表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が育てた勇者が牙を剥く  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第七章 更なる力は限界を越えて
60/69

譲れない強さの形

◇◇◇◇◇◇




 ――一方、イシュケルサイド。


 仄かに香る潮の香りが冷たい風に乗ってやって来る。港街は目前だ。


「もうすぐ港街なんだが、残念ながら船は出ていない……海が尋常ではないほど荒れているのだ」


 数日前、アレイスと睦月を探して訪れた時のことをイシュケルは語った。

 更に続けて、


「その時、私は歴史を変えるのは好ましくないと思い、荒れ狂う海を見過ごした。だが、今度はそうは行くまい。恐らくあれは魔物の仕業……」


「イシュケルさん。では、魔物を退治するのですね?」


 イシュケルにミネルヴァは言い添えた。


「ミネルヴァよ、私のことはイシュケルと呼び捨てしてもらって構わん。睦月、お前もだ。戦う仲間に上も下もない。わかったな?」


「はい」


 イシュケルのリーダーシップぶりに、ミネルヴァも睦月も強い信頼感を抱いた。


「二人共――いい返事だ。では、行くとしよう……」


 港街に入ると、以前より人々は飢えに苦しんでいた。路地裏で踞る者や、酒に溺れる者。街全体が崩壊しようとしていた。


「念のため船着き場へ行くぞ!」


 飢えに苦しむ人々を無視するのは心苦しかったが、今はそれどころではない。

 食糧が底をつき、あまりに不衛生な街を救うには、荒れた海を穏やかにするしか方法はないのだ。

 イシュケルの気持ちを察した二人は、無言のまま後を追う。


「やはり駄目か……」


 高潮が防波堤を突き上げ、沖からの強い風と共に船着き場まで波が押し寄せる。


「……くれ、助けてくれ。このまま海に出られないんじゃ、死んでも死にきれねぇ。俺たちゃ、海の男だ。海がねぇと……うっ、うっ……」


 厳つい顔をした漁師がイシュケルの膝にしがみつき、涙ながらに訴える。


「気をしっかりもて。ここは、我々に任せるのだ……」


「旅のお方……ありがてぇ……」


「その代わり、海が収まったら船を出しては貰えぬか?」


「容易いことでさぁ、なぁ、みんな!」


 さっきまで泣いてた男は泣き止み、いつの間に男の漁師仲間がイシュケル達の元に集まってきていた。


「男よ、約束だぞ」


 イシュケルは漆黒のマントを翻すと、その先にある桟橋に向かった。


 深く息を吸い込み、呼吸を整える。


「イシュケル、これを使って下さい」


 睦月は、シルキーベールで手に入れた日本刀を手渡した。


「これは珍しい……異国の剣だな」


「はい。私には使いこなせないので」


「私とて万能ではないのだが……ありがたく使わせて頂く……」


 会話が途切れると、一瞬静まり返る水面みなも――


「睦月、ミネルヴァ、気を付けろ! 来るぞ!」


――僅かに引く波。


 再び波が押し寄せると同時に、海面からひれを腕に纏った魔物が次々と現れる。


――サハギンだ!


「現れたか? 死ね!」


 素早く鞘から刀を抜き取り、イシュケルは前方を見渡す。


「ケケケケッ――」


 一体のサハギンが詰め寄る。すると、それが幕開けのように次々とイシュケル目掛け、サハギンが襲い掛かってきた。


 サハギン達の鋭い爪が、イシュケルの頬を掠める。


「チッ……雑魚が!」


 衝撃波を放ちつつ刀を振り回し、サハギンの腕を斬り落とす。すかさず、次のサハギンを二体纏めて胴体に打ち込んだ。


 サハギン達は攻撃の手を休めない。

海から湧き出るように現れる。


「ケケケッ――ペッ!」


 不敵な笑みを浮かべながら、更には紫の粘着性のある液体を吐き出した。


「小賢しい真似を……睦月、ミネルヴァ、援護を頼む!」


「はい」


 返事をしたのは睦月だけだった。ミネルヴァはただだだ怯え、何も出来ずにいた。


 イシュケルの援護に答えるように、睦月は空高く跳躍した。


「纏めて行くわ。炎よ、燃やし尽くせ」


 睦月は空中でプラチナソードに炎の魔法を掛け、サハギンの群れの中に飛び込んだ。足場の狭い桟橋では、極力空中は避けたいと思うのが人の心情だが、睦月は違った。母の暁譲りの度胸は、“躊躇”という言葉がなかった。


 鈍い金属音と共に、斬り付けた剣が赤い光を放つ。


 礼儀正しく睦月が両足を揃えて着地すると、斬り刻まれたサハギンの死体が三体転がっていた。


「ふぅ……」


 睦月は額の汗を何食わぬ顔で拭った。

 睦月の華麗なる剣さばきに、ミネルヴァは戦う気力を取り戻した。


「すみません……私も戦います」


「ふっ、ならば後方から支援せよ」


「はい!」


 冷たい風がミネルヴァをすり抜けると、ウッディから受け取った“マナの指輪”が怪しく赤く光る。

 すると、ミネルヴァはスゥ―っとゆっくりと宙に浮いた。更に赤く光った指輪は、ミネルヴァを赤い光で全身を覆う。一見、バリアのようにも見える。


「ひぃぃ~、あの姉ちゃん……宙に浮いてる」


 イシュケル達の後を追ってきたのか、先ほどの漁師が宙に浮いたミネルヴァを見て悲鳴を上げる。


「ケケケッケ!」


 それをサハギンは見過ごす訳もなく、五体のサハギンが漁師目掛け突進する。


「ひぃぃ、今度は化け物だぁ!」


「漁師さん、逃げて下さい」


 ミネルヴァは急いでサハギンの背中を追う。空中での移動は、地上の移動より何倍も速かった。


――直ぐ様追い付くミネルヴァ。


「おやめなさい」


 手のひらにビリビリと電磁波が集まる。

 やがてそれは熱を帯ながら強力な雷になった。更には沖からの風が、ミネルヴァに集まり始める。


「ふっ……」


 力を抜くように、指先をサハギンに示す。


 ミネルヴァの放った魔法と風水の融合は、見事サハギンを達を捉えた。桟橋に横たわる四体のサハギン……。


「一体足りない! 何処?」


ミネルヴァは懸命に辺りを見渡した。


「ケケケケッ」


 空中からサハギンの鋭い爪が、漁師の頭上を狙おうとしていた。


「どうしよう……今からでは間に合わないです」


――サハギンの下腹部に閃光が走る。


「油断するな……」


 前線で戦っていたイシュケルが、ピンチを救った。ただ一言残して、イシュケルは再び前線に戻る。これにはミネルヴァも睦月も、そして漁師も呆気に取られた。


「ひぃぃ……」


 我に返った漁師は、礼も言わず逃げ出して行く。


「イシュケルの言う通りだね。油断大敵だね、ミネルヴァ」


「そうですね」


 ミネルヴァと睦月は、再び戦闘に戻った。

 イシュケル達は体勢を整え、辺りを見渡す。あれほどいたサハギンの大群が、数体までに減少していた。それは個々の持ち合わせた能力もさることながら、協調性が出てきた表れでもあった。


「一気に畳み掛けるぞ!」


「はい」


「わかりました」


 イシュケルの号令に二人は同調する。


 睦月はプラチナソードを振り上げ、横一線に振り抜く。

 骨まで砕く破壊力で、力任せに薙ぎ倒す。


――次々と倒れていくサハギン。


 それに続けと言わんばかりに、イシュケルも強引に刀を振り抜く。


 ミネルヴァも負けてはいない。

イシュケルが仕留め損ねたサハギンに止めを刺す。


 依然として波は荒々しいままだが、サハギンを全滅に追い込んだらしい。だが、そこに安息はなかった。



――高い波がうねりをあげながら、押し寄せる。




――そして……。




 天まで昇る勢いで、巨体を震わせながらそいつは現れた。


「我は騎馬四天王が一人、“青龍”(せいりゅう)。貴様らに恨みはないが、ここで死んでもらうぞ!」


 青龍はギロリと睨みをきかせた。


「遂に親玉登場か? 睦月、ミネルヴァ行くぞ!」


 四天王が現れるのを待っていたかのように、イシュケルは冷静に対応した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ