表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が育てた勇者が牙を剥く  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第七章 更なる力は限界を越えて
61/69

その想い……旋律に乗せて

 遂に現れた騎馬四天王の一人――青龍。巨大なその身体とは裏腹に、身のこなしは優れていた。


「待っていたぞ、四天王。我々が貴様を倒す」


「フハハハ。戯れ言を。何を言うかと思えば……つまらんジョークはやめるんだな!」


 イシュケルと青龍は睨み合い隙を伺う。

 青龍の鋭い牙が眩く光り、三人を照らした。

 イシュケルと睦月は、駆け出し青龍を取り囲む。だが、まだ攻撃には移らない。ミネルヴァの状態を待ち、一気に仕掛ける算段だ。


「まだだ……」


 イシュケルは青龍から視線を反らさず、ミネルヴァの気配を感じ取る。お陰で青龍は、未だに攻撃を仕掛けられないでいた。


「ここは焦ったら負けだ……」


 イシュケルがそう言うと、ミネルヴァが再び赤く光り出した。


「今だ!」


 ミネルヴァの赤い輝きを皮切りに、総攻撃を仕掛ける。


「ふぬっ!」


 まず地上からイシュケルが刀を振り抜く。青龍の固い鱗は、刀を弾き返した。だが、攻撃は止まない。


「いやぁぁぁ!」


 今度は睦月が、空からプラチナソードを突き刺す。

 しかし、またしても固い鱗に阻まれ、思ったほどのダメージは与えられない。

 最後にミネルヴァの攻撃だ。既に雷と風を纏い、狙いは青龍に定まっていた。

 サハギンとの戦いより威力を増した魔法と風水は、青龍の全身を包み込む。


――魔法と風水の融合。言うなれば魔風水。


 決して派手な攻撃ではないが、確実に青龍へダメージを与えていた。


「ウグァァ……」


 青龍の悲痛な叫び声が周囲に漏れる。

 これに激怒した青龍は、反撃に転じる。それはほんの一瞬の事に思えた。


「うぐっ……かはっ!」


 青龍の頑強な牙の餌食になったのは、イシュケルだった。


「ちょこまかと……この青龍を舐めるなよ。いいことを教えてやろう……我々が何故騎馬四天王と呼ばれるかを。それは騎馬、もしくは牙の攻撃が秀でているのが名前の由縁だ。我の牙を喰らって生きた者はいない……」


 続いて青龍は睦月に狙いを定めていた。


「イシュケル、大丈夫ですか?」


 それに気付かず、睦月が瀕死のイシュケルに駆け寄る。


「む、睦月……来るな!」


「えっ?」


 肉が引き裂かれる音――青龍に背を向けた睦月もまた、牙の餌食になった。鎧は引き裂かれ、胸からは血が吹き出す。


「うぅぅ……」


 イシュケルに折り重なるように、睦月も傷付き倒れた。


「どうした? もう終わりか?」


 青龍は、牙に付いた鮮血をペロリと舐めながら言った。


「イシュケル! 睦月!」


 一人残されたミネルヴァは、希望を捨てず最後まで戦う決心をした。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、ウッディサイド。


「この船、もっと速く飛べないの?」


「暁! うるせぇよ。これでも、目一杯飛ばしてんだよ」


「二人共、ケンカしないで。空中庭園はすぐそこなんだから……」


――アレイス……待っていてね。もう少しだから。


 イセリナは呼吸をしないアレイスの頬をそっと撫でた。冷たくはなっているものの頬には赤みがあり、ただ眠っているようにも思えた。


 魔導船のエンジンはうねりをあげ、限界を越えたスピードで空中庭園へ向かった。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、アレイスサイド。


「これで、よしと……さっぱりしたわね」


「マナ、すまない……」


 アレイスは、肩まで伸びた銀色の髪をマナに切ってもらった。


「そろそろ、お別れの時のようね……」


「俺が生き返るってことか?」


「えぇ、そうよ。そんな気配がするわ。短い間だったけど……楽しかったわ」


 マナは涙を滲ませ、アレイスの肩を抱いた。


「マナ……俺も楽しかった。これほどの力を持てたのも、マナのお陰だ。感謝している。……また、会えるかな?」


 アレイスのその問いに、マナはうつむいた。


「………………ええ、会えると思うわ……」


 その答えの“間”に、アレイスは違和感を覚えたが、それは“死ななくては会いにこれないから”という意味で解釈していた。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、ウッディサイド。


 ようやくウッディ達を乗せた魔導船は、空中庭園に辿り着いていた。


「よっしゃ~着いたぞ」


 魔導船を停泊させると同時に、イセリナ達はサハンのもとに急いだ。


「おいおい、置いていくなよ!」


 一人取り残されたウッディも、サハンの元に急いだ。


「皆さん、お久しぶりです。そろそろ来る頃だと思っていました」


 そこには立派な青年に成長したサハンの姿があった。


「お前、本当にサハンか?」


 サハンをまじまじと眺めるウッディ。納得したのか、更に言い添えた。


「変われば変わるもんだな~。あの弱虫のサハンが……」


「これ、無礼だぞ! 天空族長になんたることを……」


 サハンの横にいた天空人が、ウッディに詰め寄り掴み上げた。


「族長? お前が? すげぇな」


「いやぁ……」


「それはそうと、コイツらどうにかしてくんない?」


「あ、すみません。これお前達、このお方は大事な客人だ。下がっておれ」


 サハンは自分の側近を下げると、真剣な表情を見せた。


「サハン、お願い。アレイスを生き返らせて」


 ウッディが切り出す前にイセリナが言う。


「やはり、死んでしまったのですね……身近な人に嫌な予感はしていましたが、アレイス君だったとは……。お姉ちゃん、いやイセリナさん。生き返らせるのは可能です。恐らくアレイス君は、魂までは死んでいません。魂を呼び戻せば、きっと生き返るでしょう……但し、その為には多くの精神力を必要とします。誰か底なしの精神力を持った方が手伝ってくれればいいのですが……」


「はいはい、やりますよ。その為に来たんだし……」


 ウッディはそう言いながらも満更ではなかった。現に暁やイセリナに期待されていたし、彼にしか出来ないことだったのだ。


「では、早速儀式に入ります」


「お、おう」


 イセリナは二人の前にアレイスの亡骸をそっと置いた。

 ウッディとサハンは、目を瞑り精神統一をはかる。


――滲み出る汗。二人共、時折苦しい表情を見せる。




――来い。






――戻って来い。





――皆が待っている。






「アレイス……いよいよね。さようなら……」


「マナ……さようなら……」






――眩しい光が。





――皆が。






――待っていてくれてる。





――暗闇を抜けると、懐かしい顔が見えた。



「アレイス、気が付いたか?」



――俺は生き返ったんだ。


 眩いばかりの光がアレイスを包み込み、成長した肉体に魂が再び宿る。強靭に鍛え上げられた精神と、成長した身体を伴いながら。


 それは、長いようで短くもある。まるで悠久の時を越えるかのように……。





今、再び……この地に蘇る。





「ここは……?」


「おぉ、気が付いたか、アレイス。ここは空中庭園だ。」


 アレイスが目覚めると、見慣れた顔が覗き込んでいた。困惑するアレイスだったが、それよりもウッディ達の方が驚いていた。


「お前、急に大人になったな……」


「ウッディさん、実は死んでいる間、異界で修行をしていました。異界はここより五年ほど時の流れが早いので、その為所でしょう」


「まぁ、俺には難しいことはわからねぇが、何はともあれお帰りだな」


 皆が言葉を詰まらせ、アレイスの帰還を心から喜んだ。


「母上……」


「アレイス……お帰り」


「た、ただいま」


 喜びも束の間、アレイスは直ぐ様立ち上がった。


「睦月達は?」


「まだ過去あっちの世界にいる……行くのか?」


「このまま終わりたくないんです」


「アレイス、よく言いました。それでこそ私の子です。あなたが望むなら私は引き留めません」


 イセリナは母親として、勇者として、アレイスを再び送り出す覚悟をした。


「ありがとう……母上。必ず、世界を救ってきます」


 アレイスの真っ直ぐな瞳を見て、イセリナは口角を上げた。


「そうと決まったら、急いでイシュケル魔城に戻るぞ」


 ウッディがそう言うと、サハンに別れを告げ魔導船に乗り込んだ。


「サハンさん、ありがとうございました。また、平和を取り戻したら改めて挨拶に伺います」


「頑張るんだよ、アレイス君…………」


 アレイス達を乗せた船は、再びイシュケル魔城を目指した。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、イシュケルサイド。


 青龍相手にミネルヴァは、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 イシュケルと睦月が瀕死の今、自分が倒れるわけにはいかないと、必死に食らい付いていく。


「はぁ……はぁ……私には倒すことが出来ない……」


「遂に弱音を吐いたか? 小娘よ」


 虫の息であるイシュケル達は、それを見守るしか方法がなかった。


「倒すことは出来ない……でも、食い止めるくらいなら出来ます」


 ミネルヴァを包む赤いオーラが一段と輝きを増し、ブロンドだった髪が赤く染まった。


「ここからが、私の本気です」


 ミネルヴァは精神を解放し、最後の賭けに出た。


「髪の色が変わった? ふん、だから何だと言うのだ。力の差は歴然だ。死ね!」


 青龍はミネルヴァに狙いを定め、牙を向けた。全てを噛み砕く、その牙の餌食になったら一貫の終わりだ。


「喰らえ――っ!」


 ミネルヴァの懐に素早く切り込む。


――鈍い音がこだまする……。


「貴様――っ! まだ生きていたか!」


 傷付いた身体に鞭を打ち、ミネルヴァの前でイシュケルは青龍の攻撃を受け止めた。


「ミネルヴァ……お前だけでも、生き延びろ……時期にアレイスが戻ってくる……かはっ……」


「イシュケル……」


「死に損ないが!」


 青龍は尻尾を振り回し、イシュケルを撥ね飛ばした。


「青龍……よくも! 私は絶対に諦めません!」


――アレイス、早く……早く来て下さい。


 ミネルヴァはそう祈りながら、立ち上がった。




◇◇◇◇◇◇




 一方、アレイスサイド。


 魔導船はようやくイシュケル魔城に辿り着いた。休む間もなく、呪いの鏡の部屋に急ごうとするアレイスにイセリナは言った。


「私達が手助け出来るのは、ここまでです。イシュケルにも宜しく伝えて」


「ありがとう母上。行ってくるよ」


 アレイスはイセリナに別れを告げると駆け出した。

 そして、呪いの鏡に辿り着くと、そこにはウッディが待っていた。


「行くのか?」


「ウッディさん……俺が行かなきゃ駄目なんだ……」


「“俺”? “僕”って言ってたアレイスが? 僅かな間に本当に大人になったな。……アレイス……頼みがある」


「何ですか、改まって……」


「睦月を……睦月を頼む」


「ウッディさんは行かないんですか?」


「あぁ。どうやら、俺が行っても足手まといのようだ。俺はここで暁と待ってる。睦月にはそう伝えてくれ……」


 そう言うとウッディは涙ぐんだ。余程悔しかったのだろう。自分の娘も救えない無力さに――。


「ウッディさん……顔を上げて下さい。睦月は俺が守ります。命に懸けても……」


「アレイス……強くなったな。この前まで子供だと思ったのに……。今一度言う。頼んだぞ!」


「はい!」


 アレイスはウッディから全ての思いを受け取ると、赤く光る鏡に飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ