に沈んだ。

 白虎は全身から噴水のように血を吹き出し、やがてミイラのように干からびた。


 白虎の死と同時に、汚染された中央広場の噴水もかつての清い水に戻り、イシュケルに掛けられた呪いも消え去った。


「アレイス~! 凄い技ね」


「……はぁ……はぁ」


 睦月がアレイスに駆け寄るも、言葉を返せないほどアレイスは疲労していた。それだけ、この技には負担が掛かっていたのである。



 睦月とミネルヴァの治療の甲斐もあり、イシュケルが目を覚ました。

 アレイスは誰とも言葉を交わすことなく、噴水の水を頭からかぶっていた。


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